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信頼中毒  作者: 直樹将軍
2/2

畏怖

――あの日から僕には明日が訪れない。


世界は平和に戻った筈なのに。


 そらは。既に太陽が真上に上がっている筈なのに、黒煙に包まれて一筋の光すらささない。

悲鳴が。体を委縮させ、さらなる恐怖を呼ぶ。

世界が救われて一年後の事である。


 一人の少年が訳も分からず逃げ惑う。

父親譲りの綺麗な茶色の髪を必死に振り乱して、家の中を走る。

家は炎に包まれている。

「おとぉさん……。おかぁさん……」

少年は既に枯れた声で叫ぶ。

まるで、ただ口を震わせているだけに見えただろう。

それだけの熱気が少年を包みこんでいた。

本当に小さな小さな声。


それでもその声はしっかり、空気を揺らし二人の人間の耳に届いた。

 「涼っ!!大丈夫?」

 「涼ッ!!無事かッ!!」

父親と母親である。

まだ燃えていないこの一室は残念ながら一階ではない。三階だ。

ここまで憔悴しきった子供を抱えて飛び降りることはできない。

しかし……。


階段登る、樹が軋む音がした。

それで理解した二人は咄嗟に、自らの子をタンスに押し込んだ。

 「ここで隠れてるんだ……。なにが起きても出てきてはいけない」

タンスの戸が閉められる。


どれくらいの時が経っただろうか。少年はその枯れた喉で叫んでいた。


 少年の視界には、ボロ雑巾のように横たわる父親と、既に息絶えて血だまりに沈む母親が映っていた。



 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 嫌な夢を見た。

体中が汗ばんでいるのがわかる。

「あ~……これはなれないなぁ」

これから学校に行かなきゃならないのに……。

体が重い。後悔が肩に乗っている。何で朝からこんな気分に。

画面にヒビが入った携帯を開く。

日付は、あの日のまま。


 あの日から僕は変わった。

父似と言われた短く茶色い髪は、長く黒く染めた。

母似と言われた目は、メガネをかけて分からなくした。

 もう誰にも、関わりたくなかった。


 学校に向かう足取りも重い。

あの日から僕は変わった。

学校では、自分で言うのも難だがクラスにいるムードーメーカー的存在だった。

 今ではただのいじめられっ子だ。


そんな事を考えれている内に学校に着いてしまった。

いつものように昼休みに屋上だろうな。


授業もいつものように淡々と過ぎる。


「おい、お前今日は持ってきたんだろうな」

「金だよ、金」

「それとも今日もカッターか?」


カッター。

金を持って来なかった時に、体に傷を入れる行為の事だ。

逃れる方法は金を渡すか、逃げて後に更にひどい仕打ちを受けるかだ。


「えっと、今日は勘弁してくれませんか……」


こいつらに渡すほどの金も持っていない。


体が震える。

震えるのを抑えきれない。

命が震える。

もうだめだッ!!


その時屋上の扉が開いた。


 

「なにしてんのっ!!」

高い声の怒号が響く。

すぐに女の子だとわかった。

しかし、この三人組みは逃げる様に走って、外の非常階段を下りて行った。




 

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