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芽吹きの刻-猫が見た世界『顕現』

※この話は過去投稿の改訂・加筆版です。初見の方も安心してどうぞ!

『顕現』


数時間後。白帝城が従者のマヤを連れて来たので、総勢7人が先程の簡易会議室になってた研究室の隣りにある

第二研究室に揃っていた。

研究室の内部は、もともと設置してある家具類は運び出され、何もない空き部屋のようになっている。


部屋の中央には、白く淡く光る複雑な模様の魔法陣が描かれていた。

雫曰く、魔法陣はまだ起動していて

完全に召喚が完了するまで止まらないらしい。

この魔法陣と対になる術式が、発動者の雫に刻まれ、止まるまで葉力を少しづつ吸い取り続けてしまう…と言う話しだった。

それを聞いた白帝城が、また激昂しそうになったが、天使が何とか諌めてくれたので事なきを得た。


クスノキの枝を大事そうに抱えた雫が、魔法陣の中央に立つ。

九尾が腰を落とし、護るように両腕の中に雫を包み込んだ。

「…いくね。」

雫が、一言いうと同時に魔法陣が発光した。目を開けていられない程の光が室内を満たす。

白帝城達は片手で光から目を庇い

何とか状況を見定めようとするが、

光の中の2人は全く見ない。

何処からともなく、遠くから、弦楽器のような調べが聞こえてくる。

このままで、本当に大丈夫なのか…

不安を感じた瞬間に光は弾け、調べと共に消え失せ、

静寂に包まれた。


床の魔法陣の光は消えいて、術が完成した事を物語っている。

九尾が大きな溜息を吐くと、両腕の中にすっぽり収まっていた雫を解放するが、その顔は苦しげに歪んでいた。

「九尾…」

天使が、手を口にあてがいながら名を呼んだ。九尾の顔色は、青を通り越し、紙のように白い。

「…にーちゃ…」

雫が九尾の顔を見て思わず小声でもらし、縋り付くと苦しげな表情が少し和らいだ。

「大丈夫、ちょい疲れただけで何も問題ないよ。」

不安そうな雫を安心させるように、

水色の髪をひと撫でしてニッと笑う。

2人の様子を見て、皆がホッと胸を撫で下ろしている中で魔剣だけが、

「にーちゃ?」

と不思議そうに首を捻る。

「ゲホッ!」

九尾がむせたように咳こむ。

雫が慌てて、右手で九尾の背中をさする。左手には何かをしっかりと抱き抱えていた。

「…雫、それは?」

茶色くて、毛がモコモコしてる…犬?

それに気が付いた九尾が、雫の腕の中で丸くなってるそれを覗きこむ。

「何だ?」

魔剣も話しがそれた事を気にもとめずに、雫の側まで寄って来た。

釣られるように、アストロも恐る恐る続く。

「ん…神獣…かな?」

雫が九尾にそれを差し出すと、反射的に受けとって抱いてしまう。

「柔らかっ!」

フニャっとした柔らかい身体。ほのかに温かく、長くしなやかな尻尾がゆらゆらと揺れる。


雫が神獣と呼んだそれが、のそっと顔を上げた。ピンっと立った大きな耳。アーモンド型のクリっとした目。瞳は翡翠色

「猫?」

魔剣が手を伸ばして、顎の下を指先でなぞるように撫でる。

「これは…また、何で、猫なんでしょうね…?」

アストロが、触りたそうに手を出すが、直ぐ引っ込める。

「ん…分からない。確かに人だったんだけど…何で猫になっちゃったんだろう?」

「厳密に言うと、猫ではないみたいだなぁ。コイツ…背中に小さいけど、羽があるぞ…。」

九尾が指摘した通り、丸くなった背中に、小さな小鳥のような羽根がついている。

すると、猫もどきは九尾の話しを理解したように、首を捻り自分の背中を確認するように視線を向けた。

「あ、本当に羽根がある…。」

と、猫もどきが九尾の腕の中で呟いた。一瞬、誰の声か理解が出来ず、その声の主が腕の中に居る猫もどきだと理解した途端…

「うわっ!喋ったっ!?」

九尾は大声で叫ぶと、猫もどきを放り出した。放り出された猫もどきは、空中で翻り、背中の羽根をバタつかせる。

すると、羽ばたきひとつで背中の羽根が大きくなった。しなやかな身体を隠す程の大きさになると、猫もどきは部屋中をバッサバッサと飛び回る。


「雫が召喚したのは…コレ…なんで?」

白帝城があっけにとられている横で、

「可愛い…」

天使は笑顔で飛び回る猫もどきを見つめる。

「いやいや、可愛いのは良いのですが…役に立つのでしょうか?」

アストロが顎髭を撫でながら問うと

魔剣が「さぁ?猫だしな。」

と素っ気なく答えた。


➖さっきの雫達の話しを聞いて、

かなり混乱した。多重世界からの召喚で、私はこっちに来た…みたい?

え、そんな事が本当に起こるものなの?

茫然自失とは、正にこの事…。


こっちに来てから、幽霊みたいになって、あちこち見てたけど…誰も私には気が付いてなかった。でも、雫には見えてたんだ。その、術式?とやらの影響で…。

だから、何度も目が合ったんだ…と納得するしかなかった。


魔法陣の中央、雫と九尾の頭の上辺りに浮かんで見てたら…いきなり真っ白な光に包まれ、

もの凄いチカラで引っ張られる。そのまま、雫が抱えていた枝の中に吸い込まれていった。


枝の中は、木漏れ日のような…温かい優しい光に満たされている。

これは、あの大きなクスノキの記憶なのだろうか…。

緩やかな、ヴァイオリンの音が聞こえてきた。

すると、何か、声が…あぁ、何が言われたような気がするのに、思い出せない…。

とても大事な事だったような気がするのに。


ふと我に返れば…雫の腕の中にいて。

身体の異変に気が付いた…あれ、もしかして、

私、猫になってる?

手が…肉球になってて。毛が、もふもふしてる。

尻尾も自在に動く。しかも…何か、羽根あるし?

思わず声が出た。あ…一応喋れるんだね…と他人事の様に思ってたら、

九尾にぶん投げられる。

あぶなっ!って思ったら、飛べてるし…。

羽根、デカくなるし…。


…この状況、誰か説明してっ!

何が、どうしてっ!?

私は、羽根生やした猫になってるのっ!

羽根がある猫って、何っ?!

意味不明、わけわからんっ!

パニックを起こして、

私は飛び回る事に専念するしかなかった…。


こうして。

私の、とんでも異世界生活は幕を開けたのだった…。➖


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