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EP 24

帝都ルミナスの陽が傾き、大通りの中央広場では今日も『丼亭よしき』の屋台が香ばしい匂いを漂わせていた。

いつものように押し寄せる客の波が一段落した頃、ふわりと甘い薔薇の香水が漂い、艶やかなドレスに身を包んだリリアーナが姿を現した。

「ヨシキ様」

「む? どうしたでござるか、リリアーナたん」

良樹は額の汗を白エプロンで拭いながら、上機嫌で応えた。

「実は……此度の黒鉄連峰での古竜ドラゴン殺しの件で、我がルミナス帝国のグロム皇帝陛下から、直々に褒章が出ておりますの」

リリアーナの言葉に、良樹は「おっ」と目を輝かせ、中二病の眼帯をクイッと押し上げた。

「フッフッフ……参ったでござるなぁ。拙者の『宵闇の魔眼(竜撃砲)』の威光が、ついに皇帝陛下の耳にまで届いてしまったようでござるか。目立ちすぎるのも罪なものでござる」

良樹がドヤ顔で腕を組んで天を仰ぐと、背後から冷ややかな声が飛んできた。

「ヨシキはん、あの時、チャージ時間足らずで『特に何もしてません』やろ」

ロードが鼻で笑いながら、洗い終わった皿を積み上げる。

「うんうん。見事なくらい、岩陰に隠れてただけだったわね」

ルナも、呆れたように苦笑しながら頷いた。

「ガハハ! 全く、現金な奴だぜ。手柄の時だけいっちょ前に前に出やがって!」

モウラが豪快に笑いながら、良樹の背中をバンッと叩く。その衝撃で良樹はカウンターに前のめりに突っ伏した。

「ぐはっ……! し、しかしでござるな、あの場に勇者たる拙者がいたという事実こそが……!」

必死に言い訳を捻り出そうとする良樹に、リリアーナが優しく微笑みかけた。

「ですので、今からお城に、皆様も私と一緒に来て欲しいんですの。陛下がお待ちですわ」

その言葉が出た瞬間、三人の猛者たちの動きがピタリと止まった。

「お、お城に!? 皇帝陛下とかに会うの!? ぜっっったいに無理! 私、そういう堅苦しい礼儀作法とか一番苦手だもん!」

ルナが全力で首を横に振り、屋台の奥へと後ずさる。

「アタシだって嫌だぜ。城の兵士どもに見張られながら飯食うなんて、面倒臭くて息が詰まる」

モウラも露骨に嫌そうな顔をして、愛用の斧を磨き始めた。

「ワテはただのしがないトカゲ(竜)ですので、帝国のトップなんぞに会う身分やありまへんわ」

ロードに至っては、都合よく自分の種族を矮小化して早々に目を閉じてしまった。

「えっ……!? ちょ、ちょっと待つでござる! なんで拙者に全振り(ヘイト集中)なんでござるか!?」

良樹がパニックになって振り返るが、すでに三人は完全に「関わらないオーラ」を出して背を向けていた。

「ふふっ……ではヨシキ様。私と一緒に、お城へ参りましょうか」

リリアーナが、逃げようとする良樹の腕をふわりと抱え込んだ。

「嫌でござるぅぅッ! 拙者も礼儀作法なんて牛丼屋の接客マニュアルしか知らないでござるぅぅ……っ!?」

良樹が悲鳴を上げるが、リリアーナの豊満で柔らかな胸の谷間が腕にピッタリと密着し、その艶やかな大人の色香と圧倒的な力(伯爵令嬢の圧力)に抗いきれず、ズルズルとルミナス城へと引きずられていった。

ルミナス城、謁見の間。

天まで届きそうな高い天井と、床に敷き詰められた深紅の絨毯。周囲には重武装の近衛兵がズラリと並び、その最奥の玉座には、獅子のような威厳を放つ巨漢の初老の男――グロム皇帝が鎮座していた。

「リリアーナよ。……其奴が、かの古竜を倒したとかいう、凄腕の猛者か?」

グロム皇帝の腹の底に響くような野太い声が、謁見の間に木霊する。

「その通りです、陛下。こちらが、我が帝国の危機を救った英雄、佐須賀ヨシキ様ですわ」

リリアーナは、完璧なカーテシー(淑女の礼)で皇帝に頭を下げた。

「は、初めてましてでござる……ッ!」

良樹は、極度の緊張とプレッシャーにより、牛丼屋の深夜シフトでクレーマーに土下座する時よりも深い、九十度の直角お辞儀をキメていた。冷や汗が滝のように流れ落ちる。

「うむ。面を上げよ」

グロム皇帝は、良樹の貧弱な体格を一瞥したが、見かけで判断しない歴戦の王らしく、深く頷いた。

「此度の黒鉄連峰での働き、誠に見事であった、ヨシキよ。そなたの力なくば、帝都は火の海に沈んでおったであろう」

(い、いや、拙者は本当に1分15秒チャージしてただけで……)と良樹が心の中で全力で否定していると、皇帝が立ち上がり、高らかに宣言した。

「その多大なる功績を讃え……そなたを、我がルミナス帝国の**『男爵だんしゃく』**の位に就かせる!!」

「…………はい?」

良樹の脳内で、中二病の思考回路と、料理人の思考回路が激しくショートを起こした。

(男爵……? だんしゃく……ダンシャク……?)

良樹の頭の中に、ポワワワ〜ンと、泥付きの丸っこい『ジャガイモ』の映像が浮かび上がった。

男爵芋ダンシャクイモ……!? え、皇帝陛下は、拙者にポテトチップスかフライドポテトを作れと仰っているでござるか!? 確かにジャンクフードの王様ではあるが、なぜこのファンタジーの王城で急に芋の品種指定を!?)

良樹が、完全に的外れな勘違いをしてポカンとしている横で、リリアーナがパァッと顔を輝かせた。

「まぁ! よろしかったですわね、ヨシキ様! 陛下から直々に位を賜るなんて!」

「うむ。領地は、古竜を倒した黒鉄連峰の麓の村々を与えよう。あそこは土地が肥えておる。しっかりと開拓に励むが良いぞ」

グロム皇帝が満足げに鷹揚に頷く。

「わ、分かったでござる!!」

良樹は、ビシッと敬礼した。

(なるほど! その肥えた土地で『男爵芋』を大量に育てて、帝都中にポテトチップスを流通させるという、一大農業・食品加工ビジネスを任されたという事でござるな! ガッテン承知でござる!!)

皇帝と良樹。互いに全く違うビジョンを思い描きながら、謁見はなぜか大成功のまま幕を閉じたのであった。

その日の夜。

『丼亭よしき』の屋台の裏手に戻ってきた良樹とリリアーナを、ルナたちが興味津々で出迎えた。

「おかえり! どうだった? ヨシキさん。皇帝陛下って怖かった?」

ルナが身を乗り出して尋ねる。

「うん。なんか、ポテトチップスを作れと言われたでござる」

良樹が、真顔で答えた。

「は?」

「……何を言ってますの、ヨシキはん?」

ルナとロードが、完全に理解が追いつかず顔を見合わせる。

「いや、だから『男爵(芋)』をくれたでござるよ。しかも黒鉄連峰の近くの村を畑として丸ごとくれたから、そこで芋を育ててジャンクフードを量産しろという、帝国からの壮大な事業委託でござるな。拙者もついに社長でござる!」

良樹がドヤ顔で腕を組む。

「……おい、ちょっと待て」

モウラが、信じられないものを見るような目で良樹を凝視した。

「お前……男爵って……。それ、『貴族』の階級の事言ってんじゃねぇだろうな!?」

「え?」

良樹が、ポテトチップスの袋を開けるエア動作を止めた。

「その通りですわ、モウラさん」

横でクスクスと上品に笑っていたリリアーナが、美しい扇子を広げて優雅に微笑んだ。

「ヨシキ様は、此度の功績により、正式にルミナス帝国の貴族となられたのです。これからは『佐須賀ヨシキ男爵閣下』とお呼びしなければいけませんわね」

シンッ……と、屋台の裏が静まり返った。

「せ、拙者が……?」

良樹の頭の中で、男爵芋の映像がガラガラと崩れ去り、代わりに「貴族の義務」「派閥争い」「マナー講座」「領地経営」といった、胃が痛くなるようなドス黒い現実のワードが怒涛のように押し寄せてきた。

深夜の牛丼屋のバイトリーダーから、異世界の社畜(ブラック医院&屋台のワンオペ)を経て。

ついに、全く望んでいない『国家権力(貴族)』の重圧まで背負い込むことになってしまったのである。

「せ、拙者が…………貴族?」

良樹は、ゆっくりと空を見上げ、ルミナス帝国の夜空に向かって、今日一番の悲痛な叫びを響かせた。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!? 嫌でござるぅぅ!! 拙者はただ、平和に屋台の親父をやってたいだけでござるぅぅぅッ!!」

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