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EP 10

一方、良樹が帝都の医院で過酷なブラック労働(包帯巻き)に汗を流している頃。

帝都ルミナスの中心街にそびえ立つ、巨大な石造りの建物――『冒険者ギルド・帝都本部』には、むせ返るような熱気と屈強な荒くれ者たちがひしめき合っていた。

そんな猛者たちの中でも、巨大な賢竜ロードと、レスラー体型の牛耳族モウラの組み合わせは異彩を放っており、周囲の冒険者たちは道を開けるようにサッと距離を置いていた。

「どれにするかな……。おっ! この『迷いの森・オーガ討伐』なんて、なかなか歯ごたえがありそうじゃねぇか!」

ギルドの巨大な掲示板の前に立ち、モウラが凶悪な笑みを浮かべながら高ランクの依頼書をベリッと剥がし取った。

「駄目です! 夕方までには絶対に帰らないといけないんですから!」

すかさず、ルナがモウラの手から依頼書をひったくり、掲示板にペタンと貼り直した。

「オーガの生息地まで行ったら、往復だけで日が暮れちゃいます! 私たちは夜に『丼亭よしき』を開店させるっていう大事な任務があるんですよ!」

「そうですなぁ。ヨシキはんを待たせるわけにはいきまへんし、何よりワイの夕飯(特盛丼)が遅れるのは死活問題や」

ロードも太い尻尾を揺らしながらルナに賛同する。

「ちぇっ、仕方ねぇな。じゃあ、やっぱり近場でサクッと終わるやつか……」

モウラが退屈そうに首をポキポキと鳴らすと、ルナが一番端に貼られていた初心者向けの依頼書を指差した。

「これよ! 帝都近郊の街道沿いに出没する、ゴブリン退治! これならすぐ終わるわ!」

ルナはそのまま受付嬢に依頼書を叩きつけ、三人は足早に帝都の門をくぐった。

帝都から歩いて小一時間ほどの、薄暗い森の中。

そこには、旅人を襲うために群れを作って潜伏していた数十匹のゴブリンたちがいた。彼らは下卑た笑い声を上げながら、獲物が通るのを待ち構えていたのだが……。

「おら……よっ!」

ズドォォォォンッ!!

欠伸交じりの気怠い声と共に、闘気を纏った巨大な鎖付きメイスが空から降ってきた。

たった一振りの一撃で、大地がクレーター状に抉れ、密集していた前衛のゴブリン十数匹が原型を留めないほどにミンチになって吹き飛んでいく。

「ギ、ギャァァァッ!?」

突然の理不尽な暴力に、残されたゴブリンたちがパニックを起こして逃げ惑う。

「ほな、ワイもサクッといかせてもらいまっさ! 大火炎メガ・フレア!!」

ロードが大きく息を吸い込み、強靭な顎から灼熱の業火を吐き出した。

ゴォォォォォッ!!

森の一部を焼き払うほどの圧倒的な火力。逃げ遅れたゴブリンたちは悲鳴を上げる間もなく、一瞬にして消し炭へと変わっていった。

「逃がさないわ! ルナ・ショット!!」

炎から逃れて森の奥へ駆け込もうとしたゴブリンの背中に向け、ルナが弓を引き絞る。

彼女の放った矢は、風の魔法と強烈な闘気を纏い、まるでホーミングミサイルのように木々の隙間を縫って飛び、正確にゴブリンの急所を連続で射抜いていった。

開始から、わずか三分。

そこには、圧倒的な蹂躙劇の跡と、静寂だけが残された。

「……はぁ。ったく、歯ごたえも何もねぇな。準備体操にもなりゃしねぇよ」

モウラが退屈そうにメイスを肩に担ぎ直し、大きなため息をついた。

「ほんまやで。キングクラブの時はまだ燃やし甲斐がありましたけど、ゴブリン相手やと威力の加減が難しゅうてしゃあないわ」

ロードも不完全燃焼といった様子で、鼻からプスプスと煙を吹いている。

帝都の冒険者ギルドが推奨する「初心者向けパーティーでの討伐」という想定を、この三人の規格外の暴力が完全に破壊していた。

「仕方ないわよ。今回は時間との勝負なんだから!」

ルナが、討伐証明となるゴブリンの右耳を手際よく回収しながら、ふたりの背中をパンッと叩いた。

「さぁ、終わったならさっさと冒険者ギルドに戻って、お金を受け取るわよ! ヨシキさんが医院の仕事でヘトヘトになってるはずだから、早く合流してあげなきゃ!」

「ガハハ! 違いねぇ! あのヘタレのヨシキのことだ、今頃血を見て泣きべそかいてるかもしれねぇな!」

「はよ合流して、美味い丼出してもらいまひょ!」

良樹という共通の「帰る場所(兼、最高の料理人)」を思い出し、三人はようやく笑顔を取り戻した。

圧倒的な強さを誇るこの凸凹パーティーの原動力は、もはや冒険のロマンや名誉ではなく、完全に「ヨシキの作る美味い飯」へとシフトしていたのである。

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