第二章 ルナミス帝国
ダーナ村でのサバイバルな休日(魚突き)を終え、夜の星空の下で焚き火を囲んでいた時のことだった。
パチパチとはぜる炎を見つめながら、良樹はふと、以前モウラが言っていた「都会でデカイ事をしないか」という誘いを思い出していた。
(この村の温かさも捨てがたいが……大都会に行けば、ドブ掃除やゴミ拾いといった『安全で平和な善行ポイント稼ぎ』が無限にあるのでは……!? 毎日のように魔物と戦うのは、拙者の心臓がもたないでござる!)
良樹は、あくまで『安全第一』という極めて小心者な理由から、ゆっくりと口を開いた。
「……そうでござるな。拙者も、都会には興味が有るでござる」
「おっ!」
ピラダイの骨をしゃぶっていたモウラが、嬉しそうに顔を上げた。
「アタイと組む気になったか! よっしゃ、そうと決まったら大陸最大の人間国家、ルミナス帝国の帝都に行こうぜ! あそこなら、冒険者ギルドの本部もあって人もウジャウジャいる。お前の『丼』ならバカ売れ間違いなしさ!」
「ルミナス帝国……!」
響きだけで圧倒的な大都市感が漂ってくる。良樹の脳内に、ポイント(と小銭)がチャリンチャリンと貯まっていく輝かしい未来が浮かんだ。
その時、横で聞いていたルナがガタッと勢いよく立ち上がった。
「私も行く! 行くわよ!」
「えっ? ルナたんもでござるか?」
良樹が驚いて目を丸くする。
「と、当然でしょ! ヨシキさんは世間知らずなんだから、私がいなきゃすぐに変な人に騙されちゃうわ! それに……」
ルナはチラリとグラマーなモウラを横目で睨み(謎の対抗心を燃やし)、「ダーナ村の看板娘として、都会の人たちにも丼亭の味を広めなきゃね!」と胸を張った。
「ルナたん……! かたじけないでござる! 拙者、百万馬力でござるよ!」
良樹は感動のあまり涙ぐみ、固く握手を交わした。
翌朝。
ダーナ村の入り口には、旅支度を整えた一行と、それを見送る村人たちの姿があった。
「うおおおぉぉん! ルナァァァ! お前が村を出ていく日がこんなに早く来るなんてェェ!」
元・百人隊長のサンガが、大の大人のくせに顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして大号泣していた。
「ヨシキ君! もしルナに悪い虫(変な貴族やチャラい冒険者)が寄り付いたら、遠慮なく丼の汁をぶっかけてやるんだぞ! アッ、やっぱりワシも帝都に……」
「はいはい、お父さんは村の自警団長でしょ。しっかりしなさいな」
ユキナが苦笑いしながらサンガの背中を叩き、良樹たちに大きな麻袋を手渡した。
「ヨシキちゃん、これ。道中で食べられる『太陽芋』と、怪我した時用の『陽薬草』よ。無理だけはしないでね」
「ユキナ先生……サンガ殿。短い間でしたが、本当にお世話になったでござる! 帝都で一旗揚げて、必ずや恩返しをするでござるよ!」
良樹は深く頭を下げた。
「ほな、そろそろ行きまひょか!」
サンガから贈られた立派な『丼亭』の屋台。その牽引棒には、立派な体躯をした賢竜ロードが、馬車馬のごとくすっぽりと収まっていた。
伝説の竜が屋台を引くという、本来ならあり得ない光景だが、ロード本人は「美味い飯のためなら安い労働ですわ」と全く気にしていない。
「皆、元気でねーっ!」
ルナが大きく手を振り、一行はダーナ村の村人たちの温かい歓声に見送られながら、街道へと足を踏み出した。
ガラガラと車輪が鳴り、のどかな景色が少しずつ後ろへと流れていく。
「楽しみですわな! 帝都は」
屋台を軽々と引きながら、ロードが鼻歌交じりに言う。
「人間のデカい街っちゅうのは、美味い食材や珍しい魔道具がいっぱい集まるさかいな。ヨシキはんの丼も、さらに進化させられまっせ!」
「アタイも楽しみだ! 帝都じゃ、田舎とは比べ物にならないくらい金払いのいい、面白い依頼も山ほど有るからな。強い魔獣との戦い……うずうずして腕が鳴るぜ!」
モウラが腰の鎖斧をじゃらりと鳴らし、凶悪な笑みを浮かべる。
「ひぃっ! 拙者は強い魔獣はお断りでござるよ! 帝都に着いたら、安全な裏路地でひっそりと営業するでござる……!」
良樹はビクッと肩を揺らし、慌てて釘を刺した。都会に行ってまで命の危機を味わうのはご免である。
「もう、ヨシキさんは相変わらずなんだから」
ルナがクスッと笑い、良樹の隣を歩きながらその顔を覗き込んだ。
「でも、どんな場所に行っても、私たちがヨシキさんを守るからね。一緒に屋台、頑張ろうね! ヨシキさん!」
朝日に照らされるルナの眩しい笑顔。
良樹は中二病の眼帯をスッと押し上げ、照れ隠しのようにキリッとした表情を作った。
「……はいでござる! 我が魔眼と、究極の丼の力……帝都の民の胃袋に、とくと刻み込んでやるでござるよ!!」
かくして、勘違い聖人(中二病)と、看板娘(弓の達人)、腹ペコ女戦士(牛耳族)、そして屋台を引く関西弁の竜という、アナステシア大陸でも類を見ない超絶異色のパーティが、大国ルミナス帝国の帝都を目指して歩き出したのであった。




