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EP 22

黒鉄連峰の火口付近は、古竜エンシェント・ドラゴンが放つ圧倒的な熱量によって、まるで巨大なオーブンのように煮えたぎっていた。

「行くよ! ルナ!!」

モウラが、自らの身長を優に超える古竜の巨体を見据え、野獣のような咆哮を上げた。

「ええ! ……風の息吹よ! 猛る嵐となりて、戦士のかごとなれ!!」

後方に陣取ったルナが、愛用の弓を天に掲げて詠唱する。

瞬間、モウラの周囲に強烈な竜巻のような風の結界が展開された。古竜が再び吐き出した必殺の業火がモウラを飲み込もうとするが、ルナの風魔法が炎の軌道を逸らし、彼女の褐色の肌を熱波から完璧に守り抜く。

「オラァァァッ!! アタイの歩みは止められねぇよ!!」

炎の海を真っ向から突き破り、モウラが古竜の足元へと肉薄した。

彼女は武器である斧とメイスをあえて腰に収め、その異常なまでに発達した全身の筋肉に、黄金色の『闘気』を限界まで圧縮させる。

「喰らいな! 魔牛流・最大奥義ッ……ブル・タックルゥゥゥッ!!!」

ズドゴォォォォォォォォンッ!!!

モウラの放った、ただの「体当たり」。

しかし、それは攻城兵器の直撃すら凌駕する、理不尽なまでの質量の暴力だった。闘気を纏ったモウラの肩が古竜の分厚い胸鱗にめり込み、山のように巨大な古竜の体が、ドスンッ! と大きく後ろに仰け反った。

「グギャッ……!?」

絶対的な防御力を誇る古竜が、人間の一撃で体勢を崩し、驚愕の声を上げる。

「よっしゃ! 姉御の作った隙、無駄にはせぇへんで!」

すかさず、賢竜ロードが空高く舞い上がった。

「ドラゴン相手にブレスは効かへん……そんなん常識や。けどな、ワイかてただ帝都で屋台引いてただけやない! 日々成長しとるんやで!」

ロードの強靭な顎の奥で、いつもの赤い炎ではなく、青白い閃光がバチバチと弾け始めた。彼が密かに修得していた、炎以外の属性ブレス。

「帝都の夜を照らす電飾の如く痺れなはれ! 雷撃の息吹サンダー・ブレスォォォッ!!!」

バリバリバリィィィッ!!!

ロードの口から放たれた極太の稲妻が、仰け反った古竜の巨体に直撃した。

強烈な高圧電流が古竜の神経を焼き切り、その動きを完全に麻痺させる。

「グギャギャギャァァァァッ!!?」

古竜が、全身から黒焦げた煙を上げながら、苦悶の絶叫を上げて膝をついた。

「おおおっ……!!」

少し離れた岩陰から、頭を抱えて隠れていた良樹は、その光景を食い入るように見つめていた。

(皆……なんて、なんて格好良いんでござるか……!)

圧倒的な強者である古竜を相手に、一歩も引かずに連携し、己の力で道を切り開いていく仲間たち。その背中は、どんな特撮ヒーローよりも、どんなファンタジーの伝説よりも輝いて見えた。

(そうだ……拙者は、伝令兵に『勇者』と呼ばれた男! 丼を出して逃げ回るだけの社畜では終われないでござる! 皆の隣に立つために、拙者も頑張らねば!!)

良樹は、焦げた前髪を払い、先ほどのミスでチャージが途切れてしまっていた『竜撃砲』を、再び力強く肩に担ぎ直した。

彼の右眼(眼帯はさっき燃えたので裸眼)に、熱い決意の炎が宿る。

「フハハハ! 待たせたな、我が同胞たちよ! 勇者たる拙者の、真の一撃を見よ! 竜撃砲、チャージ再開でござる!!」

ギュイィィィィィン……!!

砲身のルーン文字が再び青白く発光し、周囲のマナを吸い上げ始めた。

発射まで、あと『3分』。今度こそ完璧なタイミングで、古竜にトドメを刺してやる! 良樹の心臓が、興奮と期待で高鳴った。

――しかし。

戦場の時間は、良樹の都合(3分間)など、待ってはくれなかった。

「今よ! ここで決めるわよ!!」

ルナが、麻痺して動けない古竜の『心臓』――胸の鱗が僅かに剥がれた一点を正確に見据え、弓を限界まで引き絞った。

「モウラさん! ロード! 私に……二人の力を貸して!!」

「おうよッ! アタイの闘気、全部持っていきな!」

「任せしとき! ワイの魔力も全部乗せや!」

モウラがルナの背中に手を当て、ロードが上空からルナの弓へと魔力を注ぎ込む。

重戦士の『闘気』と、賢竜の『魔力』。そしてルナ自身の極限の『集中力』。三人の力が、一本の矢に収束し、眩いばかりの光の奔流となって渦巻き始めた。

「いくわよ……これでおしまいッ!!」

ルナの銀髪が、凄まじい魔力の余波で逆立つ。

「必殺! トライアングル・アロォォォォォォォッ!!!!」

ヒュゴォォォォォォォォンッ!!!

放たれた矢は、もはや矢の形を保っていなかった。それは、三色の光が螺旋を描いて絡み合う、極太のレーザービームそのものだった。

光の矢は、音速を超え、空間を歪ませながら真っ直ぐに飛翔し――。

古竜の分厚い鱗を紙切れのように貫き、その巨大な心臓を、寸分の狂いもなく撃ち抜いた。

「ゴ、ボァ…………ッ」

古竜の口から大量の血が溢れ出し、その巨体が、地響きと共にゆっくりと崩れ落ちた。

完全に沈黙する火口。帝国の危機を救った、完璧な勝利だった。

「おっしゃああああッ!! 見たかデカブツ! アタイらの完全勝利だぜ!」

モウラが、両腕を天に突き上げて歓喜の雄叫びを上げる。

「やりましたな! 最高のコンビネーションでしたわ!」

ロードも、嬉しそうにルナの頭の上をぐるぐると飛び回る。

「ふふっ……ありがとう。皆が力を貸してくれたおかげよ!」

ルナは、汗ばんだ額を拭いながら、満面の笑みでモウラとハイタッチを交わした。

三人の間に、強敵を打ち倒した熱い絆と、爽やかな達成感が満ち溢れていた。

「…………えっ?」

一方、その頃。

岩陰で『竜撃砲』を構えていた良樹のチャージ時間は、ようやく【1分15秒】を経過したところだった。

「…………えっと。あの」

良樹が、ギュイィィィンと虚しくマナを吸い上げ続ける巨大な大砲を担いだまま、ポツンと呟く。

目の前には、すでに絶命して動かなくなった古竜の死骸。

そして、自分を完全に蚊帳の外にして、勝利の余韻に浸り、キャッキャウフフと抱き合って喜んでいる仲間たちの姿。

「…………うわああああああああんッ!!!」

黒鉄連峰の火口に、古竜の咆哮よりも悲痛な、良樹の号泣が木霊した。

「拙者の見せ場は!? 勇者としての、このロマン砲の出番はどこに行ったんでござるかァァァッ!! なんで拙者がチャージしてる間に、全部終わらせちゃうんでござるか! 空気読んで、3分間だけギリギリの死闘を演じて耐え抜くのがお約束でしょうがァァァッ!!」

「あっ、ごめんヨシキさん! 忘れ……じゃなくて、夢中だったから!」

「ガハハ! 悪い悪い! お前が隠れてるの、すっかり頭から抜けてたぜ!」

「ヨシキはん、その大砲、暴発せんように気ぃつけてチャージ解除しなはれや!」

仲間たちの悪気のない(だからこそ残酷な)言葉が、良樹の心にトドメを刺した。

せっかく手に入れた最強の武器も、彼らの規格外の戦闘力の前では、ただの「重くて光る鉄屑」でしかなかったのだ。

帝国の危機を救う大英雄となるはずだった男は、結局今回もただの「賑やかしのモブ(チャージ係)」として、己の無力さと中二病の悲哀を噛み締めることになったのであった。

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