表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

      約2キロの長い長い道 その四

計画の失敗で岩木は対応に追われ、岩木が一真達に事情を話ができたのは夜も更けてからだった。


「悪かった、こんなことになるとはな。お前たちが睨んでいるとおりこの件には正秀院様が絡んでおる」


天照姫の実家、森津藩は親藩大名であり老中阿部とも大きな繋がりがあった。

今回姫が側室として入ったことも老中が斡旋したためだ。


これにより老中派はより勢力を持つことができる。


一方、正秀院はこれ以上老中に勢力を持たせれば自分の進言が取り入れられない恐れがある。

それどころか、まだ若く幼いとはいえ側室として大奥に老中の息のかかったものが入るのだ。

子供、それも男の子でも産まれてしまえば、大奥での実権もなくなるかもしれない。


正秀院は、自分の弟である下府中侯に天照姫の暗殺を命じた。

それは老中子飼いの庭番衆が確認をしている。


しかし、もしこれが表ざたになれば正秀院の権威は失墜するであろう。

老中派は逆に絶好の機会だと考えた。


それには暗殺の証拠がいる。

唯の憶測で正秀院を捕らえてしまっては、正秀院派の大名が黙っていないだろう。

老中派は証拠を掴み、なおかつ姫を守る案を練る。


その過程で森津藩の事情を知る者からこんな意見が出された。


実は、森津侯の国元には、双子として生まれた子供は先に生まれたほうのみ育てるという風習があるのだ。

幸か不幸か天照姫は双子の姉として生まれてきた。

妹姫は本来なら忌み子として捨てられる。

しかしそれはあまりにも惨いとして下屋敷の一室でひっそりと育てられていたのだ。


その姫の名前は月詠姫といった。


届けも出されず、ただ屋敷の角で少しの人間だけが知る存在。


今回、その瓜二つの月詠姫を天照姫の身替わりとしてわざと敵方に襲わせて、そこから証拠を割り出すという方法はどうであろうか。


岩木をはじめとする複数の大名や旗本から反対が起こった。

途中でばれてしまえば天照姫が公に処分されることは間違いない。

ましてや、人を犠牲にして政敵を討つなど人の道から外れている。


しかし肝心の森津侯がそれを許可してしまったのだ。

「もし、その方法で内政が巧くいくのであれば止むを得まいと思う。天照も月詠もわかってくれる」


忌み子とはいえ隠してまで大切に育てた子供である。

その子の命と引き換えに政敵をおとしいれる。

森津侯にとって断腸の思いに違いないだろうがあまりにも無慈悲である。


岩木は天照姫を預かる役を買って出た。

万が一、天照姫自身がこの計画に反対すれば、暗殺阻止を重視する方向でいたのだ。


大奥で天照姫と月詠姫が入れ替わることはたやすかった。


まず衣装箱を天照姫への森津侯からの差し入れと称して持ち込む。

その中には月詠姫が潜んでおり、天照姫の部屋の中で二人は入れ替わる。

月詠姫は天照姫の衣装を着て、天照姫は襦袢のみとなり、衣装箱に潜む。

姫の入っている衣装箱は森津侯に返却をするということにして江戸城の外に出し、そのまま岩木屋敷に向かう。


これにより、誰にも怪しまれることなく外に出ることができたのである。


岩木は面倒を見ながら様子を探った。


時がたつにつれて月詠姫を気にかけている様子を見せ始める。


「月詠姫がわらわの身代わりになることはやはり不憫でなりませぬ。どうか岩木殿、助けてやってはくれませぬか」

昨晩ついに天照姫が岩木に願い出た。


計画を中止するならばいつまでも隠すわけには行かない。

岩木は天照姫を大奥に一旦戻すことにした。


正秀院の尻尾は後でつかむつもりで、とりあえずは暗殺だけでも阻止できるように庭番衆の手配も促した。


後は、姫を運ぶ役だけである。

旗本や大名だと目立ちすぎる。


目立たない御家人がいい。

甥っ子の一真は刀の腕が立つし、機転も利く。

襲われたとしても死ぬことはないだろう。


そう思い、奉行所に使いをだしたのであった。


三人はようやく納得がいった。

「下府中侯が実行犯。それで城にいるはずの姫を見て驚いてしまい、思わず斬りかけてきたってわけか」


「大奥が騒ぎになってないのはそっくりの身代わりがいることで、姫はその身を案じている。籠から出た理由は、月詠姫の命を永らえたくて混乱させたかったのか」


「それはわかるけど、打掛けにはなにがあるのさ」

3人は考え込む。


その時、母屋で悲鳴が聞こえた。


「曲者っ。誰かあ!」


聞き覚えのある声だった。


「あやめ殿の声だ!」


一真が叫んだ。


一真達はあやめのいる母屋へ一斉に駆け出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ