願うならば
自室に戻って、寝ようとしただけなのに・・・。
解せぬ。
神様はよほど、私が嫌いなのかな?
それとも滅びろって言ったことを気にしているのかな?
器が小さいな、それぐらい受け流せよとか思わないでおくから、こう言う展開はやめて。本当、心底、いらない。不要、受け取り拒否、熨斗付けて返してやろうか?
おっと、失礼。
ついつい喧嘩腰になってしまった。おそらく、たぶん。心が広いであろう、温和で、温厚な優しい神様ならば、これぐらいの暴言許してくれるよね?
――と、存在不明の神に喧嘩を売るのもこの程度にして、だ。
「なんで、私の部屋にいるのかな?」
鍵をかけたはずの部屋に錠はされておらず、人がいるはずのない場所に明りがついていたことに驚いて「新たな死亡フラグか?」と戦いた私に謝れ。
いや、それ以上に不法侵入は犯罪です。
例え同じ教会内に住む者だとしても、私は犯罪だと思います!!
「部屋で寝なさい、って言ったよね? なのにどうしているのかな――オルフェ? それにアーシェまで・・・」
冷やかに言葉を告げつつ、微笑みながらオルフェを見て、次いでアーシェに視線を移した。・・・アーシェはあれかな? オルフェが私の部屋に行くのを見て、慌てて追ってきた。とかそう言う展開かな?
例え私でも、惚れた相手が夜に女性の部屋に向かうのが嫌だったんだろう。それが家族のような人間でも、複雑な気持ちになるんだろうな・・・。いや、私、真面目に恋したことないから解らないけど。たぶん、おそらく、そんな感情が働いて、二人っきりにさせないように、と言うことで私の部屋にいるんだろう。うん、きっとそうだ。
これが嫉妬と言うやつですね。
恋愛経験ほぼ皆無な私にとっては、未知の感情ですよ。あ、でも一応、私でも恋はしたことありますよ。初恋だけだけど。
女子高校生の私の初恋は確か・・・・・・・・・神社の神主をしている、ダンディな中年だったな。大人な落ち着いた雰囲気に、温和な物腰。知的な瞳に歳を重ねて出る色気がもう・・・と、友人に話したら「あんた・・・渋専? それとも枯れ専?」と真顔で聞かれたっけ。懐かしいなぁ。
私の話はどうでもよくて、だ。
「了承してないし、部屋で寝なさいって言うから来たんだけど?」
いつも通り、気だるげな口調で語ったオルフェに、思わず首を傾げた。意味を読み取れていない私に、オルフェが楽しげに笑った。あらやだ、笑顔を見ただけなのに嫌な予感がするのはどうしてかな?
「ルキアは、誰の部屋とは明言してないよ」
「!!!!」
そう言えばと自分の迂闊さに頭が痛くなった。
ああもう、どうして「自分の部屋で寝なさい」と言わなかったんだ。数時間前の私の馬鹿!!
思わず項垂れる私の傍に、アーシェが近づいて服の裾をそっと握った。何、この可愛い動作。小動物を連想させるよ。本当、流石は正ヒロイン! 行動も可愛いな、畜生。
「私もルキアちゃんと一緒に寝たいの・・・だめー?」
間延びした口調は眠気からか、さらに締りがない。
睡魔と闘っているのか、トロンとした瞳が不安そうに私を見上げて・・・。同い年なのに、どうしてこんなに色気があるの? 子供特有の危うい空気に、思わずぐらりとなりかけたよ。いや、私、ノーマルだけど。それでも危ない気持ちになった・・・。
アーシェ、恐ろしい子!!!
「ルキアちゃーん?」
「ああ、うん・・・えー・・・・・・あー・・・・・・・・・・」
「だめー?」
「駄目か?」
おい、オルフェ。何故、お前まで来た。何故、お前まで上目づかいで首を傾げる!! 男がやっても可愛くないんだよ! って言いたいのに、似合っていて可愛いすぎる!! 何これ、女として負けた気がする・・・っ。
「――――わかった、今日だけね」
しっかりと間を開けた後、渋々ながら了承した私にオルフェとアーシェが本当に、心底嬉しそうに微笑んだ。
「ルキアちゃんと寝るの、久しぶりだよー」
「何年ぶりかな・・・」
嬉しそうで何よりですが、さりげなく私を抱きしめるのは止めて。
美形に抱きしめられるとか、心臓に悪い! てか、変なフラグが立ちそうで嫌!! 慌てて二人を引き離そうとするけど、哀しげな瞳に負けました。
意志が弱いな、私・・・。
「ところで私、鍵かけたはずなんだけどどうやって開けたの?」
「鍵? ・・・・・・・・・開いてたぞ、部屋」
「へ? あれ・・・?」
怪訝な顔をしたオルフェが嘘をついているように見えなくて、私は瞠目した。おかしいなー。ちゃんと鍵、かけたはずなのに。ポケットから錆びた鍵を取り出して、オルフェが鍵を奪った。それはもう、盗賊になれるんじゃないかと思うほど素早く。唖然としたのは一瞬で、私は鍵を返してもらおうと口を開いて――止まった。
オルフェが真剣な眼で鍵を凝視し、忌々しそうに舌打ちをしたからだ。
え、何? その鍵に何か・・・あるの?
「あの・・・オルフェ? その鍵、何かあるの?」
「ルキア」
「は、はい」
「これから俺の部屋で寝て」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで?」
意味が解らない。その鍵に果たして何があると言うんだ? いや、それ以上にオルフェの部屋で寝る理由が解らない。アーシェの部屋じゃ駄目なのかな? ちらりと腕に縋りつくアーシェを見れば、アーシェもまた、真剣な眼でオルフェを見ている。
これは・・・アーシェが傷ついているよ。気づいてオルフェ、アーシェの視線に気づいて!!
無言の私の訴えに、オルフェが気づくことはなく私の手を取って部屋から出ようとする。いやいや、待て。本当、理由を教えて!!
有無を言わせず連れて行くな!!!
「訳を教えて、オルフェ。どうして、オルフェの部屋で寝ないといけないの?」
「・・・・・・・・・。この部屋が安全じゃないから」
「それって」
つまり、教会の人間が何かした。と言うことだろうか?
いつものことだけど、またくだらないことをするな。今度は鍵に細工して、私の部屋に何かするつもりなんだろうけど。・・・まさかとは思うけど、R指定のことをするとかそういうことは・・・・・・ないよねー! ないない、ゲームでも語られてないし、あるはずがない・・・・・・・・よね。
どうしよう、絶対と言いきれないのが悲しい。
もしかしてと、最悪を想像する私の頬を、オルフェがそっと、優しく触れた。思わず身体が強張って、反射的にその手を叩いてしまった。ご、ごめんよ・・・。私は平気だけど、彼女としては駄目なんだ。
あの司祭に身体を弄られた後は特に。
「俺が怖い?」
泣きそうな声で尋ねるオルフェに、首を横に振って答えた。大丈夫、オルフェ達は怖くない。人間不信だった彼女が唯一、触れても触れられても平気だったオルフェ達が怖いはずがない。
「よかった」
だからなんで、そんな心底安堵した顔で、嬉しそうに笑うのさ。
そう言う顔は、アーシェを含む嫁候補に見せなさい。
「ルキアちゃん。オルフェの部屋より、私の部屋で一緒に寝よー」
アーシェが私の腕を引っ張り、可愛らしく小首を傾げた。・・・あざとい。だが、今はグッジョブと言いたい。
ありがとう。オルフェのあんな顔を見て、私は平常を保てる自身はないよ。恐るべき主人公。カリスマありすぎて怖いわー・・・。
「気持ちは嬉しいけど、ごめんね。やっぱり私、ここで寝ることにする」
本当、気持ちは嬉しい。
もしもの展開を考えれば怖くて、本音を言えばオルフェかアーシェの部屋で寝起きしたい。この場に一秒でも長く居たくない。でも、ここは教会の人間が私に割り当てた――白銀の髪を持つ彼女を閉じ込める檻。
日当たりが悪く、所々、壊れた壁や家具のみ置かれた場所。
妹のように私を可愛がってくれた女性が、私にくれた布団一式以外は全部、破損品。彼女は文句を言わず、不満を口にせず、与えられた物を大事に使っている。
ここは、彼女が暮らしている部屋だ。
だから怖くても、私は離れられない。
彼女は私で、私は彼女だから――。
「・・・・・・・・・なら、これから俺も一緒に寝る」
「オルフェ」
「それならルキアも、怖くないだろう?」
オルフェはどうやら、私の恐怖を見抜いていたようだ。
「私も一緒に寝るー!」
「アーシェは駄目」
挙手をしたアーシェを、オルフェが即答で切り捨てた。おいおい、アーシェが絶望したような顔をしているよ。オルフェ・・・あんた、アーシェの複雑な恋心を理解して。本当、一部でもいいからっ。
そうじゃないと私、安心して死亡フラグ回避に専念出来ないよ。
遠い眼をする私から離れ、二人は何やら小声で話している。何を話しているのか興味が刺激されて近づくと、オルフェが勢いよくこちらを向いた。・・・心臓に悪い。
「とりあえず今日は、アーシェも一緒にここで寝ることになったから」
とりあえず今日は、の部分がとても気になるのですが・・・。本能が気にしたら負けだと告げたので、気にしないでおこう。
「ルキアちゃん、お布団持ってきた」
いつの間にか、アーシェが自室から掛け布団を持ってきていた。本当、何時の間に? ついさっきまでオルフェと話していたよね?
「枕は・・・まぁ、なくても問題はないな」
あの、私を残しててきぱきと寝る準備を整えるのは止めてくれない?
アーシェは持ってきた掛け布団を床に敷いている。うん。確かに狭くて壊れた私のベッドで寝るよりは、床で寝た方が安全だろうけど・・・。
「ルキアは真ん中な」
「ルキアちゃんは真ん中ー」
何故、私を挟んで寝ようとするのさ!! そこは、アーシェが真ん中でしょう?! ああー! どうして二人して端っこで寝るの! 私を真ん中に連れていくな! あ、こら、身体を倒すなオルフェ!! くそう、アーシェ、場所交換して。ほら、意中の相手と近づくチャンスって・・・ああ、ごめん。そうだよね、好きな相手が隣にいたら、寝むれなくなるよね。気づかなくてごめん。
でもさ、これってチャンスだと思うんだよね。他の嫁候補と差をつける絶好の機会だと思うだよ。
だから勇気を振り絞って、アーシェ!!
と、思ったのにアーシェは無邪気に私の腰に腕を回して胸に頬ずりしてくる。あの・・・ちょっと、同性でも恥ずかしいんだけど。
困惑し、慌てる私に気づいているのかいないのか、おそらく後者であろうアーシェは嬉しそうに笑って私にお願いした。
「ルキアちゃん、ぎゅーってしてー」
それは・・・・・・・・・・・・・・・オルフェに頼んで。
個人的に、アーシェとオルフェが寄り添って寝ている姿が見たいの。オルフェ×アーシェ推進派としては、是が非でもみたい光景なのさ。だからアーシェ。それは是非とも、オルフェにお願いして。
そして真ん中で寝て。
「駄目?」
「いいけど・・・」
潤んだアーシェの眼に、屈しました。本当、意志が弱いよ私。
ご要望通りアーシェを抱きしめると、頬を染めて嬉しそうに胸に顔を埋める。うん、だからそう言う表情はオルフェに見せて。
間違っても同性に、私に見せる表情じゃないよ。それは。
苦笑し、アーシェの頭を優しく撫でれば、蕩けるような表情をされて思わず手が止まった。・・・・・・まだ十歳でその表情は、犯罪です。
本当、将来が怖いよアーシェ・・・。
「オルフェ?」
本気でアーシェの将来を心配する私に、オルフェが背後から抱きついた。唐突な行動に瞬き、名を呼べばオルフェが複雑な顔をして抱く腕を強めた。・・・何? 私何かした? アーシェに構いすぎていじけた・・・なんてことはないだろうけど。
「俺にも構え」
あ、いじけていたのね。
「私より年上なのに、甘えたさん?」
「・・・・・・一つしか違う」
不機嫌な顔をするオルフェがおかしくて、私はアーシェの頭を撫でていた手を動かして、肩越しにあるオルフェの頭を撫でた。少し無理のある体勢だけど、まぁ、撫でることは出来る。
撫でられて機嫌は直ったんだろう、オルフェの顔は・・・・・・見ているこちらが悶絶するほど、幸せそうだった。
ふと、アーシェが気になって視線を向ければ、規則正しい寝息を立てて寝ていた。ふむ、頭を撫でられたことで睡魔に負けたか、はたまたオルフェが近くにいて緊張に意識を手放したか。個人的に、後者だと考える。
「おやすみ、アーシェ」
「? ああ、寝たのか」
オルフェの頭を撫でるのを止め、アーシェの肩にタオルケットをかけ直す。ただでさえ身体が弱いのに、今日は水の神霊術を使って私を癒してくれた。まだ、疲れは残っているはずだから、風邪をひいたら肺炎になりそうで怖い。
ぎゅっと、強くアーシェを抱きしめれば、アーシェが嬉しそうに寄り添ってきた。その行動にまるで母親になった心境を抱いて、母性ってこう言うのかなー。なんて考えて失笑した。
オルフェが私の身体から片腕を外し、頭を優しく撫でた。
「・・・・・・俺達も寝よう、ルキア」
「うん、そうだね。・・・おやすみ、オルフェ」
「おやすみ、ルキア。いい夢を」
頭を撫でる手が、優しく私を睡魔へと誘う。
今日は色々とあったから、脳が休息を求めていたんだろう。
私はすんなりと、夢の世界へ旅立った――。
ああ、願うならばどうか、幸せな夢が見れますように・・・。
話がおかしくならないよう、がんばろう。読んでくれる人がいるから、なおさらに。・・・文章がおかしかったらごめんなさい。