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EP 2

ルミナス帝国を目指す道中。

良樹たち一行は、街道から少し外れた場所にある小さな村に立ち寄ることにした。

「……随分と寂れた村でござるな」

良樹は、屋台の影から周囲を見回してポツリとこぼした。

ダーナ村と比べても活気がなく、すれ違う村人たちの顔には深い疲労と諦めのような色が張り付いている。太陽芋の畑も手入れが行き届いておらず、どこか荒んでいた。

広場に屋台を停めた一行の元へ、村長らしき年老いた男性が、しわくちゃの帽子を握りしめながらおずおずと近づいてきた。

「あのぅ……そちらの立派な角をお持ちの戦士様とお見受け致します。少しばかり、お話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

村長の視線は、良樹ではなく、圧倒的な膂力を隠しきれないレスラー体型のモウラへと真っ直ぐに向けられていた。(※良樹は完全に『ただの屋台の荷物持ち』と思われている)

「アタシに用かい?」

モウラは腰に提げた凶悪な鎖付き片手斧をチャリッと鳴らしながら、鋭い八重歯を見せてニヤリと笑った。

「まぁ、聞かなくても大体の察しは付くけどねぇ。この村の空気の重さ、ただの不作や天候不順じゃねぇだろ。何かに脅えてやがる匂いがするぜ」

「はい……お察しの通りです、戦士様」

村長は深くため息をつき、悲痛な顔で語り始めた。

「私達の村の近くの川に、いつからか**『キングクラブ』**という巨大な魔獣が住み着いてしまいまして……。村の若い衆が何人も襲われ、私達は川を渡って街へ商売に行くことも、魚を獲ることもできずに困り果てて居るのです」

「キングクラブ……」

ルナが痛ましそうに顔を曇らせた。

「まぁ、可哀想に。川を塞がれちゃったら、水も汲めないし、生活が立ち行かなくなっちゃうわね」

「分かった、分かった。要はそのデカいカニを退治すりゃ良いんだろ?」

モウラは腕を組み、姉御肌全開で請け負う姿勢を見せた。しかし、次の瞬間、彼女の瞳の奥に『ギルドのAランク冒険者』としての鋭いビジネスの光が宿った。

「けど、アタシの腕は安くないよ? 命懸けの仕事だからね」

「は、はい! もちろんでございます! 村の存亡の危機ですから、なけなしの村の貯金を集めました! ……50万円(ルチアナ円)では、如何でしょうか?」

村長が震える手で、布に包まれた分厚い札束を差し出した。

「50万!? うひょぉぉっ!!」

良樹の目が¥マークになった。深夜の牛丼屋のバイトなら、何ヶ月もドチャクソ働かなければ稼げない大金である。

「よっしゃ、悪くない額だ。契約成立だ!」

モウラがドンッと村長の肩を叩き、豪快に笑った。

「そのカニの甲羅、アタシの鎖斧で粉々に砕いてやるよ!」

「ありがとうございます、戦士様! これで村は救われます!」

村長が涙ぐみながら何度も頭を下げる。

その感動的な光景を見守りながら、良樹は中二病の眼帯をスッと押さえ、極めて爽やかな笑顔でモウラに向かって親指を立てた。

「頑張るでござるよ! モウラたん! 拙者はこの村の安全な広場で、屋台を守りながら、君の勝利を心から祈っているでござる! アーメン!」

良樹はそう言うと、持っていた白エプロンを優雅に翻し、サッと屋台の後ろ(安全地帯)に隠れようとした。自分はあくまで後方支援(飯炊き係)であり、巨大な人食いカニなどという物理的な暴力とは無縁の存在であるという、強固な自負があった。

ガシィッ!!

しかし、良樹のパーカーの後ろ襟が、強力な力で真後ろに引っ張られた。

「何を言うてるんや!? ヨシキはん!! ワイらも一緒に行くんや!!」

屋台の牽引棒から顔を出したロードが、良樹の襟首を咥えてズルズルと引きずり出した。

「そ、そうでござるか!? いや、拙者は戦力外通告を……」

「そうよ! 私たちは一緒に旅をする仲間なんですから!」

ルナが両手を腰に当て、ぷくっと頬を膨らませて怒った。

「それに、ヨシキさんのスキルで出す『丼』がないと、モウラさんもお腹が空いて力が出ないかもしれないでしょ? 後方支援も立派な戦いなのよ!」

「そ、そんなあああ!?」

良樹の悲鳴が、寂れた村の空に虚しく響き渡った。

「ガハハ! 違いない! 討伐の後の飯が何よりの楽しみだからな! ヨシキ、アタイの背中に隠れてりゃ、泡吹かせてやるから安心しな!」

モウラが豪快に良樹の背中をバシバシと叩き、肺から空気がすべて絞り出される。

かくして、安全な村でのんびり屋台番をするはずだった良樹の目論見は脆くも崩れ去り、一行は巨大なハサミを持つ魔獣『キングクラブ』が潜むという、危険な川へと向かうことになったのである。

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