侵入者 その三
黒装束をまとった一真達は門番の口をふさいで当身をする。
門番は驚く暇もなくくたっと倒れこんだ。
3人は橋の欄干にそっと寄りかからせた。
中の様子を門の隙間から伺う。
見張りは思ったより少ない。
思いの他、簡単に忍び込むことができた。
壁伝いに奥へ進んでいくと、目の前に本丸が見えてくる。
本丸は大きな壁に囲まれており、入り口は表側には多くあるが、大奥側には勝手口のみ。
大奥に入るには壁をよじ登り、中に入るしかなさそうだった。
登りやすそうなところを探していると兵庫が黙ったまま指を刺した。
見ると、中に向かって縄梯子がのびている。
「先客がいそうだな」
一真が小声でつぶやいた。
一真が登ってあたりを見渡す。
辺りは静寂そのもので、騒ぎになっている様子もない。
月明かりは大奥を明るく照らす。
その下に動く影はない。
人がいないことを確認すると下にいる3人に合図を送る。
全員登り切った後、姫に部屋の位置を声を潜めて尋ねた。
「まさにこの辺りじゃ。のう、一真殿。ここに梯子があるということは・・・」
「ええ、月詠姫の部屋に忍び込んでいるということでしょうね。急ぎましょう」
かけっぱなしにしたままであることから、まだ中に潜んでいる可能性が高い。
壁を越え、外庭に面しているという姫の部屋を探す。
姫が足を止め、一つの部屋を指差した。
「あの部屋じゃ。あの丸い窓のある」
一真と安次郎が部屋に近づき様子を探る。
中から幼さの残る女の声がした。
「話が違うではないか。何故、こんな。あっ」
言葉が途中で切れて大きな物音がした。
二人は障子を開けて部屋に乗り込んだ。
中には、同じく黒装束の男が4人ほどいた。
その中央に少女が今にも斬られそうな様子で床に押さえつけられていた。
「何だ、お前ら」
一真達を見た男たちが手を止めた。
「味方ではないさ」
安次郎がそういい突っかかっていった。
一真もその後ろに続く。
狭い室内で刀を振り回すのはあまり効率が良くない。
もっともそれは相手も同じだ。
思うように刀が振れない安次郎は一旦下がり、敵を庭へとおびき出す。
男たちも安次郎を追い、外に出た。
しかし、外に出た瞬間、安次郎の刀は息を吹き返す。
安次郎が相手をしている男は2人。
ちろちろと剣先を動かして、安次郎は相手の出方を見る。
一人が左から切りかかる。
もう一人も半歩遅れて右から切りかかる。
安次郎は一方の男の刀を避けると男の体の横にまわりその体を盾とし、もう一人の男に斬りつけた。
同時に盾となった男の体を思い切り押し倒す。
さらに上から当身をして、気絶させた。
「殺したら証拠にならないもんな」
そういうと男の覆面をはずした。
それを紐のように切り裂き縛り上げていく。
一方一真は、室内に篭ったままであった。
左腕で月詠姫をかばいながら二人の男を相手にしている。
一真は男たちに問う。
「誰の差し金だ。なぜ姫を狙う」
「ここにいるのが天照姫だろうと月詠姫だろうと生きていられては困るんだよ」
言い終わるか終わらないかのうちに、一真に討ちかかってきた。
一真はそれを刀で受け止めると、そのまま相手の刀の根元まで滑らせる。
刀身から火花が飛び散った。
刹那、一真が刀身を傾け、相手の刀を飛ばした。
刀は壁に深く刺さった。
一真は刀をなくした相手にすばやく峰打ちを食らわせる。
直後もう一人が切りかかってくる。
2,3度打ち合ったあと、しばらく睨みあう。
男が切り込んできた。
一真は胴が開いたのを見逃さなかった。
刀を裏に返して峰で思い切り打ち込む。
ぼきっと鈍い音がして男が崩れこむ。
「終わったな」
涼しい顔をして一真がつぶやいた。