EP 8
豪華な晩餐(良樹の親子丼)を終えた後。
一行はリリアーナの計らいにより、屋敷の西館にある広々とした客室へと案内された。
高い天井、シャンデリアの柔らかな光、そして足が沈み込むほど分厚い絨毯。
ベッドは天蓋付きで、良樹の住んでいたボロアパートの部屋そのものより大きかった。
「ひぃぃっ……! 貴族のベッド、ふかふかすぎて逆に眠れないでござる!」
良樹がベッドの端で体育座りをしながらガタガタ震えていると、ルナが部屋の中央にあるアンティーク調の円卓をパンッと叩いた。
「はい! 皆さん、注目!」
ルナがキリッとした顔つきで、円卓の周りに集まった三人に声をかける。
「帝都に無事着いたことですし、ここらでこれからの『丼亭よしき』の指針を決めたいと思います!」
「指針、でござるか?」
良樹がベッドから降り、おずおずと円卓に近づく。
「そうよ」
ルナは腕を組み、良樹の顔をビシッと指差した。
「ヨシキさんのスキル『丼マスター』の源は、善行を積むこと……つまり『ポイント稼ぎ』だよね? ダーナ村では、お母さんに教わりながら教会の診療所で怪我人を治して、たくさんポイントを稼いでたじゃない?」
「ふむ……確かにそうでござるな。包帯の交換や止血作業は、地味ながらも確実なポイント源(ブラック労働)だったでござる」
良樹が右目の眼帯を押さえながら深く頷く。
「だからね、帝都でもヨシキさんは『医院』や『診療所』で働くのが一番効率が良いと思うの! 都会なら怪我人も病人も多いはずだし、ポイントの稼ぎ幅も村の比じゃないわ!」
「なるほど……。帝都のブラック医療現場で、拙者の『慈愛(物理)の包帯術』を振るうというわけでござるな」
良樹の脳内に、無数の怪我人を流れ作業で捌き、チャリンチャリンとポイントが貯まっていく光景が浮かぶ。悪くない。むしろ牛丼の具を仕込むよりずっと現実的だ。
「ヨシキが働いてる時間は、アタシ達は手が空くよな?」
ベッドの端に腰掛け、愛用の鎖斧を布で磨いていたモウラが口を挟む。
「ええ。だから、ヨシキさんが医院で働いている間は、私とモウラさん、それにロードの三人だけで、冒険者ギルドに行って簡単な依頼を受けるの!」
ルナが力強く提案する。
「そやな。それが一番効率的や」
円卓の横で丸くなっていたロードが、太い尻尾をパタンと振って同意した。
「ワイらの腕なら、帝都近郊の魔物討伐や護衛の依頼なんぞ、朝飯前やさかいな。ヨシキはんを危険な目に遭わせず(足手まといにならず)、ワイらも金と経験値を稼げるっちゅうこっちゃ」
「ひっ……足手まといとは失礼な! 拙者はホブゴブリンもキングクラブも一撃で(まぐれで)倒した『暗黒の暗殺者』でござるよ!」
良樹が強がってみせるが、ロードは鼻で笑うだけだった。
「そしてね、一番大事なのはここからよ」
ルナがニヤリと笑い、テーブルの上にダーナ村から持ってきた『丼亭よしき』の屋台のミニチュア(サンガが木彫りで作ってくれたもの)をトンと置いた。
「夕方、仕事とギルドの依頼が終わったら全員で合流して……夜は、帝都の繁華街で『丼亭よしき』を開店させましょうっ! ヨシキさんが昼間稼いだポイントで、帝都の人たちの胃袋をガッチリ掴むのよ!」
ルナの提案に、部屋の空気がパッと明るくなった。
「なるほど! 昼は聖人(ポイント稼ぎ)と冒険者、夜は屋台の店主……完璧なルーティーン、最も効率的な経験値(とお金)の稼ぎ方でござるな! ルナたん、天才でござる!」
良樹が目を輝かせて拍手をする。
「分かったぜ! 昼はギルドで暴れて、夜はヨシキの美味いメシが食える。最高じゃねぇか!」
モウラが豪快に笑い、磨き終わった鎖斧を腰に提げ直す。
「決まりですなぁ。帝都の奴らに、ワイらの実力と最高の丼の味、たっぷり教えてやりまひょ!」
ロードが牙を剥き出しにしてニシシと笑う。
「ふふっ……頼もしい仲間たちでござる」
良樹は、中二病のポーズも忘れ、ただ純粋な笑顔で三人の顔を見渡した。
こうして、豪華なシャンデリアの下、身の丈に合わない高級な客室の円卓で。
辺境の村からやってきた奇妙な一行は、大国ルミナス帝国のど真ん中で生き抜くための、新たな「指針」を固めたのだった。
明日から始まる、帝都でのドタバタな新生活への期待に胸を膨らませながら。
良樹たちはふかふかの天蓋付きベッド(ロードは絨毯の上)に潜り込み、深い眠りについた。




