お客様その1:降霊
町のはずれの暗い路地裏。
そこで私は占い屋…みたいな物を営んでいる。
この町に住む者はこの路地に近づかないが、こいつは違う。
ずいぶん度胸があるらしく、何の躊躇も無くこの路地裏に入って来た。
「うぃ〜…ヒック。ちっと飲みすぎたかなぁ?」
訂正、単に酔っているだけだ。
べろべろに酔った会社員風の男は、私の店の前で立ち止まり、言った。
「おやぁ〜、姉ちゃん占い屋かい?」
「そうだが」
息は酒臭いし、顔は下品だし嫌気がさすが、商売柄返答はしておく。
態度はそっけないが。
私の気持ちも知らず、男はさらに話を続ける。
「ちょうどいいや、ちっとばかし占ってくれや。今日、会社を首になっちまってよぉ…三十年ずっと尽くしてきたのにな……」
「それはご不幸なことで…」
「…というわけで、これからの俺の運勢、占ってくれよ」
「それは構いませんが、私は占いをするのではありません」
それはさっきも言った通り。
私の商売は占いではない。
様々な力を持つ霊体を人間の体に降霊させること。
そして、その霊体は取り付いた人間に様々な力を与えるが、代償として、取り付いた人間の寿命を奪っていくという事。
…以上の事をこの会社員に説明したのだが、酔っ払っているのでどうも解ってないらしい。
「…まぁ、何でもいいんだがな、俺は金がほしいんだ。金運はどうなってる?」
というか、まったく解ってない。怒るぞ?え?
「……今降霊させますから、少しの間眠っててくださいね?」
我慢の限界に達した私は隠し持っていたバットで男をぶん殴った。
ぐぅ、と声を上げ、男が気絶した合間に霊体を呼び寄せる。
「…姐さん、何か用ですかい?」
白いもやが人の形をしているような奴が私の目の前に現れる。
あの男は金が欲しいと言っていた。
こいつは霊体の中でも金儲けに関してはぴか一の才能を持っている。
「この男に取り付いて、好きなだけ金儲けしてきて。後、姐さんって呼ぶな」
「金儲けですね、オッケーっス!」
もやは男のズボンをずらし、男の尻の穴から入っていった。
いつも思うのだが、もうちょっとましな入り口は無いのだろうか。
「う〜ん…」
もやが取り付いてから十分は経っただろうか。
眠っていた男は半ケツのまま目を覚ました。
その後自分の置かれている状況に気付いて、全身の毛が逆立ちしそうなくらい気持ち悪い声でエッチ、と言った。
もう一度殴ろうか…
「で、嬢ちゃん、俺の金運は?大凶かな、やっぱり」
「今のあなたは猛烈に金を稼ぎやすくなっているはずですよ。頑張って金儲けしてくださいね」
「それ、本当か?…でも、確かに、生まれ変わったような気分だ」
「そうでしょう、そうでしょう」
「あ、お代は?俺金無いんだけど…」
「お金なんか必要ありませんよ」
「そ、そう…助かるよ…」
そう、私にお金など必要ない。
霊体が奪った寿命こそが私の財なのだから。