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ワールドチェンジ  作者: シュン
始まりの旅
6/14

西方面の森にて

「ふわぁ……」


 欠伸で体内に入る空気が新鮮な感じがする。森の中にいるから、そう感じているんだろう。つまり、思い込み。

 どうでもいいや。


「ますたー、きょうはにしにいくんだよね?」


 小さな神様が子供っぽく言う。

 頭が手のひらより少し大きいだけで、背も僕の頭よりちょっと大きいくらいしかないけど、重いものは重いんだよ。


「いや、行かないよ。今日は南に行こうと思うんだ」

「え? でも、おうさまにはにしにいくっていってたよね?」

「大人の事情があるんだよ」


 だって、本当のこと言ったら追って来られたら堪らないでしょ。

 あの王様、僕が噂しなくても長く続かないと思うけどね。


「なるほどー。やっぱりますたーはおとなのびじょなんだね」


 今、西に向かっている理由は、本当にこっち方面に行ったと思わせるため。

 剣に発信器みたいなのが付いていると思うよ、多分。

 だから西に行く旅商人に、この剣売りたい。なかなか見つからないんだけどね。

 うーん、やっぱり森の中じゃいないのかな。


「あれ、ますたーきいてる?」

「ん? ああ。聞いてるよ」

「じゃあ、こたえてよー」


 答える? 何か質問されてたっけ。


「そうだよ、か、そうじゃないよ、でこたえてね!」


 何を言ってたか分からないけど、ここでそうじゃないって言って落ち込ませたくないし


「そうだよ」


 と答えておく。

 にしてもこの森長いよ。早く抜けられないかね。


「やっぱり、ますたーはすごいんだね!」


 喜びが混じったようなチィの声。なんで?


「僕は凄くないよ。普通の人間だしね……あ、すみませーん」


 周りを見回していると、大きなリュックを背負っている人の姿が目に入った。

 よかった、森を抜ける必要なかったね。


「あい、なんだいお嬢ちゃん?」


 男の、若い人だった。こんなに大きなものを背負っているということは、筋肉もそれなりにあるんだろう。

 なんかもう面倒臭いからお嬢ちゃんと言われたことには突っ込まない。

 僕は腰に下げていた剣と、それを固定するためのベルトを外す。


「これ、いくらくらいですか?」


 商人に見やすいよう、僕はその二つを持ち上げる。

 立派だから、それなりの値段はあるはず。


「うっちゃうの? せっかくもらったのに」

「うん、お金になるからいいんだよ」


 発信器ってこともあるからね。


「これだと、500Gが限度だね。売るかい?」

「十分です。もう一つ、すみませんが、これの代わりになるようなものを売ってくれませんか?」


 僕は売れたものを渡し、代金を貰う。

 最悪、ひのきの棒でもいいから売って欲しいな。

 商人は背負っていたリュックを下ろし、なにやらガチャガチャと探し始める。

 僕の前に取り出されたものが並べられていく。

 一分も経たないうちに、その作業は終わった。


「これが、今売れる武器だね。右端から、500、300、100、30、10だよ。買うかい?」


 右端から鉄の剣、ビッグナイフ、棍棒、緑の剣と、ひのきの棒が僕の前に並んでいる。

 今更だけど、この世界のお金って全部メダル型なんだね。

 銅が10ゴールドで、銀が100ゴールド、金が1000ゴールドなんだね。街の人に聞いた。

 国のやり取りとか、商売の時はまた違うお金使うらしいけど。


「この緑の剣はなんですか?」


 その中でも目を引くのが、緑に黒を混ぜたような色をした鞘。

 その鞘に納刀している剣だ。

 30Gって安いな、訳ありなのかな。


「ああ、レア物だと思ってな。ある商人から10000Gで買い取ったんだが、抜けないんだよ。だから誰も買いやしない。一年ほど前に買ったんだがなぁ」


 この人、見る目ないのか。

 ふーん、なるほどね。でも今は鞘付の剣でも欲しいし、なんかこの色好きだし。うん、買っちゃおう。


「これでお願いします」


 僕は緑の剣を指差す。絶対に抜けないってこともないだろう、そういうふうに自分に言い聞かせる。

 だって、欲しいもん。

 銅貨を三枚渡し、剣を貰う。


「はいよ、返金は不可だよ。これ買ってくれたお礼にベルトも付けとくよ。じゃあね」

「はい、ありがとうございました」


 お金を受け取った商人は、そそくさと去っていく。なんか逃げるって表現が似合うな。

 まあ、厄介ものを売りつけられたんだから、あっちとしてはラッキーだったんだよね。


「どうして、そんなのかっちゃったの? つるぎは、は、がないと、やくにたたないんじゃないの?」


 貰った剣を地面に置く。

 今、頭の上で呟いたチィを両手でガッチリ掴まえて、身体の正面に持ってくる。


「わわ! なにするのますたー!」


 驚いたチィがジタバタと暴れるが、気にしない。


「いいかい、チィ」


 真剣にチィの瞳を見つめると、チィも見つめかえしてきた。

 ちょっとだけ緑っぽいな、チィの目。今気付いたよ。

 暴れるのを止め、少しの静寂が僕らを包み込む。


「僕は……」


 わざと間を空け、言葉を続ける。


「首が痛いんだよ」

「……ますたー、なにいってるの?」


 チィは呆れ顔で僕に言う。うん、そうなるよね。

 でも、三日もあの体重を支えられるほど僕の首は頑丈にできていないんだ。


「しばらく僕の首に乗らないでね。死因が子供に頭を圧迫され続けて、首が折れたなんていうのは嫌だから」


 天国じゃないどこかで泣くことになると思う。僕は天国行けないだろうし。


「ええ! ますたーしんじゃうの!?」

「死なないための予防だよ。いいね、チィ。僕を殺したくなければ、頭に乗らないで」


 それなりに純粋なチィは、死ぬと言っただけで大騒ぎをする。天然なだけかもしれないけどね。


「わかったよ。いのちはたいせつにね、ますたー」


 今の話の流れなら、僕の命を奪うのはチィになるんだけど、それは気付いてないのかな。


「さて、そろそろ行かないとね」


 追っ手が来てからじゃ遅い。オマケとして貰ったベルトを腰に巻き、腰に剣を下げる。

 んー、鉄の剣よりは軽いね。

 あの人は抜けないとか言ってたけど、僕はどうなんだろう。

 試しに剣の柄を握って、引き抜いてみた。


「あれ? 簡単に抜けた?」


 話が違うんだけど、いいや。ラッキーだったんだ。

 イイコトすると、自分に返ってくるんだね。

 刀身は片側にだけ刃が付いていて、鞘と同じ色だ。

 多分、これ刀だね、剣じゃなくて。


「よかったねー」


 チィが僕の手からスルリと抜け、地面に降り立つ。


「うむー、じめんがやわらかいですねー。さすがはもりといったところですかー」


 博士ごっこかな? ここは最近雨が降っていないらしいから、逆に固いと思うんだけど。

 いきなりなんで? いや、別にいいけども。

 僕は刀を納める――刹那、刀が、緑の光となって拡散した。

 そしてその光は僕に集まり、消えた。

 僕の身体に入り込んだっていうほうが正しいか。

 あ、今日ツイてないね。まさかこういう風に落とされるとは。


「ハァ……どうしようか、武器」

「つかのまのよろこびですたねー」


 変なモードに入っているチィの声だけと、鳥の囀りだけが森の中で響いていた。


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