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EP 19

「こ、これを帝国の魔法研究所に持って行く訳には行かない……」

良樹は、カウンターの下で鈍く黒光りする金属の塊――『グロック19』を凝視したまま、ブツブツと呪文のように呟き始めた。

先ほど17だと思ったが、よく見れば銃身が少し短いコンパクトモデルの19だ。いずれにせよ、人間を容易に殺傷できる現代兵器であることに変わりはない。

(嫌、しかし……。この世界は常に魔獣の脅威に晒されている。もしこの銃の構造が帝国に解析され、量産されれば、強力な魔物や魔族との戦いで、大勢の民達が救われるかもしれない……!)

良樹の脳内に、帝国軍がアサルトライフルを構えてオークの群れを掃討する、ファンタジーの欠片もない光景が過ぎる。

(いやいやいや! ダメでござる! 人間の闘争本能を舐めてはいけないでござるよ。魔物を駆逐した後は、必ず人間同士の戦争にこの火器が使われる。身に余る代物(オーバースペックな暴力)は、最終的にこの世界そのものを滅ぼしてしまうでござる……!)

良樹が、まるで世界の命運を背負った賢者のように眉間に深いシワを寄せ、一人で葛藤していると、リリアーナが不安そうに身を乗り出してきた。

「ヨシキさん……? どうなさいましたか? まるで、その魔砲の正体をご存知のような……」

リリアーナの美しい瞳が、良樹の顔を覗き込む。

その瞳には、伯爵令嬢としての気品だけでなく、得体の知れない力に対する本能的な恐怖が揺らいでいた。

「ハッ! い、いや! 拙者の魔眼が、この黒き鉄塊から放たれる『破滅の呪い』を感じ取っただけでござるよ!」

良樹は慌てて中二病の仮面を被り直し、大袈裟に咳払いをした。

「リリアーナたん。それは、絶対に魔法研究所に持って行くのは辞めといた方が良いと思うでござる」

良樹の真剣な声のトーンに、横で聞いていたルナもハッと息を呑んだ。

「まぁ……そうなのですか?」

リリアーナは、自分の判断が間違っていなかったことに安堵したように、しかし同時に困惑したように小さくため息をついた。

「でも……どうしましょう、これ。私のランダムボックスから出てしまった以上、不用意に捨てるわけにもいきませんし、かと言って屋敷に置いておくのも恐ろしいですわ。もし誰かに見つかって、悪用でもされたら……」

リリアーナが、怯えたように自らの肩を抱く。

その華奢で艶やかな姿に、良樹の庇護欲(と、異世界に銃を持ち込ませないという現代人としての責任感)が強く刺激された。

「……良ければ、拙者達が持ってるでござるよ」

良樹は、決意を込めて右手を差し出した。

「えっ……? ヨシキ様が?」

「はいでござる。拙者たちは冒険者(仮)でござるから、帝都の外へ出る機会も多い。この呪われた魔砲は、拙者の『暗黒の力』で厳重に封印しておくでござる。リリアーナたんの綺麗な手を、こんな物で汚す必要はないでござるよ」

良樹が、眼帯の奥の左目で真っ直ぐにリリアーナを見つめて言う。

(本当は、ただの『オモチャじゃない本物の銃』だから、素人が暴発させたら危ないだけなんだけどな……!)

「まぁ……助かりますわ」

リリアーナの顔に、パッと花が咲いたような安堵の笑みが広がった。

彼女は、まるで厄介な呪物から解放されたように、グロック19をそっと良樹の手に乗せた。

「ひぃっ……重い……」

良樹は、想像以上の実銃のズシリとした鉄の重みと、冷たさに背筋を凍らせながら、震える手でそれを受け取った。

そして、すぐさま腰に提げている『魔法ポーチ(空間収納カバン)』の口を開け、グロック19を一番奥深くに放り込んで、二重に紐を固く結んだ。

「ふぅ……。これは後で、誰にも見つからない深い山にでも埋めに行くでござるよ」

良樹は、額の冷や汗を拭いながら、大きく息を吐き出した。

(これで、ファンタジー世界への現代兵器流出という、最悪のシナリオは回避できたでござる……。危ないところだった)

「ありがとうございます、ヨシキ様……!」

リリアーナは、感極まったように両手で良樹の手を握りしめた。

その柔らかく温かい感触と、豊満な胸元が至近距離に迫り、良樹の心臓が今度は別の意味で早鐘のように鳴り始める。

「私、ヨシキ様にご相談して本当に良かったですわ。……貴方はいつも、私の抱える不安を、その優しさで拭い去ってくださる」

リリアーナが、上目遣いで妖艶に微笑む。

その甘い空気。完全に出来上がった「二人だけの秘密の共有」というシチュエーション。

「あ、あの! ヨシキさん!」

その時、カウンターの横から、ルナの鋭い声が割り込んできた。

見れば、ルナが両手に持った布巾をギリギリと絞り上げながら、作り笑いを浮かべて良樹を睨みつけている。

「ヨシキさん、もう! お客さんが待ってるわよ! 早く次の『カツ丼』を出してちょうだい!」

「は、はいぃぃっ! ただいま、ただいま出すでござる!!」

良樹は慌ててリリアーナの手を離し、屋台の厨房へと戻っていった。

帝都の夜。

一つの恐ろしい現代兵器(グロック19)は、良樹の手によってひとまず封印された。

しかし、リリアーナの「ランダムボックス」というスキルが、今後も地球の厄介な遺物を生み出し続けるという、新たな爆弾を抱え込むことになった良樹の胃痛は、ますます悪化の一途を辿るのであった。

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