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EP 5

ルミナス帝国へと続く、石畳で舗装された広い街道。

大国の中心地が近づくにつれ、行き交う商人や旅人の姿も増えてきていたが、同時に街道沿いの森に潜む魔獣や盗賊の危険も跳ね上がっていた。

「チッ! 囲まれてやがるね。……仕方ない、行くよ! ロード!」

屋台の横を歩いていたモウラが、不意に足を止め、前方を見据えて舌打ちをした。

良樹がモウラの視線の先を凝視すると、数百メートル先の街道上で、豪奢な装飾が施された大型の馬車が立ち往生していた。その周囲を、二足歩行の犬のような魔獣――数十匹の『コボルト』の群れが、下卑た鳴き声を上げながら取り囲んでいる。御者台の男はすでに負傷しているらしく、絶体絶命のピンチだった。

「はいな! 姉さん! 腕が鳴りますわ!」

屋台の牽引棒からスポンと抜け出した賢竜ロードが、獰猛な牙を剥き出しにしてウォーミングアップを始める。

「さぁ! 行きましょう! ヨシキさん!」

ルナが腰の短剣をスラリと引き抜き、振り返って良樹の手をガシッと掴んだ。

「……え? 行くって? どこへでござるか?」

良樹は完全に屋台の影に隠れ、防御の姿勢(しゃがみ込み)に入っていた。

「いやいやいや! 拙者は後方からの『応援』という、部隊の士気を爆発的に高める最も大事な役目があるでござるよ! フレッ、フレッ、モ・ウ・ラ! ほら、行った行った!」

「良いから!!」

「ひぎぃっ!?」

ルナの細くしなやかな腕から放たれた信じられないほどの力に、良樹は首根っこを掴まれ、そのままズルズルと最前線へと引きずり出されてしまった。

(可憐な美少女なのに、引っ張る力がゴリラでござるぅぅ!!)

良樹の情けない悲鳴を置き去りにし、三人の猛者たちはコボルトの群れへと突撃した。

「オラァッ!! 邪魔だ、雑魚共ォッ!」

モウラの褐色の豊満な肉体が躍動する。鎖付きの片手斧が凄まじい遠心力を伴って唸りを上げ、密集していたコボルトたちをボーリングのピンのように薙ぎ払っていく。血と泥が飛び散る中、彼女の圧倒的な暴力は止まらない。

「メガ・フレア!!」

ロードが宙に飛び上がり、上空から灼熱の火炎を吐き出す。炎の壁がコボルトの退路を断ち、阿鼻叫喚の地獄絵図を作り出した。

「お覚悟ッ!」

そしてルナが、風のように敵陣に飛び込んだ。

普段の優しい村娘の顔は消え、冷酷な狩人の瞳。彼女は両手に持った短剣を滑らかに振るい、踊るようなステップでコボルトたちの急所を次々と斬り裂いていく。ひるがえるスカートの裾から覗く、健康的で引き締まった太ももが、死の舞踏の中で妙に扇情的な輝きを放っていた。

「ヒィィィッ……! や、やっぱり、異世界の人達モブは戦闘力が異常に高いでござるぅぅ……!」

良樹は戦場のど真ん中に放置されたまま、頭を抱えてガタガタと震えていた。もはや彼が剣を抜く隙すらない、圧倒的な蹂躙劇である。

ものの数分で、数十匹のコボルトたちは全滅、あるいは恐れをなして森の奥深くへと逃げ去っていった。

「ふん、手応えのない連中だね」

モウラが斧についた血を払い、ロードが鼻息を荒くして戻ってくる。

戦いが終わり、静寂が戻った街道。

コボルトの死骸の山を前にして良樹が腰を抜かしていると、襲われていた豪奢な馬車の扉が、ゆっくりと内側から開かれた。

「――助かりました。皆様の勇猛なるお働き、感謝の言葉もございません」

馬車の中から姿を現したのは、透き通るような白い肌と、艶やかな金色の縦ロール髪を持つ、息を呑むほどに麗しい女性だった。

年齢は二十代半ばだろうか。深紅のベルベットのドレスに身を包み、その胸元は豊満な果実のようにたわわに実り、コルセットで締められた腰のラインから続く優美な曲線は、大人の女性特有の甘く熟れた色気を漂わせている。

(……ご、極上の美女でござる……!)

恐怖で縮み上がっていた良樹の中二病(と男子大学生の煩悩)が、一瞬でレッドゾーンに突入した。ほのかに漂う、高級な薔薇の香水のような甘い匂いが、良樹の鼻腔をくすぐる。

「私、リリアーナと申します。ルミナス帝都へ向かう道中、護衛の者がはぐれてしまい、途方に暮れておりました」

リリアーナは、形の良い唇に優雅な微笑みを浮かべ、両手でドレスの裾を摘まんで美しいカーテシー(淑女の礼)をしてみせた。

「おぅ。助けたんだ、当然、礼は弾んで貰えるんだろうな?」

モウラが、美女相手でも容赦なく、柄悪く肩で風を切りながら凄んだ。Aランク冒険者のシビアな金銭感覚である。

「モウラさん! 失礼ですよ!」

ルナが慌ててモウラをたしなめるが、リリアーナは不快に思うどころか、ふふっ、と余裕のある艶やかな笑い声を漏らした。

「ええ、もちろんですわ。命の恩人に対して、出し惜しみなど致しません。……皆様、もしよろしければ、このまま帝都にある私の屋敷に参りましょう。お礼の品はもちろん、今宵の温かいベッドと、極上の食事を用意させていただきますわ」

リリアーナの切れ長の瞳が、なぜかモウラやルナではなく、泥だらけで腰を抜かしている良樹へと向けられ、妖艶に細められた。

「や、屋敷……? リリアーナさんって、もしかして、どこかの凄腕のご令嬢でござるか……?」

良樹が、震える声で尋ねる。

豪奢な馬車、洗練された身のこなし、そして帝都に屋敷を構えているという事実。どう考えても、ただの商人や町娘ではない。

「ふふっ……それは、お屋敷に着いてからのお楽しみ、ということで」

リリアーナは意味深に微笑み、良樹に向かってそっとウインクを投げてみせた。

突如として現れた、謎多き妖艶な美女。

帝都を目前にして、良樹たち『丼亭』一行は、思わぬ形でルミナス帝国のハイソサエティ(上流階級)への扉を叩くことになったのである。

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