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りすく屋のクスリ  作者: TOMMY


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3/13

記憶抹消薬

僕はポカンと口を開けながら、りすく屋の店内を眺めた。

「僕は、どうやってここに来たのですか?」


棚越しに声が響く。

「そんなことは知らん。お前さんは、他の客がどうやってここに来たのか理由が分かるのかい?」


老人の問いに返す言葉が見つからなかった。

「……そうです、ね」


「どうやって来たかは知らんが

──入り口からすっ飛んできて、小一時間意識を失っとったのは確かだ」

老人はそう言いながら静かに笑った。


店の中は相変わらず箱で埋め尽くされていた。


すると急に、頭が軋んだ。視界が重力を失ったようにぐにゃぐにゃに歪む。その瞬間、屋上から地面に墜落した記憶が鮮明に思い浮かんだ。


背筋はビクンとその恐怖に慄く。鳥肌が足元から一気にかけ上がってきた。震えが止まらない。全身を悪寒が支配した。


頭の中に死のイメージがこびりつく。内臓が浮き上がる感覚。地面が迫ってくる映像。そして、真っ暗で冷たい感覚。


何度も、頭の中で反芻する。

そこにある、死。


僕は、嘔吐した。

身体の内側が膨らむように全身を吐き気が覆う。


「ほれ、こいつを飲みな。特別サービスだ」

老人は白い錠剤を僕に投げた。


「これは、何の、薬ですか?」


吐き気を抑えながら、僕は聞いた。

どこかで見たことがある気がした。


老人は、少しだけ笑った。


「知ってるだろ。記憶抹消薬だ」


僕はそれを拾い、手の平の上で転がした。

強い頭痛と酷い吐き気は視界を歪め続けている。

その白い錠剤は、まるで溶けたグミのように、

ぐにゃりと歪んでいる。


これを飲み込めば、楽になれる。

けれど……いったい僕は、何度繰り返してきたのだろう。


そのたびに何かを失い、人間ではなくなっていく気がした。


口と手は、強力な磁石のように引き合っていた。僕は必死にこらえた。

急激に視界が白くぼやける。


「おいおい、逝っちまったら意味がないだろう」

老人は笑っていた。


「ッッ……」

頭の痛みに弾かれて、僕の手は口にとりついた。

舌が錠剤を認識する。

苦味、酸味、辛味。その味を、知っている。

ざらついた成分がじわりと溶けだす。


それとともに、痛みが曖昧になっていく。

思考が虚ろになっていく。


また、消えていく。

痛みと虚ろの狭間で、僕の中の何かは、弾けた。


……ダメだ!!


僕は燃えるような頭の痛みを振り払い、

口の中に指を突っ込むと、舌の上の錠剤を、ぐいとつまみ出した。


そのとき、老人の目玉が僕を見つめていたことだけは、覚えていた。


僕は震える足に力を込めて、ゆっくりと立ち上がった。白い視界が明滅する。


──ここにいてはならない。

ぼんやりとした思考はそれだけを僕に伝えていた。


一歩、また一歩と足を踏み出す。そして、店の扉を開けた。


白く濁った視界は、急に鮮明になる。

すると、背中にドンという衝撃が走った。

僕は転ばないように足を前に出す。


するとそこには、手を洗う蛇口が三つ並んでいた。正面には大きな鏡。周囲を見渡せば小便器と個室が並んでいる。水が流れる音が耳に届く。


「……なんで」

言葉が小さく漏れた。

ここは、会社のトイレだった。


……早く戻らないと、怒られる。

僕は事務所に小走りで戻った。


ふと、少しだけ胃がキリキリと傷んだ気がした。

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