ゲームのはじまり 1
それほど新しくない、築15年くらいのマンションの一室に僕らはいた。この部屋の住人なのだからおかしいわけではないのだけど、他の階の人も集まっているっていうのは結構おかしいと思ってしまうわけで。そんなに人恋しいのかね、みんな。いや、分かってるけどね何でみんなが集まるのか、さ。
「結局、誰がこんな事をしたかって話なんだよ」
当たり前の事をさも自分でなければこの場をしきれないということを暗示するように切り出したのは中年になりかけの403号室の向井さん。みんな分かってるのにね改めていう必要はないんですよ、ぷぷっ。
「おい、何がおかしいんだ?」
おっと、この状況でそれはまずいですよ向井さん。空気も読めないんですかダメダメですね。しかしまずい。僕も要注意人物に入っているというのにこれ以上支持率があがってしまっては困る。だから、
「いえ、昨日のテレビ番組がおもしろかったもので、つい」
ふう、これで支持率は―。
「この状況で思い出し笑いか。やっぱイかれてんじゃないのか、アンタ」
上昇すんのかよ、選挙に出ればすごかっただろうね。「無名の高校生政治に新たな風を起こす」みたいな。あー、てか高校生っていっちゃってるじゃん。無駄な事に脳みそ使っちゃった。全部向井のせいだ。
「……ともかく、みんながこうしていれば犯人も手がだせないはず」
これは501号室の鳴海さん。かっこいいよ?20代前半の大学生だぜ服装はパッとしないけどね!
「でも……この中に、犯人が……いるっていうことは、確実じゃな い……?」305号室の……神田さん、だっけかな。ついさっき自己紹介がみんな終わったばっかだから、覚えているつもりなんだけど。単に僕が激しいボケにかかっているのか、彼女の影が薄いだけか……。うーん、いい勝負ですなぁ。
「そうだ!こんなかに犯人いんのは確実だろうが。逃げ場を無くして 人を殺してるようなやつだぞ?冷静でも、やってることは普通じゃね ぇ!そんなやつが消防隊が駆けつけてきそうになったとき何するかわ かったもんじゃねぇだろうが!」めんどいけど、この元気ハツラツ子 供を泣かせるために生まれてきたと言われても違和感のないヤンキー くんは401号室の佐藤さん。うん、第一印象でここまで解析すると は我ながら怖いね、自分が。
さて、「人殺し」なんてこわーい言葉が出てきたから整理しようか。このマンションで起こった二度と味わえない殺人事件をさ―。
時刻は夜八時過ぎくらい。三階に住んでいた広瀬さんが階段を登って4階に住んでいる向井の部屋の扉を叩いた(らしい)。インターホンがあるのにわざわざ手を痛めつけたのはそれだけテンパってた、ってことなんだろう。いやいや出てきた向井に事情を説明しているとのっろのろという効果音が似合いそうな足取りで神田さんが4階に到着。本人は三階にいても平気だったのに広瀬さんに無理矢理つれてきたんでしょうね、お気の毒に。
広瀬さんと向井の二人は他の階の(五階までしかないのだから最後の階)人に今の状況を伝えた。――2階が燃えている、と。そんな事を言われれば119番に電話するという良い子のお約束を決行するいい機会だったのだが、みんな携帯をもっていなく、家に住み着いている電話機もやる気を失ったように無言を貫き通すという事態に、結局は誰かの部屋に集まろう、という話が勝手にでていた。そこで一番何もない部屋(綺麗な部屋といってほしいものだ)である僕の部屋にみんな集まった。このマンションの一室はとても広く3LDKもあり、高校生の一人暮らしにはもったいない広さである。しかしながらいつも一人で悠々と暮らしている僕からすれば部屋に6人もいるというのはすごい不快に感じる。なんかこう、近くに虫がとんでいるような、そんな気分。とにかく不快であって、利益が無い。こんな状況でなければ彼らは僕に関わろうとは思わなかっただろうし、僕もできるだけ関わりたくなかった。マンション内での集まりなんてのは「スライムを延々と狩らないといけないので」という理由で今まで断ってきた。勇者の鏡だろ?。集会が終わるまでやるっていうのはたいへんなんだぞ?手に入った経験値が僕の心に毎回徒労感を与える。割合は1:9だけど。そんな人間関係構築機能がぶち壊れている僕の部屋へ来ているというのにみな一斉に作業に取り掛かった。無理矢理つれてこられたのは一人ではなかったらしい。
え?リアルタイム進行の方が読みやすい?しょうがないなぁ。
テレビをみたりタバコを吸ったりジュースを飲んだりと、みんな他人の部屋でよくそこまでくつろげるな、と思いながらも広瀬さん(本人がそう名乗った)に2階が燃えていた、という事について聞いてみる。
「あの、2階が燃えてたって―「おい、2階が燃えてたってどういう ことだ?なんだかよくわからんままついてきたが……。ここにいるみ んなも気になっていると思うんだ。詳しくおしえてくれ」
華麗な進行を開始しようとしたところ隣からゴキブリ、もとい中年なおっさんがでてきた。おいおい、その年で主人公志望ですか?書類審査で落ちますよ?僕は面接さえなければ突破できますけどね。僕のことなどなかったかのようにおっさん向けて話をし始める広瀬さん。好感度の違いかな?20代後半の人にフラグをたてようなんて思わなかったからな。というか、こんな人いたんだね。あ、彼女からはタオルをもらったかな?引っ越してきたときに。
「えぇ。私は買い物に行こうとしていたんです。小腹が減ったのと明 日の朝食の事を考えて。それで階段を使って降りたんですけど、一段 一段降りるごとに熱くなって……。それで踊り場から2階を見てみる と目の前が真っ赤になってて!10秒ぐらいしてから火事だって気づ いて急いで電話しようとしたの。部屋に戻って電話をかけようとした ら反応がなくて!とにかく、とどまっているのか怖くて、神田さんの 家に事情を説明して、それから向井さんのところへ行って―」
それで今にいたるらしい。「そうかそうか」と言って今でも少しパニくってる広瀬さんをなだめているおじさんが視界にはびこっているけれど、あんたもあと少ししたらパニックになるんだろうね。自分にもマンションを出る事ができないという事柄が当てはまるという事実に気づいてさ。