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EP 6

馬車は堅牢な石造りの城門へと近づいていった。

ルミナス帝国・帝都の入り口である。見上げるほどの高い城壁と、重武装の兵士たちが睨みを利かせるその威容に、良樹は思わず生唾を飲み込んだ。

「止まれ! 帝都に入る者は、身分証を見せて頂こうか!」

門兵の一人が、槍を交差させて馬車の行く手を遮った。その後ろから、屋台を引くロードと、ルナ、モウラ、良樹の姿に厳しい視線が向けられる。

「み、身分証……!?」

良樹の顔から血の気が引いた。

「拙者に身分証等という立派な物は……! アナステシアのマイナンバーカードはおろか、冒険者ギルドの登録証すらないでござるよ! 密入国で捕まってしまうのでは……!」

良樹が冷や汗をダラダラと流してパニックに陥りかけた、その時だった。

「――お下がりなさい」

馬車の窓が静かに開き、中からリリアーナが優雅な手つきで、一本の美しい扇子を開いてみせた。

その扇子の中心には、ルミナス帝国の国花である『桜』を象った、煌びやかで荘厳な金色の紋章が輝いていた。

「さ、桜の印……っ!?」

それを見た瞬間、居丈高だった門兵たちの顔色がサッと変わり、慌てて槍を引き、道の両脇に控えて深く、深く頭を下げた。

「し、失礼いたしました! どうぞ、お通り下さいませ!!」

「ごきげんよう」

リリアーナは扇子で口元を隠し、妖艶に微笑むと、再び馬車の窓を閉めた。

「では、参りましょう」

重厚な城門がゆっくりと開き、一行は信じられないほどスムーズに、大国ルミナス帝国の帝都へと足を踏み入れたのである。

活気に満ちた石畳のメインストリート。立ち並ぶレンガ造りの建物と、行き交う無数の人々の熱気。ダーナ村とは比較にならない都会の喧騒の中を、馬車は静かに進んでいく。

「あのぅ……リリアーナ様って、一体……」

馬車の横を歩きながら、ルナがおそるおそる尋ねた。あの高圧的な門兵が震え上がるほどの印。ただの貴族ではないことは明らかだ。

リリアーナは馬車の窓から顔を出し、ふふっ、と鈴を転がすような笑い声を立てた。

「いえ、ただの『伯爵』ですのよ」

「は、伯爵様だって!?」

モウラが驚きのあまり、素っ頓狂な声を上げて鎖斧を落としそうになった。

「伯爵って……そんなに偉いでござるか?」

良樹が首を傾げる。日本の歴史の授業で聞いたことはあるが、ファンタジー世界における階級の実感が湧かないのだ。

「あったり前ですがな! 貴族中の貴族ですがな!」

屋台を引きながら、ロードが呆れたように鼻を鳴らす。

「王様、公爵、侯爵、伯爵! 王様の次の、次の、次に偉いお方やで! 帝国軍の将軍クラスでも頭が上がらん、雲の上の存在や!」

「く、雲の上……!」

良樹は慌てて姿勢を正し、馬車に向かって最敬礼(牛丼屋のクレーム対応用)の角度で頭を下げた。

「いえ、そんな事は……」

リリアーナは少し寂しそうな、憂いを帯びた表情を見せた。

「私は何の取り柄もなくて。親たちが流行り病で早死にしてしまい、私が無理やり跡継ぎになっただけですの。由緒正しい家柄とはいえ、武術の才も、政治の手腕も、私にはありませんから……」

その儚げな美しさに、良樹の中二病(と庇護欲)が激しく刺激された。

「そんな! 何の取り柄も無いなんて、そんな悲しい事を言ってはならないでござる! リリアーナ殿には、この拙者の魔眼を狂わせるほどの美貌が……!」

良樹がクサい台詞を吐きかけたのを遮るように、リリアーナはクスッと悪戯っぽく笑った。

「あぁ……でも、私に一つだけ、取り柄がありましたわ。……『ランダムボックス』!」

リリアーナが、白魚のような指先で空間を弾くようにスッと振った。

すると、ポンッ! という軽い音と共に、彼女の膝の上に「ある物」が出現した。

「こ、これは!?」

良樹の目が、信じられないものを見るように限界まで見開かれた。

それは、プラスチック製のボディ。四つの小さなタイヤ。そして、空力を計算されたであろうシャープなフォルム――。

地球の男児なら誰もが一度は熱中したであろう、あの懐かしき『ミニ四駆の外側ボディカウル』であった。しかも、電池もモーターもシャーシも付いていない、本当に『外側のプラスチックのガワ』だけだ。

「あら? ヨシキ様、これがお分かりになりますか?」

リリアーナが不思議そうに小首を傾げる。

「い、いやぁ! 何でござろうかな!? た、多分、異世界の子供向けの玩具か何かでござるな! フハハ、珍妙な形をしているでござる!」

良樹は激しく動揺しながらも、必死に誤魔化した。

(なぜ異世界の伯爵令嬢のスキルから、ミニ四駆のボディが出てくるでござるか!? しかもシールも貼ってない、未塗装の素組み状態で!!)

「そうなんですか。私にはこの『ランダムボックス』というスキルがあって、どこかの全く違う世界の物が、文字通りランダムに出て来るんですのよ」

リリアーナはミニ四駆のボディを愛おしそうに撫でた。

「ガラクタのような物ばかり出ますが、稀に見たこともない素材や、不思議なからくり(ゼンマイ仕掛けのおもちゃ等)が出ることがありまして。私はランダムボックスから出た品を、ルミナス帝国の魔法技術研究所に売る生業をしているんです。だからこそ、何の才もない私が、今も伯爵を務めさせて頂けているんですの」

「そんな! 凄い事ですよ! 自分の力で、お家を立派に守っているんじゃないですか!」

ルナが身を乗り出して、力強く励ました。

「その通りでござるよ! リリアーナ殿のスキルは、決して無駄な力などではないでござる!」

良樹も、ミニ四駆のボディから目を逸らしながら力強く頷いた。

(拙者の『丼マスター』もふざけたスキルだと思っていたが……まさか異世界のゴミ(地球のガラクタ)を召喚して帝国に売りつけるスキル持ちがいるとは……! 上には上がいるでござるな……!)

「まぁ……お優しいんですね。ヨシキ様は」

リリアーナはふわりと微笑み、良樹の顔をじっと見つめた。その瞳の奥には、伯爵令嬢としての気品だけでなく、どこか良樹の「正体」を探るような、好奇心に満ちた色が仄かに揺らいでいた。

こうして、超絶美女の伯爵令嬢と、彼女の謎のスキル『ランダムボックス』という新たな繋がりを得た良樹たちは、馬車に先導されるまま、帝都の奥深くへと進んでいくのだった。

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