EP 23
黒鉄連峰の火口付近。
圧倒的な死闘(約数分)を終え、静けさを取り戻した岩場で、良樹は膝を抱えて地面にのの字を書いていた。
「うぅ……拙者なんて。どうせ拙者なんて、竜撃砲のチャージ完了すら待ってもらえない、ただの背景モブでござる……」
良樹の背中からは、中二病の覇気など微塵も感じられない、哀愁に満ちたオーラが漂っていた。
そんな良樹をよそに、ルナたちは古竜の巨大な死骸を手際よく解体し、良樹が腰に提げている四次元ポケット的な『魔法ポーチ』へと次々に収納していく。
「ヨシキさーん、そんなに落ち込まない、落ち込まない!」
ルナが、血塗れの弓を拭きながら、良樹の背中をポンポンと叩いた。
「ほら、戦いは結果オーライよ! 誰も怪我せずに済んだんだし、ヨシキさんが後方でドッシリ構えてくれてたから、私たちも安心して前衛で暴れられたのよ?」
「そうだぜ!」
モウラも、古竜の牙を戦利品としてむしり取りながら豪快に笑う。
「お前が後ろでなんかブツブツ言いながら光ってる大砲を構えてるのを見て、アタイらも『負けてらんねぇ』って気合が入ったんだ! さぁ、早く帝都(街)に帰って、この最上級のドラゴン肉で美味い『丼』を作ってくれよ!」
「左様でっせ!」
ロードも尻尾をパタンパタンと振って同意する。
「ワイら竜族の肉は、硬いけど旨味は世界一や! これをどうやって極上の丼にするか……ヨシキはんの腕の見せ所でっせ!」
「……えっ」
良樹が、ピクッと顔を上げた。
(拙者の……腕の見せ所……?)
『丼』。
その単語を聞いた瞬間、良樹の脳内に、古竜の極厚ステーキをご飯の上にドカンと乗せた、超絶カロリーのロマン飯のビジョンが閃いた。
「フ、フフフ……」
良樹はゆっくりと立ち上がり、煤けた白エプロンをバサァッと翻した。
「そうか……。やはり、拙者が『勇者』たる所以はここにあるでござるな。全く、拙者の至高の料理がないと、ルナたん達は満足に腹も満たせないしょうがない猛者たちでござる。良かろう! この丼マスターが、古竜の肉を究極の美食へと昇華させてやるでござるよ!」
あっという間にいつもの尊大な中二病ポーズを取り戻した良樹。
(……ホンマに、単純で扱いやすい男やで)
ロードが、呆れたように小さくため息をついたのは言うまでもない。
帝都ルミナス、中央広場。
古竜の脅威が去ったという報せはまだ届いていないはずだったが、いつもの『丼亭よしき』の屋台の前に、良樹が魔法ポーチからドサァッ! と「漆黒の鱗に覆われた巨大な肉塊」を取り出した瞬間、広場はパニックと熱狂の坩堝と化した。
「ひぃぃぃっ!? な、なんだあの恐ろしい魔力の残滓を放つ肉は!?」
「ま、まさか……帝国騎士団を壊滅させたという、黒鉄連峰の古竜!?」
「あ、あの屋台の兄ちゃんたちが、古竜を討伐したっていうのか!?」
どよめく街人たちを前に、良樹はこれ以上ないほどのドヤ顔をキメていた。
「フハハハ! 驚愕するが良い、帝都の民よ! これぞ、我がパーティーが打ち倒した災厄の証! 今宵は特別大サービス、古竜の肉を惜しげもなく使った伝説の丼を振る舞うでござる!!」
良樹は、善行ポイントを大盤振る舞いして、地球の最高級調味料――『粗挽き黒胡椒』『特製ガーリック醤油』『最高級の牛脂』を空間から召喚した。
「モウラたん! 肉を分厚く叩き切ってくれでござる! ロード殿は鉄板を適温に加熱!」
良樹の指示の下、屋台の厨房は戦場へと変わる。
モウラの斧が古竜の硬い肉の繊維を断ち切り、ロードのブレスで熱された鉄板の上に、分厚いステーキ肉が並べられる。
ジュワァァァァッ!!
古竜の肉から溢れ出す濃厚な脂が焦げ、ガーリック醤油と混ざり合う。そこに良樹が粗挽き黒胡椒を親の仇のように大量に振りかけると、暴力的なまでに食欲をそそるスパイシーな香りが、帝都の夜空へと爆発的に広がった。
「良し! 魂の叫びを聞けぇぇッ!!」
良樹は、ホカホカの特製酢飯(大盛り)の上に、こんがりと焼き上がった古竜のステーキ肉をタワーのように積み上げ、最後にフライパンに残った極上の肉汁ソースをたっぷりと回しかけた。
「完成でござる! 災厄を喰らい尽くす究極のロマン飯……『竜殺し(ドラゴンスレイヤー)丼』、一丁上がりぃぃッ!!」
「おおおおぉぉぉっ!!」
群衆から割れんばかりの歓声が上がる中、まずは一番の功労者であるルナたちが、その丼を受け取った。
「いっただっきまーす!」
ルナが、顔の半分ほどもある巨大な肉の塊に思い切り噛み付く。
「んんっ……!! 美味しいわ!」
ルナの瞳が、驚きに見開かれた。
「あんなに硬そうだったお肉が、噛めば噛むほど濃厚な旨味を出してくる! たっぷり効かせた黒胡椒のピリッとした辛さが、お肉の甘みを限界まで引き立ててるわ!」
「ガハハ! たまんねぇな!」
モウラも、顔中をタレだらけにしながら豪快に肉を食いちぎる。
「これだけ脂が乗ってるのに、魔獣特有の臭みが全く無い! ニンニクの効いた肉汁ソースが、下のご飯に染み込んでて……飯が無限に食えるぜ!」
「こりゃあ、何杯でもイケまんな!」
ロードも、丼ごと丸呑みにしそうな勢いでガツガツと平らげていく。
「ワイら竜族の肉が、人間の調味料でここまで化けるとは! ヨシキはんの料理スキル、まさに神の領域やで!」
大絶賛の嵐。
帝都の住人たちも次々と『竜殺し丼』を注文し、屋台の前にはかつてないほどの大行列が形成されていた。
「フッフッフ……そうであろう、そうであろう」
良樹は、腕を組みながら、特撮の長官のような威厳に満ちた声で深く頷いた。
「なにせ、この『勇者』たる拙者が、命懸けでチャージの隙を窺い……死闘の末に打ち倒したドラゴンでござるからな。肉の美味さも格別というわけでござるよ!」
良樹が、眼帯の奥の瞳をキラリと光らせて、見栄度1000%の台詞を吐いた瞬間。
ピタッ。
ルナ、モウラ、ロードの動きが、同時に止まった。
そして、肉を咀嚼していた三人の冷ややかな視線が、一斉に良樹へと突き刺さる。
「…………いや」
ルナが、箸を持ったまま真顔で言った。
「「「それは絶対に違うだろ(でっせ)!!!」」」
「ひぃぃぃっ!?」
三人の見事なハモりツッコミ(殺気入り)が炸裂し、良樹は情けない悲鳴を上げてカウンターの奥へとすっ転んだ。
「す、すいませんでござるぅ! 調子に乗りましたぁぁ!」
帝都の夜空に、最強の仲間たちの笑い声と、ヘタレ主人公の情けない謝罪が響き渡る。
勇者(自称)と仲間たちの、賑やかで美味しい社畜ファンタジーの日常は、まだまだ続くのであった。




