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ワールドチェンジ  作者: シュン
始まりの旅
2/14

始めての街

「ねぇ、チィ」

「なぁに、ますたー」

「僕らの目的はなんなの?」

「おなかすいたよー」

「……だね」


 質問には答えてもらえなかったけど、僕らはとりあえず歩いていた。

 ローブはなんだか嫌だから変えて欲しいな、なんて思っていたら突然変わった。

 そういう性質の服なのかな。意味が分からないというのが正直な感想。別にいいけど。

 今は、上下緑が中心の服だ。

 そんなことはどうでもよくて、今一番重要なのは、食べ物がないということ。

 ズボンのポケットにお金らしきものが入っていたまではよかった。でも、使う場所が無ければ無駄なものとなる。


「ますたー、おまかすいたよー」


 僕の頭の上でチィが呟く。これが意外と重い。


「もうちょっと。多分もうちょっとで着くから我慢して」


 魔法のおかげで、風が街のある向きを教えてくれる。

 だから風の吹く向きに歩いているけど、距離までは分からない。

 平原が永遠と続くんじゃないかとも思えるこの場所で、小さく城壁のようなものが見えた。


「あ、見えてきたよ」


 僕が手に持っていたひのきの棒で行き先を指す。でも、チィは全く反応しない。力尽きた?

 チィの鼓動は頭にしっかり伝わっている。

 僅かに、呼吸の音も聞こえる。寝ているだけか。

 僕は少し歩調を速め、既に暗くなった平原の道を急いだ。





「どうやって開けるんだろう……」

 城門まで来た時、もう空は明るくなっていた。今日は徹夜だ。早く休みたい。

「叩けば気付いてもらえるかな」

 僕は頭に乗っているものを下ろし、ひのきの棒で巨大な金属の扉を叩いた。バキッ、という音とモノを殴った手応え。

 ジンジンと痛む手のひらで持っているものを見つめながら、僕は呟く。

「もうやだ」

 棒の残骸を投げ捨て、その場で力無く腰を下ろす。このまま寝てやろうか。


「あれ? ますたぁ? おやようだね」

「ああ、おはようだね」


 しばらくそうしていると、チィが目を擦りながら、僕に話し掛けてきた。

 そしてふわふわと宙に浮き、僕の頭の上で着地する。この場所が好きなのか。


「このもんはね、あとさんびょうであくよ」

「三秒?」


 僕が聞き返している間に三秒経つ。チィの宣言通り、大きな門は轟音を立てて開いた。すごい近所迷惑だね、この門。

 内側は、本当にゲームで見るような光景が広がっていた。

 明るい薄茶色の道の両脇に、色んな店が並んでいる。

 道の奥のほうには、噴水も見れた。この街の名物のようなものだろうか。

 朝早いせいで、まだ街は活気付いていない。小鳥の囀りが響く、いい雰囲気だ。

 これから騒がしくなっていくんだろう。もしかしたらこの静けさは、朝と深夜だけなのかもしれない。

 とりあえず、お邪魔します。


「おい、そこの女」


 いい気分になっていた時に、失礼すぎることを言ってきたのは中にいた門兵。

 僕は男だ。声はちょっと高いかもしれないけど。


 と、そんな訂正を入れる前に門兵は話を続ける。鬱陶しい。

 寝不足のせいか、イライラする。


「この辺りに勇者が召喚されるらしいんだが、何か知らないか?」


 そんなことで僕を呼び止めたのか。


「知る……りません。それより、この辺でいい宿屋ないですかね?」


 そういえば日本語なんだ。異世界って。

 少し僕の日本語がおかしくなったのは、しょうがないことだと思う。


「そうか。なら用はない。とっとと中に入れ」


 無視か。


「ますたーのははなしきいてあげてよ! 女神様がいってた! ますたーはせかいをすくうきゅうせいしゅ」

「じゃあ、僕はこれで!」


 チィの口を塞ぎ、声を掻き消し、ダッシュして街の中へ向かう。入国審査みたいなのはないのね。


「ますたー、どうして止めるの!?」


 噴水の広場まで駆けてきた僕は、そこでチィを下ろす。

 まだ怒りが冷めないチィは僕を睨めつける。でも、あどけないその顔は可愛いだけで、何の威圧感もない。

 僕は苦笑しながら、チィに目線を合わせた。


「いいかい、チィ? 僕の存在を、あんなやつに教えても理解できないでしょ?」

「なるほどー。ますたーはびじょだもんね!」


 どうしよう。何を言っているのか全然わからない。


「えっとね、チィ。まず、美女だからって相手を見下すわけじゃないんだよ? 美女の中にもバカはいっぱいいるんだよ?」

「そうなの?」

「そうなの。そして僕は男だ」

「嘘だ! ますたーはびじょだよ!」


 二日しか一緒にいない子供に僕の性別を必死に否定された。


「ポカポカ頭叩かないで」

「いっていいうそとわるいうそがあるよ!」


 誰がいつどこで嘘を言った。

 もうほんとにやだ。なんなのこの世界。話がとても逸れたような気がするよ。


「とにかく、勇者ってことは絶対に言っちゃダメだよ」

「誰が勇者だって!?」


 今度は道行く誰かが振り返り、僕の言葉に反応した。どれだけ勇者っていうキーワードに敏感なんだよ。

 泣きたい。帰りたいよ。


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