表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールドチェンジ  作者: シュン
始まりの旅
5/14

罠とか依頼とか脅し

「ますたー、おひめさまおいてきちゃってよかったの?」


 夕焼けの街は活気付いていて、朝の閑散とした風景はもうなかった。


「いいんだよ、言い訳もちゃんと考えてるしね。明日、この街を出るよ」


 忙しなく人が動き回り、どこからか大きな笑い声も聞こえる。

 誰かが僕の肩にぶつかり、軽く会釈して道に戻った。


「えー、もうちょっとゆっくりしていこうよ」


 城門から王宮までの距離は結構ある。でも、明日になってドタバタしたくない。

 疲れている身体にムチを打ち、今日中にこの街にいる意味を失わさせる。


「この街にいても、あまり得しないだろうしね。むしろ損のほうが大きいよ」


 貰える物だけ貰って、さっさと街を出る。

 勇者ってことでまた面倒事を押し付けられる可能性もあるし、まだなにも知らない他の街のほうがいい。


「ふーん。チィはここすきだけどなー」


 王宮前で、歩みを一度止める。


「ようやく来たか。王様のお待ちだ、付いて来い」


 見張りの兵士に声を掛けられ、僕は王宮の中に入っていく。





「娘はどうした」


 王様の部屋に入ってすぐに言われた。僕を案内してくれた兵士が慌てて部屋から出ていく。僕ら以外は聞いちゃダメな話なのかな。

 三人の位置は、最初に入った時と全く同じだ。


「すみません、先にお尋ねしたいことがあるんです。三つだけですから、お願いします」


 ここに姫様はいない。魔物の死骸と一緒に置いてきたんだから。


「話? 我の娘よりも大事な話があるのか!」


 額に青筋を浮かべ、僕を怒鳴りつける。凄い迫力だ。


「自分が行かせたんじゃないんですか? 王様が姫様に肩入れでもしない限りは、この城から抜けられなかったはずですよね?」


 これが一つ目の質問。でも、あんな魔物のいる可能性がある場所に行かせる意味が分からない。わざわざ自分の娘を、危険な目に遭わせたのだから。

 魔物の存在に気付いていなかったことはないだろう。

 南のほこらは勇者かどうかを確かめる場所。手入れや警備を怠るはずがない。

 勇者はいつ現れるのか分からないのだから。


「一人になりたい時くらいあるだろう。人の気持ちも分からないのか!」


 そうさせたかったなら、なんで僕を行かせたんだよ。もう既に、話が矛盾してるよ。


「……へぇ。なるほど、分かりました。つまり、王様はこう仰ったわけですね? 自分よりも、魔物の住処に行ったほうが安息がある。危険な場所に行けば安心できるはずだ、と」


 随分と変わった思考回路だね。


「…………」


 皮肉混じりの僕の言葉に、王様は押し黙る。この沈黙は図星という意味か、何も知らなかったという意味か。


「いつから気付いていた?」


 知らないわけないか。

 僕は短くため息を吐き、王様に言ってあげる。


「どうでもいいでしょ、そんなこと。要点だけ言っておきますが、僕は剣を抜くことはできませんでした。残念ですね、僕は勇者じゃないんですよ」

「え? ますたーぬけなかったの?」


 今まで黙っていたチィが、僕の言葉に反応する。邪魔になると思って黙っててくれたのかな。


「うん、僕は勇者じゃないみたいだ」


 チィと話している時も、王様から視線を外さない。どうせ、頭の上に乗ってるチィを見ることはできないんだからいいでしょ。

 さて、僕が勇者じゃないと知って王様はショックかもしれないけど、僕には関係ない。


「これで依頼は終わりですよね。姫様を連れてくることはできませんでしたが、救出はしました。報酬をお願いします」


 表情を崩さずに、僕はじっと蒼色の瞳を見つめる。戸惑いの色が見られた。


「バ、バカを言うな! ただの小娘に支払うものなどない!」


 確かに依頼は達成できなかったよ。でもね、悪いのはそっちだ。騙されていたんだからね、僕らは。

 なら、倍で返す。バカはどっちなんだろうね。


「この話を街で話したら、どうなるんでしょうね?」


 魔物を利用しての騙し打ち。今まで作り上げてきた信頼を、一気に失うことになるだろうね。

 立派な人だと思っていたのに、残念だ。


「明日、僕らはここから西へ向かおうかと思います。それでは」


 僕は立ち上がり、部屋の扉へと手を掛ける。


「ちょ、ちょっと待て」


 すぐに王様が呼び止める。





「やっとゆっくりできるよー」


 宿屋の一室で、僕は両手両足を伸ばして寝転んでいた。


「さすがますたーだね!」


 チィが僕の横で、リュックを漁る。

 お礼として貰ったのは、このリュックと、食べ物少量と、鉄の剣、おまけに1000Gだ。地図も合わせると、結構豪華な報酬だな。


「さっきも言ったけど、チィ。明日、ここから出るよ」

「えー、やっぱりまだいたいよー」

「早く出ないと、嫌なことがあるだけなんだよ」


 出た後も、軽く処理しないといけないことがあるしね。


「うぅ、わかったよぅ……」


 しょんぼりとしながらも、チィは頷いてくれた。


「ごめんね。次はきっとゆっくりできるから」


 僕はチィの頭を撫で、ぼんやりと天井を見つめた。

 次の街はどんなところだろうな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ