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第一幕 新米同心たちの受難 その一

新米同心、佐倉一真(さくらかずま)は奉行所で書類をつけていた。

とはいっても、自身番でつける日誌をまとめて書いているだけなのだが。

いたって品行方正で常に沈着冷静。

端正な容姿を持ちながらも浮いた噂が一つもない。

真面目の代名詞のような一真。

その一真が、どうしてまとめて日誌などをつけているのか。

一真は隣の机についている小柄で少し丸い男を見る。


男の据わっている場所は窓の傍だった。

さわやかな風が吹きぬけ、暖かな日差しが入ってくる。

座っている男、大堀兵庫(おおほりひょうご)は帳面を凝視している。

その目にまぶたがどんどん降りていく・・・。

そして下まぶたと重なったと思った瞬間、カッと目を開けまた凝視を始める。


「兵庫」

一真が声をかけようとした瞬間、頭の上から声がした。


「やい、兵庫、なんだその態度は。この俺と一真が働いているのは誰のせいだと思ってやがる」


見上げると、背の高い小奇麗な侍が柱に寄りかかって立っていた。

兵庫は声に吃驚して顔を上げたが、声の主を見て間の抜けた狸のような顔になった。


「安次郎か、脅かすなよ」

「驚かすな、じゃねえよ。お前が期日になってもやってなかった~だの、忘れてた~だの言うから、お前の分の帳面付けやら、日誌つけやら、上申書やら手伝ってんだぜ。そのお前が居眠りとは何たる情けなさ」


安次郎こと清島安次郎(きよしまあんじろう)は兵庫の頬をぐいっとつねり上げた。

「いひゃい、いひゃい」

兵庫がふにゅふにゅした言葉で痛いと訴える。

「目え覚めたか。このやろ」

安次郎が笑った。


「終わったぞ」

騒ぎの横で一真は黙々と日誌を書き続けていた。

「やった。かたじけない」

兵庫は日誌に飛びついた。

「お礼は、八百善でいいよ」

笑いもせずに一真が江戸一の高級料亭の名前を言ったので兵庫は目を白黒させた。

「冗談だ」

無表情で一真が付け加えた。

こういうやつなんだ、と安次郎と兵庫は顔を見合わせて笑いあった。


そのとき、筆頭与力の中尾が一真に声をかけてきた。

「佐倉、岩木様の屋敷に行くように達しがあった。今からゆけるか」

「はい。大丈夫ですが、私一人ですか?」

「そうだ。岩木様がじきじきに話したいことがあるそうだ」


中尾は一真をじいっと見下ろした。

何でこんな奴がお偉いさんに呼ばれたのだろうか、という疑問の目だ。


「わかりました、行きましょう」

一真は立ち上がった。


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