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ワールドチェンジ  作者: シュン
勇者
9/14

月一祭り

更新、遅くなってすみません。入試などでドタバタしておりまして……

 夕日が沈んだ頃、僕らはおねえさんと一緒に外へ出た。

 花の街とはいえ、石の街よりは発展している。飲食店が多く、花屋も多いってだけなんだけどね。

 今日は月に一度の自然感謝の日、らしい。月に一度、祭りがあって、品物が安くなったりするとか。

 月に一回って、いくらなんでも多過ぎると思う。


「ハゼノくんは、どこから来たの?」


 花の公園前のベンチに座っていると、おねえさんがそんなことを訊いてきた。

 チィは僕の膝の上で、綿菓子のようなものを食べている。30Gだけど、安いのか高いのか、分からない。


「言えないです、すみません。おねえさんはここで育ったんですよね」


 異世界なんて、にわかに信じられるものじゃないし。

 ここは適当に話をはぐらかそう。


「あぁ、まだあたしの名前、言ってなかったわね。サナって呼んでね」


 おねえさんと呼んだ時に気付いたんだろう。サナさんは、ニコっと笑う。

 初めて見た時も思ったけど、綺麗な人だなぁ。


「サナさんですね。分かりました」

「ますたー、おなかすいたー」

「チィは今、お菓子食べたでしょ」


 糖分の塊だし、空腹は満たされないだろうけど。


「こういうのって、初めてだなぁ」


 遠くから誰かの歌声や、演奏が聞こえてくる。毎月するにしては規模が大きいな。


「え? ハゼノくんはこういうの、来たことがなかったの?」

「あったと言えばあったんですけどね。忙しくて、とてもそんな暇はなかったんですよ」


 落ち着いたのも、ここ最近だ。


「あたし、何か買ってくるよ。何がいい?」

「じゃあ、何か甘いものをお願いします」


 どうせ僕が行くって言っても、断られるだろうしね。

 えっと……


「チィはどうする?」

「ますたーといっしょ!」

「分かったわ。ちょっと待ってて」


 サナさんはベンチから立ち上がり、人ごみの中へ紛れていく。


「ねー、ますたぁ」

「ん、なに?」

「なんだか、いやなかんじがする」


 嫌な感じ? サナさんがいなくなってすぐに、チィは僕のお腹くらいに抱きついて、目を瞑る。

 子供とはいえ、チィは神様だ。

 何か危険なことが近付いているのかも知れない。


「よし。サナさんが帰ってきたら、すぐにここから離れよう。それでいいね、チィ」


 返事はない。僕の声を聞く余裕がないほど、チィは怯えていた。

 何がチィをこんなに怖がらせるんだろう。

 綿菓子で手がベトベトになっているかも知れないから、後で清めの光、使ってもらおう。

 灯りは少ないし、人も少ない。僕にとっては安心できる場所なんだけどね。


「おい、カボチャング様のお通りだぞ。平伏せい!」


 そんな場所も、変な人達のせいで安心できる場所じゃ、なくなる。

 僕の右側から歩いてきた青年? と兵士三人くらいが僕に絡んできた。

 そこの人達には何も言わなかったくせに。


「僕に何か用ですか?」

「チャング様に平伏せと言っている!」


 チャング……名前って省略していいものなの?


「平伏すのは、無理ですね」

「貴様、チャング様に歯向かうのか!」


 兵士が腰の剣を抜き、僕の喉元に切っ先を当てる。少しでも力を加えれば、皮が裂ける距離だ。

 もう、めんどくさいなぁ。


「よい。下がれ」

「しかし、この者はチャング様に御無礼を」

「我は下がれと言っている」

「はっ」


 王様って、一人称全員「我」なのかな。

 後ろで腕を組んで立っていた、カボチャングが兵士に言葉を掛ける。

 何か言いたげな兵士だったが、剣を納め、チャングの脇に立った。

 チャングは僕に近付き、まじまじと顔を見つめる。

 頭にカボチャを付けてるだけでカボチャングっていうのは、安直だと思う。


「ふむ。美しいな。我と来い」

「ダメだ。俺の彼女だからな」


 と、後ろから現れたのは鉄鎧で守りを固めた若者。僕と同じくらいの年かな?


「あの、僕女……」

「お主は誰じゃ」

「俺か? 俺は石の街から来た勇者さ」


 ベンチの背もたれの上に立つな。折れる。


「腰の剣はなんだ? あの野蛮な石の民が、このような物を作れるとは思えん」

「おっさんがくれたんだよ。南のほこら、とかいうところで化物殺したお礼とかでな」


 あれまだやってたんだ。あの王さん懲りないねー。


「女をやるとか言われたが、断った。もうなんだか病んでたんでな。俺の彼女と同じくらい美人だったのに、残念だ」


 そりゃ、あんな役何度もやらされてたら心壊れるよね。あの傷は、本物だったし。

 あの王様、自分の娘をなんだと思ってんだろ。


「あのですね、僕は女じゃ……」

「心が壊れていなかったら貰ったのか」

「人を所要物みたいに言うな。まあ、壊れてなきゃ一緒に連れていったよ」


 壊れてたら旅とか、できるわけないもんね。というかいつになったら僕の話、聞いてくれるんだ。


「ふん、貴様のような小僧が、この娘の所有者だとは思えん」

「そろそろ僕怒りますよ?」


 誰の所有物にもなった覚えはない。


「お前も小僧だろうが。なら、こうしよう。お前が勝ったら、こいつはお前にやる。俺が勝ったら、俺が貰う。これでいいな?」

「あの、話を……」

「いいだろう。お主ら、少し下がっておれ」

『はっ』


 三人の兵士が、三歩後ろへ下がる。うーん、僕に被害がないならいいや。


「そこのベンチの足を、多く斬ったほうの勝ちだ。いいな」

「いいだろう」

「待って。全然良くない」


 チィが起きちゃうじゃないか。折角恐怖から開放されて、夢の世界に行ってるのに。


「よし、おい、お前。スタートを頼む」

「うむ、頼んだぞ」


 なんで僕がこんなことになるんだ。


「早くしてくれ」


 まだ一秒も経ってないよ。


「我は忙しいのじゃ」


 じゃあ何でこんなところにいるんだよ。


『早く』


 足斬られたら困るんだよ。もう……


「お前ら、そこから一歩でも動いたら息の根を止める。そして、僕の話を聞け」


 あ、固まった。時間が止まった。

 無言ってことは、了承ってことだよね?


「よかった、分かってくれたんだね。僕も、(てあらなこと)

したくないから、一度で聞いてくれると嬉しいよ」

「なんだ? 背筋に悪寒が……」


 字が違うからじゃない?


「まず、僕は男だ。そこを勘違いしないでね。質問は受けない。驚いたら命を貰う。説明がめんどくさいからね。そんで、決闘も他の場所でやって。迷惑だから。それだけだよ」

「お、俺はお前のためを思って……」

「なんとなく分かった。でも僕の話聞かなかったし、決闘の仕方に問題があったからなしだよ」


 勇者の顔を見ず、人混みのほうを見ている僕。

 あ、サナさんだ。ジュース買ってきてくれたんだね。


「余計なお世話だったか」

「で、では勇者よ、あの広場で決闘をしようぞ!」

「おう!」


 二人は意気投合して、逃げるように走り出した。そんなに慌てなくても。


「あの二人、ハゼノくんの友達?」


 サナさんが、僕に缶でできたジュースを手渡す。

 なんか、全然異世界って感じがしない。


「ジュース、ありがとうございます。あの二人は、全く知らない人ですよ」


 あの二人、結局何者だったんだろう。


「モテモテね」

「やめてください」


 気付けば、祭りの騒ぎはもう収まっていた。夜が更けたってことかな。

 こうして、異世界での一日がまた終わる。


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