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ワールドチェンジ  作者: シュン
勇者
10/14

勇者の実力

「おきて、ますたー」


 暗闇の中、誰かが僕の身体を揺する。小さい手、声からして多分チィだろう。


「うーん、どしたの?」


 瞼は開かない。最近寝不足だから、とても重い。

 強引に薄く開けると、まだ日は出ていなかった。


「チィ? 聞いてる?」


 サナさんに使っていいと言われた部屋は、思ったよりも居心地がよかった。これで5Gなんだから、得したな。

 部屋にいるのは僕とチィの二人。この部屋にも何もなく、布団が敷かれていただけだった。


「だれか、いるよ……」

「誰か? 部屋には誰もいないよ」


 人の気配はなく、二人の話し声以外は何も聞こえない。

 昨日もそうだったけど、なんだかチィの様子がおかしいな。


「いるの!」


 僕が否定しても、チィは怯えているようだ。声が少し震えている。


「うーん、そこまで言うなら」


 少しずつ覚醒しつつある頭で考える。光るものなんて持ってたか?

 誰かいるなら、あまり動かないほうが良さそうだ。身近なものじゃないと。


「チィ、ピカってできる?」

「で、できるよ……」


 尻すぼみに消えるチィの声。さすが神様だね。

 よし、これならもし誰かいても、目眩ましのなる。

 僕が目を瞑っていたら大丈夫か。


「僕が肩を叩いたらやってね」


 これも念のため。目眩ましのためなのに、聞かれてちゃ意味ないからね。

 すぐにチィの肩を叩く。すると、瞼の内でも分かるほどの光量が発せられた。


「うわぁぁぁ!」

「うるさい」


 声がしたところへ、睡眠玉を投げつける。睡眠魔法を付与した玉らしい。チィが光る前に、ポケットから出しておいた。

 寝る前に、サナさんに貰っておいてよかったよ。


「ありがと、チィ。お陰で助かった」

「う、うん」


 僕は立ち上がり、天井に付けられた魔力球を軽く叩く。

 暗闇が、灯りによって消え去り、この部屋に忍び込んだ人の姿が露になる。

 こうやって使うんだね、これ。


「あれ? 昨日の勇者様じゃないの」


 鉄鎧に、頭にはなぜかカボチャングが付けていたカボチャ。

 この金髪、人の家に忍び込むなんて。一応勇者なんでしょうが。


「チィ、これ捨てるよ。手伝って」

「うん、分かった」


 僕が手を持ち、チィが足を浮かせる。これも、魔法の一種なのかな?

 それで、開いている窓の傍に持っていってポイッと……


「ねぇ、今の叫び声って……ちょ、ちょっと! 何してるの! ここ二階でしょ!」

「大丈夫です。死には至りません」

「そんなところから投げたら致命傷でしょう! やるならもうちょっと軽くしなさい!」


 さっきの叫び声で、サナさんが目を覚ましたらしい。そうだよね、うるさかったもんね。


「勇者ならこんなところから落としても死なないと思いますけど。しょうがないや、腕一本だけで許してあげることにします」

「それはさっきよりも酷いことになるわよ。それより、その人勇者なの?」

「そうらしいですね。今じゃ、犯罪者に堕ちちゃいましたけど」


 僕が手を離すと、足だけが浮いた状態で宙に留まった。そのまま窓の外へと飛んでいく。


「チィ、落としちゃダメだよ。そのまま放置できる?」

「できるよー」

「よし、いい子いい子」


 頭を撫でてあげると、チィは気持ちよさそうに目を細めた。かわいいなー。


「微笑ましい光景なんだけどね。一つ除けば」


 ハァ、とため息を吐くサナさん。どっちにしろ、悪いのはこれなんだから、仕方がない。罰は受けないと。


「サナさん、あの睡眠玉って何分くらい効果がありますか?」

「あれは、五分くらいかな。あたしが付与したわけじゃないから、正確な時間は分からないわね」

「……う、うわぁぁぁぁぁ!」

「あ、起きましたね」

「ますたー、おとす?」

「まだ落としちゃダメだよ」

「いつになっても落としたらダメだから」


 足を固定されたまま、手をバタバタと振り回す勇者。

 勇者の名が聞いて呆れるよ、これじゃあ。


「た、頼む、俺が悪かった! 助けてくれ!」

「せいいがたりないよ」


 誠意って言葉、知ってたんだね。


「そう必死に言われても、決めるのはチィだからね。僕にはどうすることもできないよ」

「ますたー、おとしていい?」

「いいよ」

「ちょっと待て! 今、お前に決定権が、うわぁぁぁぁ……」


 頭から地面に着地し、勇者のカボチャは砕けちる。

 サナさんがまたため息を吐いて、チィが満足そうに微笑み、僕はカエルのように伸びる勇者を眺めていた。





「酷い目にあった」

「どっちが悪いのか、考えるといいよ」


 早朝の広場。とても静かで、穏やかな風が、草原を揺らす。

 サナさんが朝食を作るまでの間、僕ら三人は広場でのんびり過ごすことになった。春の気候とはいえ、やっぱり朝は少し肌寒い。

 昨日の祭りのせいか、辺りにはゴミが散らばっている。空き缶や、飲食類の包紙や、落ちて散らばった食べ物。

 僕は、あまり汚れていない場所で腰を下ろす。


「汚いな。まるで、人の心のようだ」

「代表例が君だね」


 僕の言葉に、頭を掻く勇者。

 まず、理由なんてどうでもいいから謝ってほしい。


「俺の名前はセイヤ。お前は?」

「ハゼノだよ。なんで僕が寝ていた部屋に忍び込んだの?」


 僕が半眼を向けると、セイヤは腰の剣を抜きはなった。

 切っ先を、僕のほうへと向ける。


「そんなことはどうでもいいだろう。俺と戦え」


 真剣な顔で、セイヤは言う。僕にとっては、どうでもいいことじゃないんだよね。


「ま、ますたー。逃げよう?」

「うん、逃げても、逃げきれないと思うよ。とりあえず、チィは僕の頭の上から降りてね」


 チィの脇腹を両手で掴んで、地面に下ろす。

 僕は目線をセイヤと同じ高さにして、胸に手を当てる。


「どうしてこんなことするの?」

「隠れ勇者とやらがいてな。もしかすると、お前じゃないかもしれないと思っただけだ」

「あっそ」


 ま、あんなに殺気飛ばしたら、勇者と思うか。普通は。

 僕は胸に当てた右手を、元の位置に戻す。緑の光が僕の手へと集まっていく。

 案外簡単にできるね、これ。


「それが、お前の剣か?」


 光が刀の形を作り出し、空中で留まるその刀の柄を握る。


「剣じゃなくて、刀だよ」

「刀? なんでもいい。得物であることに違いはないんだろう」


 なんか雰囲気が変わったな、こいつ。


「いくぞ」


 セイヤは切っ先をこちらへ向けたまま、両手で柄を握り、そのまま腰の辺りで構える。

 どう考えても、斬り掛かる時の姿勢ではない。


「悪いな。これは、剣というよりかはボウガンに近い」


 剣先から、音もなく、光の玉が撃ち出される。


「チィ、もっと下がってて!」


 僕はそれを刀の腹で受け止め、角度をずらして受け流す。後方で、強烈な光が発せられた。これも、音はない。


「爆発するんだ、あれ……」


 間が空くこともなく、二弾目が発射される。

 今度はその玉をかわし、セイヤに接近する。

 一瞬の隙を見逃すわけにはいかない。僕は右斜めから刀を斬り下ろす。


「ふ……掛かったな」


 セイヤも僕の刀の軌道に合わせて剣を振り下ろす。金属の甲高い音が鳴り響き、すぐに僕へ蹴りを繰り出す。

 それを片方の手で受け止め、そのまま後方へ投げ飛ばす。

 チィが遠くまで離れていくのが目に映った。


「俺は、接近戦のほうが得意なんだよ!」


 僕に投げ飛ばされた後、受身の後、すぐに体勢を立て直す。

 僕に投げ飛ばされた身で、よくそんなことが言えるね。

 すぐに立て直せるのは、そこそこすごいとは思うけど。

 セイヤは牽制のためか、光の玉を撃ち出す。

 寸前のところで避け、セイナへ駆ける。

 そして、渾身の力を込め、セイヤの脇腹に水平に斬り込む。

 セイヤは右側狙った僕の斬撃を一歩下がってやり過ごす。

 こうなれば、僕は隙だらけだ。相手にとっては絶好のチャンスだろう。


「もらった!」


 僕のがら空きの腹に向かって、セイヤは光の玉を撃ち出す。

 僕は避けられた水平斬りを止めずに半回転し、セイヤに背を向けた状態で、大きく跳躍した。

 光の玉が僕の下を通り過ぎ、僕はセイヤの背に降り立つ。

 首筋に刀を添え、終了。


「僕の勝ちだね。セイヤ」


 息遣いの荒いセイヤは、無言で剣を鞘に納める。負けを認めたようだ。


「実力は分かった。お前が、隠れ勇者だな」


 呼吸が落ち着いたのか、はっきりとした口調で言う。こんなのでバテて、勇者が務まるのかな。


「そもそもさ、隠れ勇者って何なの?」

「いつか分かるさ」


 セイヤの周りの空気がふっ、と和らぐ。そんなに興味ないから別にいいんだけどさぁ。


「チィ、探してくれるよね。君のせいでどっか行っちゃったよ」

「ああ、分かってるよ」


 ちょっと離れててって言っただけなのに。よっぽどセイヤが怖かったのかな。

 寝た場所はよかったのに、朝から重労働なんて。

 でも、たまには運動しなきゃね。身体が鈍ったら困るし。


「今日は、雨でも降りそうだな」


 セイヤがポツリと呟く。空には、さっきまではなかった黒い雲が広がっていた。

 こんな天気、こっちに来てからは初めてだな。

 悪いことが起きなければいいけど。


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