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EP 14

セレス湖での死闘(主に良樹の精神的な意味で)を終え、泥と水竜の体液、そして微かなワサビの匂いを漂わせながら、良樹たち一行は帝都の冒険者ギルドへと凱旋した。

「おぅ! 約束通り、水竜を退治して来たぜ!」

モウラが、受付カウンターにドサリと巨大な蒼い鱗(討伐証明部位)を叩きつけた。

「ま、まぁ……! 本当にあのセレス湖の災厄を……!」

受付嬢が目を丸くし、周囲にいた荒くれ者の冒険者たちも一斉にどよめいた。

「たった四人で水竜を……!?」

「しかも無傷じゃねぇか……どんなバケモノパーティだ……!」

「おめでとうございます! こちらが規定の討伐報酬……金貨で500万円(ルチアナ円相当)ですわ!」

受付嬢が震える手で、ずっしりと重い革袋をカウンターに差し出す。

「やったわ!」

ルナが両手で革袋を受け取り、満面の笑みでその重みを確かめた。キングクラブ討伐の十倍の金額である。これで当分は、屋台の営業資金にも、自分たちの宿代にも困ることはない。

「ガハハ! これも皆の活躍のおかげですなぁ! 特にヨシキはんの、あの『緑色の毒薬ワサビ』の投擲は、竜族のワイでも背筋が凍りましたわ!」

ロードが良樹の背中をバンバンと尻尾で叩き、ギルド中に聞こえる声で自慢する。

「ひぃっ……! そ、そんな恐ろしい力など拙者にはないでござる! あれはただの薬味で……」

良樹が慌てて否定しようとするが、周囲の冒険者たちは完全に「あいつが水竜を毒殺したヤバい暗殺者だ」という畏怖の目を向けていた。

「さぁて! 大金も入ったし、最高に美味しいもんを食いたいなぁ!」

モウラが大きく伸びをして、良樹の首根っこを軽く小突いた。

「おいヨシキ。災厄級の魔物を倒したんだ。お前のその不思議なスキルのポイントとやらも、ガッツリ貯まったんだろ?」

「は、はいでござる……」

良樹は頭上のシステムウィンドウに表示された、凄まじい桁数の【善行ポイント(水竜討伐ボーナス含む)】を確認し、力なく頷いた。

(病院でのブラック労働一週間分が、たった数分のまぐれの一撃で何十倍にもなるなんて……。世の中の理不尽さを痛感するでござるよ……)

夕暮れ時。

一行はギルドを後にし、帝都の中央広場に停めてある『丼亭よしき』の屋台へと戻ってきた。

まだ営業開始前、彼らだけのささやかな祝勝会である。

「よろしい。水竜という巨大な水のことわりを制した我々に相応しい、至高の丼を召喚するでござる……!」

良樹は疲労と少しの憂鬱を抱えながらも、白エプロンを締め直し、右手を突き上げた。

「我が前に出でよ……! 丼マスターあああああッ!!」

光の粒子が収束し、四つの立派な漆塗りの重箱が出現する。

蓋を開けた瞬間、炭火で炙られた香ばしい醤油ダレの香りが、広場一帯に爆発的に広がった。

本日の祝勝メニュー。

地球の夏を乗り切るための最高級スタミナ食――**『特上・鰻丼うなぎどん』**である。

「うおおっ……!? 何だこの照り輝く肉は!」

「匂いだけで、水竜との戦いの疲れが吹っ飛びそうや!」

「さぁ、冷めないうちに食べるでござるよ」

良樹が促すより早く、三人は一心不乱に鰻丼にかき込み始めた。

「んん〜っ!! 美味すぎるぅぅっ!」

ルナが頬を押さえ、恍惚とした表情を浮かべる。

「表面は炭火でサクッと香ばしいのに、中の身は信じられないくらいフワフワで……! 脂の乗ったお肉と、この甘辛いタレが、下のご飯に染み込んでて……もう、お箸が止まらないわ!」

「こりゃたまらんで! ワイのブレスで焼いたキングクラブも旨かったが、このタレの深みは魔獣の肉では出せへん! 人間の叡智の結晶やな!」

ロードが、重箱ごと丸呑みにしそうな勢いで尻尾を振る。

「ガハハ! 本当だ、最高に美味しいぜ! 噛むたびに元気が体の底から湧き上がってくるような気がする! ヨシキ、お前の飯はやっぱり世界一だ!」

モウラも、顔中をご飯粒とタレだらけにしながら、豪快に笑った。

仲間たちの最高の笑顔。

屋台の店主としては、これ以上ない喜びの瞬間であるはずだった。

「良かったでござる……」

良樹は、自分の分の鰻丼をつつきながら、曖昧な笑みを浮かべた。

(……美味しいと言ってくれるのは嬉しいでござる。でも……)

良樹の心の中には、水竜討伐を経て、冷たく重いしこりが残っていた。

(拙者……あの医院でのワンオペバイト生活は、もうこりごりでござる。一人ぼっちで血と膿にまみれるのは、絶対に嫌でござる……。だから今日、ルナたんたちと一緒に行動したけれど……)

良樹の脳裏に、圧倒的な暴力で水竜をねじ伏せたモウラ、灼熱の炎を吐くロード、そして音速の魔法矢を放つルナの姿がフラッシュバックする。

それに比べて、自分はどうだったか。岩陰で震え、ヤケクソでワサビ丼を投げただけだ。

(ルナたんたちと一緒に行動しても、拙者は戦闘では全く役に立たない。ただの足手まといでござる……。ポイントを稼ぐためとはいえ、これではただ、彼女たちの強さに寄生しているだけでござるよ……)

『丼マスター』というスキルは、飯を出すことしかできない。

戦闘力ゼロの自分が、この過酷な異世界で、どうやって仲間たちと対等に肩を並べて生きていけばいいのか。

「……拙者は、どうしたら良いでござるか……」

賑やかな仲間たちの笑い声の隣で、良樹はポツリと、誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。

中二病の殻に隠された、等身大の青年の切実な悩みが、帝都の夜風に溶けていった。

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