表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/37

EP 2

鬱蒼と茂る見知らぬ森の中。

湿った土の匂いと、やけに巨大なシダ植物に囲まれた場所で、佐須賀良樹はゆっくりと目を覚ました。

「……ここは、何処でござるか?」

良樹は自分の服装を見下ろした。深夜のバイト上がりに着ていた、色あせたパーカーとジーンズ。手には……あるはずの牛丼(特盛)のビニール袋がない。

「拙者はネギ玉牛丼を持って帰路に就いていたはず……。うん、これは夢だ。疲れているんでござるな。寝よう」

異世界転移という超常現象を前に、経済学部生としての合理的な判断(現実逃避)を下した良樹は、木の根元に丸まり、再びすやすやと眠り始めた。

――その時だった。

『きゃあああっ! やめて下さいぃっ!』

森の奥から、女性の悲鳴が響き渡った。

「ナニィ!? 悲鳴だと!?」

良樹はガバッと跳ね起きた。

茂みの隙間から覗き込むと、銀色の髪をした美しい少女ルナが、柄の悪い男たち数人に囲まれているではないか。彼女の足元には、採取したばかりらしい青々とした薬草(陽薬草)が散らばっている。

「へっへっ、こんな所で何してんだよ、姉ちゃん」

「俺達と楽しい事をしようぜ」

典型的な三下ムーブをかます野盗たち。

それを見た良樹は、ふぅ、と呆れたようにため息をついた。

「全く……もう少し品のある夢を見たいでござるな。昨今のラノベ小説でも、もっとマシな導入を書くでござるよ。テンプレすぎる」

良樹は完全にこれを「自分の都合の良い明晰夢」だと勘違いしたまま、茂みを掻き分けて堂々と姿を現した。

「な、何だ!? テメエは!」

突然現れた謎のパーカー男に、野盗たちがギョッとして振り返る。

良樹は右目で前髪を隠すように押さえ、ニヒルな笑みを浮かべた。

「黙れ! 雑魚キャラめが! 貴様らのようなモブは、このビームセイバーの錆にしてくれるわ!」

バッ! と良樹は腰のあたりに手を伸ばし、見えない柄を握り抜く……モーションをした。

「……」

「……」

シュイィィン! という効果音は鳴らない。

あるのは、ただ虚空を握りしめる良樹の右手と、森の静寂だけだった。

「あれ? 拙者のビームセイバーは? おかしいでござるな。なら、我が右手に封じられし暗黒のダーク・フレイムを……」

「コイツ! 頭がイカれてんじゃねぇのか!?」

「やっちまえ!」

良樹の痛々しいポーズに苛立った野盗の一人が、サビ浮く鉄の剣を振り上げた。

殺気。そして、本物の刃が放つ冷たい輝き。

「……ひっ!」

夢なら覚めるはずの恐怖が、ダイレクトに良樹の脳髄を叩く。

牛丼屋の深夜ワンオペで酔っ払いに絡まれた時以上の、圧倒的な生存本能の危機。良樹は腰を抜かし、無様に尻餅をついた。

その瞬間――!

ヒュッ! ドスゥッ!!

どこからか放たれた一本の矢が、良樹に斬りかかろうとした野盗の肩を深々と貫いた。

「ぎゃああっ!?」

「貴様らああああ!! 娘に何してんじゃあああ!!」

森の木々を揺らすほどの咆哮と共に、巨大な両手斧を持った大男サンガが茂みから飛び出してきた。

全身から立ち昇る凄まじい「闘気」のオーラ。それは物理的な圧力となって、周囲の空気をビリビリと震わせている。

「ヒィィッ!? ば、化け物っ!?」

「逃げ……!」

「逃がさんッ!」

サンガは闘気を乗せた大斧を軽々と振り回し、野盗の武器ごと彼らを木っ端微塵に吹き飛ばしていく。あっという間の蹂躙劇だった。

「お父さん!」

ルナがホッと胸を撫で下ろし、サンガに駆け寄る。

「無事だったか!? ルナ! 怪我はないか!?」

「うん。この方が、突然出てきて止めてくれたの!」

ルナが、腰を抜かして震えている良樹を指差した。

(止めたというか、ビームセイバーを探してフリーズしていただけなのだが、結果的に時間を稼いだ形になった)

サンガは血塗れの大斧を肩に担ぎ直し、良樹に向かって深々と頭を下げた。

「おお、そうだったのか! 見ず知らずの若者よ、娘を救ってくれてかたじけない! 私はこの先のダーナ村で自警団をしている、サンガと申す!」

圧倒的なプレッシャー。むせ返るような血の匂い。

良樹は震える手で、自分のほっぺたを思い切りつねった。

「痛っ……」

痛い。すごく痛い。

これは夢じゃない。本当に、命のやり取りがあるヤバい異世界に来てしまったのだ。

中二病の装甲は一瞬にしてパージされ、接客業で鍛え上げられた「素の小心者」が顔を出した。

「あ……」

良樹は慌てて土下座に近い姿勢で正座し、牛丼屋の店長に対するような完璧な作り笑いを浮かべた。

「よ、良樹……。佐須賀、良樹です! 本日はご来店……じゃなくて、お助けいただき、誠にありがとうございます!!」

現実を叩きつけられた良樹の、土下座スタートの異世界生活が始まりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ