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EP 8

木漏れ日が差し込む穏やかな森の中。

良樹は、ルナとロードと共に日課となった薬草集めに精を出していた。

「ヨシキさん、見て。これが『ヨモギ』なの。傷口にすり込めば止血効果もあって、すごく便利なのよ」

ルナが足元に群生するギザギザした葉を摘み取り、良樹に見せる。

「ほほう、これがヨモギ……。地球にもある植物でござるが、異世界でも生えているとは。これでまた治療のレパートリーが増え、拙者のポイント稼ぎが捗るというわけでござるな」

良樹はヨモギを大事そうに麻袋にしまいながら、頭の中で牛丼の並盛(100p)を計算してニヤリと笑った。

「ワテ、ヨモギ餅大好きでな! 独特の香りとあの甘いあんこのハーモニーがたまらんのや。今日のオヤツは、ユキナはんに作ってもらお!」

ロードが太い尻尾をパタパタと振りながら、ヨダレを垂らす。

「うん! お母さんに作ってもらおうね!」

ルナが微笑み返した、その時だった。

「……ん?」

ロードの尻尾の動きがピタッと止まった。

鼻をヒクヒクとさせ、空気を深く吸い込む。その黄色い爬虫類の瞳が、スッと細められ、野生の鋭さを帯びた。

「ロード、どうしたでござるか? お腹でも空いた……」

「しぃっ!」

ロードが低く鋭い声で良樹を制する。

「……アカン。風下から、泥と生ゴミが混ざったような悪臭がしよる。これは……ゴブリンの匂いや! しかも一匹や二匹やない。群れや! でかい足音も混じっとる……ホブゴブリンもおるで!」

「ご、ゴブリン!?」

良樹の背筋にゾクリと悪寒が走った。ファンタジーRPGの最弱モンスターの代名詞だが、ここは現実。武器を持った小鬼の群れなど、現代日本で平和に育った良樹からすれば、刃物を持った凶悪犯の集団と同じである。

「大変! お父さんたちに知らせなきゃ!」

ルナの顔から血の気が引く。

「よっしゃ、ワテの背中に乗りなはれ! 振り落とされんよう、しっかり捕まっときや! 飛ばしまっせ!」

ロードが体勢を低くする。良樹とルナが飛び乗った瞬間、賢竜の強靭な脚力が爆発した。

ドドドドドッ!!

最高時速80キロ。森の木々を縫うように、ロードは土煙を上げて村へと爆走した。

「お父さん! 大変なの!」

サンガの家の庭先に急ブレーキで乗り付けたルナが、転がり落ちるように叫んだ。

「どうしたんだ、ルナ? そんなに慌てて」

斧の手入れをしていたサンガが、怪訝そうに立ち上がる。

「村に……ゴブリンたちが向かってきてるって、ロードが!」

「何!? 本当か、ロード!」

サンガの顔つきが一瞬で『元・帝国軍百人隊長』のそれへと切り替わった。空気がピリッと張り詰める。

「間違いないで、おっちゃん! 数十の群れや! ホブゴブリンも混じっとる。真っ直ぐこのダーナ村に向かってきとるわ!」

「……分かった。よく知らせてくれた!」

サンガは斧を掴むと、村の広場にある火見櫓へと凄まじい速度で駆け出した。

そして、櫓に吊るされた巨大な真鍮の鐘を、力の限り打ち鳴らす。

カーン! カーン! カーン! カーン!!

けたたましい警鐘が、のどかなダーナ村に響き渡った。

「ヒィィッ……! む、村が終わってしまうでござる……!」

良樹はロードの陰に隠れ、ガタガタと震えながら頭を抱えた。悲鳴を上げて逃げ惑う村人たちの姿が目に浮かぶ。

しかし――良樹の予想は、見事に裏切られた。

「あァん? 警鐘だァ?」

「ゴブリンだぁ? どこのバカな群れだ、ダーナここを舐めやがって!」

鐘の音を聞きつけた村人たちが、家から次々と飛び出してきた。

彼らの顔に『恐怖』はない。あるのは、農作業を邪魔されたことに対する**『圧倒的な怒り』と『苛立ち』**だった。

「野郎共! 森からゴブリンの群れが村を襲いに来るぞ!」

サンガが櫓の上から腹の底に響く声で号令をかける。

「すぐ様に迎え討つ準備をしろ! 女子供は退避! 戦える者は武器を持て!」

「応ッ!!」

村の男たちが雄叫びを上げる。

ただの農夫だと思っていたオジサンたちが、手慣れた様子で刃の欠けた長剣や、分厚い鉄の槍、そして農具を改造した凶悪な武器を持ち出してくる。

さらに驚くべきことに、まだ6歳そこそこの子供たちまでもが、小型のクロスボウを構えて屋根や木の上にスルスルと登り、的確な狙撃ポジションに陣取っていくではないか。

「ルナ! お前も来い!」

「はい、お父さん!」

ルナも愛用の弓を手に取り、矢筒を背負ってサンガの横へと並んだ。その瞳に迷いはなく、完全に戦士の顔になっている。

「えっ……? ちょっと待つでござる」

良樹はポカンと口を開けたまま、その光景を眺めていた。

「こ、こいつら……動きが完全に戦い慣れている……! いや、殺意が高すぎるでござる! ゴブリン風情がって……異世界の住民モブって、こんなに戦闘民族ストロングなんでござるか!?」

「そらそうやで、ヨシキはん」

ロードが呆れたように鼻を鳴らした。

「ここは帝国軍の最前線を生き抜いた『元・百人隊長』が仕切っとる村や。その辺のヘッポコ自警団とは鍛え方がちゃう。……まぁ、一番ビビって震えとるんが、伝説の『スキル持ち』の兄ちゃんやっちゅうのが笑えん冗談やけどな」

「う、うるさいでござる! 拙者は後方支援特化のヒーラー兼、兵站担当(牛丼屋)だからこれでいいんでござる!!」

迫り来るゴブリンの群れ。

そして、それを返り討ちにすべく、闘気と殺意を爆発させる村人たち。

異世界の洗礼とも言える初の防衛戦が、今まさに始まろうとしていた。

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