EP 21
黒鉄連峰の険しい山道を、一行は慎重に進んでいた。
硫黄の匂いと、時折肌を焼くような熱風が吹き抜ける。ここは、古竜が巣食ったとされる活火山の火口付近だった。
「フッフッフ……今回は、前回の水竜のような無様な戦いにはならないでござるよ」
良樹は、背中にドンガフの魔工兵器『竜撃砲』を誇らしげに担ぎ、眼帯をクイッと押し上げた。
「まずは拙者のこのロマン砲の出番でござる。ドラゴンをこっそりと見つけて、気づかれる前に遠距離から3分間チャージして撃てば、安全かつ一撃必殺! 超簡単なのでござる!」
「なるほど、まともな作戦ね」
ルナが、良樹の珍しく真っ当な(ヘタレとも言う)提案に深く頷いた。
「まともにぶつかれば、古竜なんて私たちでも無傷では済まないわ。先制攻撃で致命傷を与えられるなら、それに越したことはないわね」
「じゃあロード、古竜の匂いを探って」
ルナが指示を出す。
「はいな! 任しとき!」
賢竜ロードが、鼻をピクピクと動かして熱風の匂いを嗅ぎ分ける。
「……こっちでっせ。火口の奥、大きな洞窟の中で、規格外の魔力の塊がとぐろを巻いとるわ」
ロードの案内に従い、岩陰に身を隠しながら火口の縁へと這い上がった一行。
そこから見下ろす巨大な洞窟の奥には、漆黒の鱗に覆われ、山のように巨大な古竜が、轟音のような寝息を立てて眠っていた。その威圧感は、セレス湖の水竜の比ではない。
「よし……! 今が好機でござる!」
良樹は、岩陰に隠れたまま、自身の背丈ほどもある重い竜撃砲を肩に構えた。
砲身のルーン文字が青白く発光し、周囲のマナをギュイィィンと音を立てて吸い上げ始める。
「竜撃砲、スタンバイ! メインジェネレーター、セットオン!!」
良樹の中二病スイッチが、古竜という最高の舞台装置を前にして完全に振り切れた。
「……シュイィィン……シュイィィン……」
良樹は、口で効果音を発しながら、砲身の横の何もない空間を猛スピードで叩き始めた。
「姿勢制御、固定! アンカーボルト、射出!!」
ガシャンッ!!
良樹が、力強く右足を踏み鳴らす。当然、竜撃砲にそんな機能はない、ただの踏み込み(エア・アンカーボルト)である。
「よし! 魔力吸入率120%! 臨界点突破ァァァッ!!」
良樹は、岩陰に隠れなければならないという大前提を完全に忘れ、全身で中二病のオーラを放ちながら絶叫した。
「喰らえ! 必殺の……ドラゴニック・チャァァァァァジッ!!!」
「……『ドラゴニック』って何だ?」
すぐ後ろで身を屈めていたモウラが、真顔で首を傾げた。
「あのね、モウラさん……それより」
ルナが、顔面を蒼白にしながら、良樹のパーカーの裾を引っ張った。
「ってか……さっきから、一人で大声出して、地面をガンガン踏み鳴らして……」
ルナの視線の先。
洞窟の奥で轟音を立てていた古竜の寝息が、ピタリと止まっていた。
漆黒の巨竜が、ゆっくりと首をもたげ、黄金色に輝く巨大な爬虫類の瞳を、一直線に良樹たちのいる岩陰へと向けた。
その瞳には、「寝込みを騒がしく起こされた」という、純粋な殺意が宿っていた。
「……完全に、ドラゴンに気付かれてるわ……」
ルナが絶望的な声で呟いた。
「グルルルォォォォォォォォォォォッ!!!!!」
古竜の怒りの咆哮が、黒鉄連峰を激しく揺さぶった。
そして、古竜が大きく口を開けた瞬間、その顎の奥から太陽のように眩い灼熱の光が漏れ出し……。
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!
圧倒的な質量の炎のブレスが、一直線に良樹のいる岩陰へと放たれた。
「ぎゃあああああああぁぁぁッ!!?」
良樹の悲鳴と共に、彼らが隠れていた巨大な岩塊が、一瞬にしてドロドロのマグマとなって溶け落ちた。
かろうじてロードが咄嗟に『大火炎』でブレスを相殺し、モウラが良樹の首根っこを掴んで後方へと飛び退いたため、直撃は免れたものの、良樹の髪の毛はチリチリに焦げ、中二病の眼帯も吹き飛んでいた。
「ひぃぃぃっ! なんでござるか! まだチャージ中でござるよ!? 貯め中(変身中)に妨害してくるなんて、お約束(特撮のルール)違反でござるよぉぉぉっ!!」
良樹は、未だに青白く光っている竜撃砲を抱えながら、地面を転げ回って抗議した。
「アホかお前は!!」
ロードが、怒りで尻尾を地面に叩きつけた。
「隠密行動中に、アホみたいにデカい声出して地面踏み鳴らす馬鹿がどこにおるんや! 何というアホな主に仕えてしもうたんやワイは……!!」
「ご、ごめんなさいでござるぅぅ!!」
「チッ……! やっぱり、アタイらのやり方じゃなきゃダメみたいだね!」
モウラが、溶けた岩の向こうから迫り来る古竜を見据え、鎖斧とメイスを構えて凶悪に笑った。
「よっしゃ! こっからは、アタイたちでこのデカブツを仕留めるぜ!」
「ええっ! モウラさんの言う通りよ!」
ルナも、焦げた髪を払いながら、弓に風と氷の魔法を込めた矢を番える。
「ヨシキさんの作戦は完全に失敗したけど、やるしかないわ!」
「はいな! 任せしときなはれ! 竜族の格の違いっちゅうもんを教えたるわ!」
ロードも、全身の鱗を逆立て、古竜に向けて威嚇の咆哮を上げた。
三人の頼もしい背中が、圧倒的な死のプレッシャーを放つ古竜の前に立ち塞がる。
その光景を見て、良樹はようやく自分がしでかした『お約束のミス』の重大さに気づき、小さく縮こまった。
「……ヨシキはんは、あそこの安全な岩陰で反省してなはれ!」
ロードが、振り返らずに言い放つ。
「は、はいでござる……」
良樹は、チャージを中断して中途半端に光る竜撃砲を抱えたまま、すごすごと別の岩陰へと避難した。
せっかくの最強兵器の出番を自らのオタク気質でフイにしてしまった良樹。
帝国の運命を懸けた古竜との戦いは、結局いつも通りの「超武闘派の仲間たち(物理)」による、大怪獣バトルへと雪崩れ込んでいくのだった。




