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ワールドチェンジ  作者: シュン
勇者
12/14

女神の空間

 真っ白な空間。身体は水の中にあるように、軽い。

 重力という常識に捉われないデタラメなこの空間は、一体どこだろう?

 もう死んでしまったのかと思い、身体を確認する。魂だけになってしまった身体、よくある話だ。

 だが、僕の身体は確かに存在した。手も、足も、顔も触れることができた。

 死んではいない、僕は確かにここという場所に存在していた。

 存在しているのは分かるが、自分が何者かは分からない。記憶消失か。

 分からないのなら仕方がない。僕はこの世界で、ただ浮かぶ。フワフワとした不思議な感覚が気持ちよかった。

 春の陽光を浴びるような心地良さに、瞳が光を写すのを止めようとする。

 その時だった。適度な眠気を催した僕の頭に、強い衝撃が走った。

 僕の目に飛び込んできた光が、痛みを伴うほど強烈だったからだ。


『本当に、これでいいのですか?』


 どこからか聞こえてくる、女性の声。

 女神のように、綺麗に透き通った声。その声だけで、心が清麗であることを感じさせる。

 涙が滲む目を、ゆっくりと開けてゆく。誰もいない。

 ただ、永遠と続く白が僕を飲み込んでいるだけだ。

 あの光は何だったのだろう。


『あなたには、使命があるはずです。遊び道具としてではなく、あなたの使命が』


 遊び道具? 僕の使命?

 戸惑う僕を気にも留めず、言葉は続けられる。


『やるべきことは見えているでしょう? 今までとは違うのです。もう、暗闇を走らなくてもいいのです』


 声の主の意図が全く分からない。僕は、ただ考えることなく、汚れなき声を頭に送り込むだけだ。


『憎しみにとらわれてはなりません。いいですね?』


 憎しみ? 僕が、そんなものを持っているの? 確認しようにも、手段がない。僕は今、記憶と隔絶した状況にあるのだから。


『私の言葉はこれで最後です。自分を、強く信じて、動きなさい。力に飲まれてはいけません』


 それを最後に、僕は見えない力に下ろされる。底無しの光の中で、ただ落ちる。

 僕の中で、一つの疑問が湧いた。突然、心の中に現れた言葉だ。

 その言葉の意味を、もう一度考えてみる。

……お母さん?




 僕は布団から這い出ると、窓を開け放った。

 新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込み、空から降り注ぐ光に目を細める。


「鬼の里かぁ」


 昨日、あのおじいさんから聞かされた話。鬼の里に世界を救う鍵があるとかどうとかこうとか。

 お金も行方不明の勇者に貰ったし、問題はないね。


「ますたー……」

「あ、ごめん。起こしちゃったね。おはよう」

「うん、おはよ……」


 目を小さな手で擦り、フワフワと僕の頭で着地する。あ、これ久しぶり。


「もうこの街を出るよ。いる理由がなくなったからね」

「うん」

「チィは、何か出る前にしたいことある?」

「うん」

「何でもいいよ」

「うん」

「こら、起きろ」


 パチン、と頭の上で音を鳴らす。両手で挟む形でチィを叩いた。


「うん」


 ダメだ、もう起きないな。僕はチィを頭に乗せたまま、準備を進める。

 とは言っても、僕の荷物はリュックだけだ。お風呂に入るにも、お湯に浸かるだけでいいからね。

 チィの清めの光、便利だな。


「ハゼノくん、おはよう」

「あ、おはようございます」


 ノックなく入ってきたのはサナさん。この人って、意外と遠慮ないよね。


「朝御飯できたわよ。今日この街から出るんでしょ? もっとゆっくりしていけばいいのに」

「いえ、サナさんにも迷惑ですし、ちょっと急ぎたいんです。世界が滅ぶことですしね」


 今日見た夢も少し気になる。使命がどうとかこうとかそうとか。

 まあ遊び道具の意味は分かったよ。あの場所じゃ記憶は無かったのに、あの場所の記憶はあるんだね。


「そっか。大きなことだもんね。頑張ってね」

「ありがとうございます」


 サナさんは特に考える素振りも見せず、僕の言葉を受け入れる。

 鬼の国。やっぱり名前の通り、狂気に満ちた国なのかな。少し、いや、かなり気になる。

 話をしながら僕達は階段を下り、リビングへと向かう。


「そういえば、あの勇者はどこ行ったの?」


 結構どうでも良さそうなサナさん。ああ、そういえばいたっけ。


「死んではないと思いますけど、どうなんでしょうね?」


 あの場所での出来事もよく分かってないし、セイヤがいたこと自体忘れていた。だってあの石以外のことは考えられなかったんだもん、しょうがないよ。


「勇者なのにこの扱いなのね……」

「そんなものですよ、勇者なんて。あ、朝御飯美味しそうですね」


 リビングの机に並べられた朝食を、チィに浄化魔法を掛けてもらい、リフレッシュした状態で朝食を食べる。

 うん、おいしい。僕の朝は、とても平和にスタートした。





「歩いて三日だって」

「とおいねー」


 向かうべき方角は、風が教えてくれる。僕は、雨上がりの湿った草の上を歩くだけでいい。


「しかも途中、崖とか登らないといけないよ」


 最近運動不足気味の僕には、力を使わないと少し辛い。

 昨日の森からなら楽に行けるんだけど、あそこは寒い。

 この辺りは春の気候のはずなのに、あそこは冬。息も白くなるわけだ。


「わー、たいへん」


 人事だと思って、チィは適当に変事をする。まあ、飛べるもんね。楽だもんね。


「ロープかなんかあったら楽なのにな」


 足取り重く、草原を進んでいく。

 まだ、先は見えない。


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