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ワールドチェンジ  作者: シュン
始まりの旅
7/14

安心一番

「チィ、次は石の街だって。」


 森の中、僕は歩いている。

 返事をしないチィは、僕の腕の中で眠っていた。

 気持ちいいもんね、今日も。

 腕の下から覗けば、天使のような、あどけない子供の顔がそこにはあるんだろう。

 俯いて寝ているチィの顔は、ここからじゃ見ることができない。ちょっと残念。

 さっき地図で確認したら、街から少ししか離れていないところに青い点が灯った。もうすぐなんじゃないかな。

 西の森は、難なく抜けることができた。この森もまた、何のトラブルもない。

 魔物とか出てきそうだけどね。魔物はまだあの花しか出てきてない。

 僕のは自然と友達になれる魔法らしいけど、あれは自然よりの魔物だからね。一応自然破壊にはならないよ。

 そういえば、この世界の人も自然破壊に近いことをしているのかな。

 もし魔王とかがいるとして、助けるかどうかはこの世界の人を見てから決めよう。なんて、上から目線で思ってみる。

 どっちにしろ魔王と戦う気はないけどね。怖いし。


「う、ん」


 眠っているチィから、気持ち良さそうな声が漏れる。

 寝てばっかだな、この子。


「ますたー……もう、ついた?」


 あ、起きた。ここからじゃ、チィの緑髪しか見えないから分かりづらいな。目とか開いてるかどうか分からないし。


「まだ着いてないよ。もうすぐだと思うんだけどね。あ、もうちょっと寝たいんなら、リュックの中に入るといいよ。折角貰ったのに少量の食べ物しか入ってないし」


 お金と地図はポケットの中。


「ううん、おきてる」


 チィは軽く首を振り、上を見上げる。眠そうなチィの瞳が視界に入った。


「ねーますたー」

「ん、なに?」

「ますたーって、勇者、じゃないの?」


 あー、王様に言った後、そのままだったんだっけ。すっかり忘れてたよ。


「チィは、僕が勇者じゃなきゃいや?」


 別にどっちでも良さそうな顔をしているチィに尋ねてみる。

 僕は、勇者だと認識されるのは嫌だね。先入観とかがあるから。


「いやじゃないよ。チィは、ますたーをたすけるために、いるんだから」


 そう言って、ニコリと笑うチィ。いい子だね。


「僕は勇者だよ、多分ね。あの剣も引き抜けたし」


 チィに嘘吐いてもしょうがないし、正直に言う。

 勇者と知った後も、僕を見るチィの表情は、何も変わらなかった。

 期待も、失望もない。


「やっぱりますたーは、勇者、なんだね。王さまにいったのはおとなのじじょう?」

「うん、そうだね」


 大人の事情なんて、都合の悪いことを隠すためのものだからね。

 確かに、僕は王様に勇者だということを知られたくなかった。期待を込められたり、利用されたくないもの。

 そういうのはもう、コリゴリだから。


「あ、ここだね」


 森を抜けてすぐの場所。木のせいで見えなかったんだ。

 やっと着いた石の街。しっかり休みたいところだ。

 前の場所じゃ、ドタバタして終わっちゃったしね。





 城門なんて威圧的なものはなく、住民も簡単に街の中へ入れてくれた。

 街と言っても、石畳はないし、大きな建物も少ない。逆に、畑はそこらに見られた。

 田舎だね。人工的なものより、自然のほうが多い。

 前の街よりは落ち着いている。昼ということもあって、それなりに騒がしいけどね。

 僕は今、街唯一の建物、博物館に来ている。それでも石像を飾る台しかない、簡単な博物館だ。


「こういうのはよく分からないけど、すごいね。まるで人間を石にしたような感じ」


 チィにはつまらなかったようで、また眠ってしまった。

 僕もそんなに面白いとは思わないけど、本当に寝てばっかり。

 リュックの中に入れたのは、チィが眠ってから。起きたら怒るかな?


「お客様、少しあちらで休まれてはいかがですか?」


 僕の近くにいた店員らしき人が言う。ここの博物館は、飲食店と一緒になっているらしい。

 まだ十分くらいしか経ってないんだけどなぁ。


「はい、ありがとうございます」


 博物館は無料だが、食べたりするのは有料だと言っていた。安かったらいいな。

 一分も掛からずに席に着く。

 ここにも石像が飾られていて、少し不気味な雰囲気が漂っている。

 どれも、苦しそうに首を抑えている姿で、男、女、子供、老人と揃っている。

 なんか、嫌な予感がするな。


「お客様、メニューはどうされますか?」


 メニュー表を持って僕の近くに立つ店員。

 ここで食べ物を頼んだら負けだ。そう感じた。

 普通は感じると思う。こんなの、安心できるわけないじゃないか。


「すみません。少し休みたいから座っていただけで……すぐに出ていきます」


 近くのリュックを持ち上げ、僕は石像の博物館を後にした。





「野宿が一番なんだよ、きっと」

「ますたー、チィはいえでねるのがいちばんだとおもうよ?」


 あの石の街で軽く買い物を済ませた後、僕は街を出た。

 残りは1000Gで、まだ余裕はある。

 あの博物館から、飲食類は毒とかが不安だったので、火をつけるための発火球を五個。

 衝撃を与えると火を出す、不思議な球だ。

 次の街へ向かう途中の森。そこで、僕ら二人は話していた。


「あそこは危険すぎるよ。多分、人を石に変えているんだと思う」

「なんで?」

「そこまでは分からないけど」


 あの人達の内側はきっと、恐ろしい感情で満たされているんだと思う。

 パチパチと燃える発火球に、土を掛けて消す。こうすれば、また使えるらしい。


「今日はもう遅いから寝よう。ここまで離れれば、あの人達も来ないだろうし」


 今日一日歩いてきたんだ。僕を追うほど、あの人達も暇じゃないだろう。


「チィがみはってあげるよ!」


 僕の膝の上でチィは言う。でも、魔物もいないし、狂人もいないし、見張る必要ないと思う。


「ありがとう。でも、いいよ。夜はちゃんと寝ないと風邪引くよ」


 ポンポン、とチィの頭を叩く。


「でも、あぶないよ?」

「大丈夫。自分の身くらい自分で守れるよ」


 木に体重を預け、身体の力を抜く。毛布か何か買っておけばよかったな、ちょっと肌寒いよ。


「チィ、このリュックの中に入っといて」


 リュックの中は暖かいでしょ。


「やだ! ますたーかってにチィ、そこに入れたでしょ!」


 やっぱり怒ってるんだね。でもずっと抱っこしてたら手が疲れるんだよ。


「わかったよ、ごめん。じゃあここでおやすみ」

「ますたー、だっこ」

「はい」


 膝の上のチィを、胸で抱き締める。結構暖かい。

 今回の街もダメだったけど、被害がなかっただけましか。

 そろそろちゃんとした街に行きたいな、そもそもそんな街がないのかな。


「おやすみー」


 幸せそうな笑みを浮かべながら、チィは目を閉じた。

 僕ももう寝よう。どうせ今考えたって、何もできないんだから。


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