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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

【BL】大蜘蛛は番(つがい)を求め、夜を彷徨う。

作者: ありま氷炎
掲載日:2025/07/15

 中二の夏、僕は不思議な体験をした。

 夢ではない。

 体験者が僕だけじゃないし、警察も介入している。


 だけど、警察は真実を知らない。

 残忍な事件、巻き込まれた中学生の二人。

 僕も、元喜もときも警察に真実を話さなかった。

 だって、信じるわけがないから。


 十五年前。


「梶山。悪いが、このプリント、蜘夫ちふに届けてくれないか」

「わかりました」


 担任から渡されたのは紙袋。そこに結構な数のプリントが入っている。

 

蜘夫ちふ、学校辞める気ですかね」

「……さあな」


 僕の問いに担任は曖昧に笑った。

 蜘夫ちふ元喜もとき、珍しい苗字のクラスメートだ。

 絶賛登校拒否中。

 白人顔負けの白い肌に、綺麗な黒髪の男だった。

 顔は男にも見えるし、女にも見える。

 中性的だ。

 だから虐められて、登校拒否。

 そういうわけでもない。

 性格は陽気で、学校にくると超ハイテンションで、頭おかしいのかなと思ったことが何度もある。

 クラスメートの中でも、趣味があう僕が多分彼に一番に話しかけられていてる。そのせいで、プリントの配達を頼まれたのだと思う。

 彼とは漫画の趣味が一緒だ。ひっそり持っていた漫画のキャラの下敷きを見られてしまい、馬鹿にされると思ったら、蜘夫ちふも好きな漫画だった。

 続きを貸してくれって言われたので、貸したことがある。

 そういえば、新刊、読んでないかもしれない。

 あいつは多分貧乏だと思う。

 町はずれにある家はボロボロだし、シングルマザーだ。

 なぜ蜘夫ちふの家を知ってるかというと、二度ほど遊びにいったことがあるからだ。

 漫画を回収するためだったけど。

 あいつも僕の家にきたことがある。

 思えば、他の友達よりも仲がいいのかな。

 いや、でもお互いに漫画のことしか話した事ないし、会った回数も両手で足りる程度だ。

 それくらい、あいつは学校にきてない。

 義務教育だから退学になることはないと思うけど。

 

「今日も、暑い」


 首筋を流れる汗をハンカチタオルで拭う。

 蜘夫ちふの家が見えてきた。


「すみません!」

 

 ドアベルなんてないから、玄関の扉を叩きながら声をかける。


「梶山です。元喜くんはいらっしゃいますか!」


 まだ蜘夫ちふの母親には会ったことがない。

 シングルマザーという話もクラスメートの噂話で知ったもので、本人に確認したわけではない。

 もしかしたらシングルマザーなんて単なる噂かもしれない。


「だ、誰!」


 甲高い声が家の中からした。

 蜘夫ちふのお母さんか、なんか思ってたのと違う。

 陽気な感じ、のほほんって感じだったから、お母さんも同じような感じだと思っていた。

 ちょっと怒ってるみたいな。

 間が悪いな。


「す、すみません。蜘夫ちふくんのクラスメートでプリントを届けにきたんです。お邪魔みたいなので、また来ます!」

「元喜の?!」

「お母さん!登利のぼりだよ。話したことあったでしょ?」

「ああ、そうね」

 

 蜘夫ちふ、いたのかよ。だったら始めから出てくれよ。

 お母さんの声がちょっと落ち着いたな。


「ごめんなさいね。ちょっと勘違いして」


 がたがたと音を立てながら、玄関の扉が開く。扉はスライドのガラス戸で建付けが悪い。


「よお!登利のぼり!」

「ああ、蜘夫ちふ

蜘夫ちふって……。名前で呼んでくれたらいいのにさ」

「そうだな」


 蜘夫ちふは少し犬みたいなところがある。

 なんだか尻尾を振られている気がするんだけど。

 こう見ると、僕のことすごい気に入ってるように見えるけど、普段はまったく連絡してこないし、変な奴だ。

 まあ、いいや。


「来てくれて嬉しいのだけど、今日は」

「母さん、少しだったらいいでしょ?」


 お母さんは嫌そうだけど。


「あの蜘夫ちふ。忙しかったら」

登利のぼり、少しだけ上がって。ちょっと俺と遊んでよ」


 蜘夫ちふが妙に強引に誘ってきた。

 まあ、予定もないしいいけど、蜘夫ちふのお母さんを見ると苦笑していたけど、まあ、大丈夫なのかな?

 とりあえず蜘夫ちふに言われるまま、家にお邪魔した。

 

登利のぼり、何か漫画もってきてくれた?」

「持ってくるわけないだろ。僕は学校帰りなんだから」

「そうかあ。そうだよね」

「次持ってくるよ」

「次、そうか。次ね」


 蜘夫ちふはなぜか一瞬暗い顔をした。

 なんだろう。

 今日の蜘夫ちふは少し変だ。いつも変だけど。


「じゃあさあ、ウノでもしようよ」

「いいけど」


 蜘夫ちふは嬉しそうにウノカードを持ってくる。

 親は蜘夫ちふで、僕に七枚、自分用に七枚配ったところで、悲鳴が聞こえた。


「母さん!」

 

 なんなんだよ!


登利のぼり!何があっても絶対、部屋から出てこないで。後気配も消して」

「はあ?」

 

 僕の疑問に答えないまま、蜘夫ちふはウノカードを放り投げて、部屋を出て行ってしまった。

 っていうか揉め事?

 借金取りとか?


「時間ですよ。真紀子さん。わかっていたでしょう?」

「もう少し、もう少し時間をください」

「だめです。こうして村を出ることを許したことがすでに特別なのですから」

「でしたら、私も連れて行ってください!」


 古い家のせいか、声がでかいのか、会話が丸聞こえだ。

 顔見知りみたい。

 村?特別?


「いいよ。母さん。僕はいくよ。ずっとわかっていたことだし。心残りは登利ともりともっと遊べなかったこと。後は漫画の続きよみたかったなあ」


 心残り?どういう意味。

 死ぬのか?

 なんだ、この展開。


「あ?君だれ?」


 は?声?

 すっと背後が寒くなった。

 まったくさっきまで気配すら感じなかったのに、僕の後ろに女の人が立っていた。

 とても綺麗な人、黒髪に大きな瞳、真っ赤な唇。

 妖艶という言葉がぴったりの人だ。


「可愛いわね。前菜にしようかしら」


 首筋を撫でられる。

 ぞっと寒気と同時になんだか気持ちいい。

 なんだ、この気持ち。

 ふと柔らかいものが首筋に当たって、それからちくっと痛みがした。

 

  *


 次に目覚めると僕は薄暗い部屋に閉じ込められていた。

 女の人の悲鳴?痛くなさそうだけど、高い声がして、唸るような男の声。

 どこかで聞いたような。

 僕は気になって声の方向へ歩いて行った。

 障子で仕切られた隣の部屋。

 穴が開いていたので、そこから覗くと、女の人と蜘夫ちふが裸で抱き合っていた。

 見たくないのに、目を逸らせない。

 穴は小さいはずなんだけど、女の人が僕を見た気がした。

 そしてにやっと笑う。

 綺麗だけど不気味だ。

 急に女の人が体ががくがくと揺れ始め、その体がぱっくり割れた。


「うああああ!」


 意識なんてしてないけど、そんな声が口から出ていた。

 女の人の中から大きな蜘蛛が出てきた。

 まるで女の人の皮をかぶっていたみたい。

 気持ち悪い。


 その大蜘蛛は、蜘夫ちふに近づく。

 蜘夫ちふはなぜかぐったりとしていて、うごかなかった。

 大蜘蛛の口が開く。


蜘夫ちふ!」


 僕は自分の行動が信じられなかった。

 近くにあった木製のひじ掛けを大蜘蛛に向かって投げ飛ばした。

 同時に蜘夫ちふの元へ走る。

 

登利のぼり?」

「気が付いてよかった。逃げるぞ!化け物だ!」

「だめだよ。僕の役割は食べられることだもの」

「は?なんだよ。それ。逃げよう!」


 僕は火事場の馬鹿力は蜘夫ちふの肩の下に体を入れると、半分背負う形で走り出す。

 大蜘蛛はなぜか追ってこなかった。


登利のぼり、俺を置いて逃げて」

「何言ってるんだよ。大蜘蛛が襲ってきたらどうするんだ!」


 なぜか蜘夫ちふは逃げるのに消極的だったけど、僕は彼を連れて必死に村を走った。

 どうやら、僕は眠らされて、村につれてこられたみたい。

 不気味なくらい静まり返っていて、怖かった。

 村を出てところで、ちょうどよく車が通って、僕たちは保護された。

 蜘夫ちふは裸だったし、僕たちは警察署に連れて行ってもらった。

 蜘蛛のことを言っても信じてくれないと思ったから、僕は誘拐されて村で監禁されて、蜘夫ちふは強姦されたと伝えた。

 僕たちは警察の人が手配してくれたホテルに泊まって夜を過ごした。

 蜘夫ちふが震えていて、僕は一晩中隣で彼の背中をさすっていた。

 白い肌が闇の中で怪しく浮かび上がっていた。唇は切ったみたいで血で濡れて紅を塗ったように赤い。それがとても似合っていて、僕だけじゃなくて、車に乗せてくれた人、警察の人が蜘夫ちふに見とれていた。

 蜘夫ちふは大蜘蛛が化けていた女の人に似てる。

 そう気が付いたのは、彼が安心して眠り始めてからだった。

 


 十五年後。


 僕は二十九歳になっていた。

 あの事件を思い出すこともなく、平凡な生活を送っている。

 蜘夫ちふのお母さんは、あの村の奴らに殺されていて、そこから僕たちの捜索願いが出ていたみたいだ。

 僕のお母さんがものすごい心配していた。

 蜘夫ちふは孤児院に預けられた。

 あれから彼は人が変わったようになってしまい、僕と視線を合わせようともしなかった。

 お母さんも殺されて、あんな蜘蛛も見て、自暴放棄になるのはわかる。

 僕は思い出したくなかったし、悪い夢を見たいと思いたかったから、蜘夫ちふと別れてから、彼を探そうともしなかった。


「あ、あれ。登利のぼりじゃん!」


 十五年ぶりに再会した蜘夫ちふは、元気になったみたいで、あのハイテンションを取り戻していた。

 しかもモデル業をしているみたいだった。全然雑誌とか見ないから知らなかったけど。

 再会したのは喫茶店。

 すれ違い様にコーヒーをこぼしてしまい、謝ったら、その相手が蜘夫ちふだった。偶然にもほどがある。


「連絡先交換してもらっていい?」


 正直戸惑った。

 っていうか嫌だった。

 十五年前のことは僕にとってはトラウマだ。

 思い出したくない。


「このシャツ高かったんだよね」

「弁償する!」

「だったら連絡先」


 だけど蜘夫ちふに押し切られて、連絡先を交換した。

 しかもシャツの弁償はいいから、ご飯を奢れと言われ、今度食べにいくことにした。


 そうして蜘夫ちふとの友人関係が再び始まったんけど、彼が十五年前のことを持ちだすことはなかった。

 けれども沈黙が怖くて、僕は会話が途切れそうになるといつも話題を提供した。

 蜘夫ちふはやっぱり綺麗だった。

 視線が交じると、十五年前の蜘夫ちふを思い出す。

 僕たちは同じベッドで眠った。


「……蜘夫ちふさあ、彼女いる?」

「いないよ。興味ないもん」

「そうなんだ。まあ、もてそうだけどな」

「もてるよ。だけど、俺が興味あるのは男だから」

「ぶっつ!」


 口からビールを噴き出しそうになって、慌てて口を押さえた。


「驚いた」

「驚くこと?あんなことされて、女に興味がわくわけがない。気持ち悪い」

 

 そうか。そうだよな。

 無理やりだったもんな。

 蜘蛛も怖かったけど、別の意味でも嫌な思いをしたんだ。


「……あの夜。一緒に寝てくれてありがとう」

「あ、うん」


 僕と蜘夫ちふの間には何もない。

 僕は彼に寄り添って寝ていただけだ。


「ねえ。登利のぼり。彼女いる?」

「い、いない」


 蜘夫ちふが僕をじっと見ている。

 それだけで僕は体が熱くなる。

 

「だったら、俺と試してみない」


 誘いを僕は断れなかった。

 蜘夫ちふのことをそういう目でずっと見ていたかもしれない。

 


「……気持ちよかった?」

「う、ん」


 初めての経験だった。

 それは女性も含めてだ。

 恥ずかしいけど、僕は女性経験もなかった。


「これでもう食べなくてもよさそう。ずっと、ずっと飢えていた。でもやっと満たされた」


 何を言っているんだ?


「大蜘蛛様は、つがいと交わった後、つがいを食べるんだ。子を産んだら死んでしまうから。だからつがいを独りにしないように、つがいを食べる。それを大蜘蛛様は繰り返してる。俺は大蜘蛛様から逃げた。だけど、大蜘蛛様と交わってしまった俺は変わってしまった。まるで大蜘蛛様になったみたいに。俺はつがいを探して、いろんな奴と寝た。だけど違う。だから、食べてしまった。いらいらしてお腹も減ったから。でもやっとつがいに会えた。登利のぼり、君は俺のつがいだ。君と交わって、俺はこんなに満たされている。これからもずうっと一緒だ。君も俺と一緒にいたいでしょ?」

 

 そう言って蜘夫ちふが俺に触れる。その度に体が震え、歓喜する。

 俺はいったい?


登利のぼり。これからも一緒にいようね。ずっと君のことが好きだった。愛している」


 蜘夫ちふは僕がいると満足するみたいだった。

 ある時、用事があって、彼の傍を離れた。

 したら、どうしようもなくなって、人を食べたらしい。

 

 僕が傍にいたら、蜘夫ちふは人を食べない。

 彼と交わう度に、僕の体も作り替えられているみたいで、蜘夫ちふは嬉しそうに笑う。

 彼が幸せならいいや。

 僕の心も満たされる。


 十五年前、彼を見た時、すでに僕は囚われていたかもしれない。

 

(終)

 



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