やさしさの証 1
engraved in strength 1
ある土曜の朝だった。
蒼は牛乳を切らしていたことに気づいた。
急いでコンビニに行ってこようと、玄関を開けて廊下に出る。
ちょうど、イオが楽器を手に出かけるところだった。
「おはよう、蒼くん。今日は走らないのかい?」
「ハイ。実は、午前に再配達を頼んでて……」
「宅配便?」
「いえ、郵便なんです。だから『宅配ボックスには入れられない』って言われちゃって」
「ああ、そうか。たしかにそうなるよね、郵便だと」
イオがゆっくりと頷く。
「でもオレ、全然心当たりないんですよ。しかも不在票によると、海外からみたいで」
「保険証だったりしてね」
言ってイオが、ふふふと笑った。
「またまた。イオさん、からかわないでくださいよ……でも、本当になんなんだろ?」
「届いてからのお楽しみだね」
「えー? どうなんでしょうか」
そんなことを言い合いながら、イオと蒼は、廊下を歩いていく。
*
十二時近くになって、やっと蒼の部屋でブザーが鳴った。
マンション一階のオートロックの呼び出し。郵便局の配達員だった。
「お世話様です」と声を掛け、蒼はロックを解除する。
ほどなく玄関のチャイムが鳴った。
蒼はハンコを手にドアへ向かう。
再配達されたのは、ヨレてくたびれた茶封筒だった。
A4サイズより少し小さいくらいの大きさ。微妙な厚みがあった。
水濡れでもしたのか、差出人の部分はインクが滲んでしまっている。
かろうじて、消印の一部だけは判読できた。
「……SAMOA?」
って……いや、マジで、一ミリの心当たりもないんだが。
首を傾げて、蒼は立ち尽くす。
サモア。
太平洋、ポリネシアとかの国だよな――
なぜ、そんなことを知っているのかっていうとさ。
イオさんのタトゥーに興味がわいて、色々検索した時にポリネシアンとか、サモアとかって名前を何度も目にしたからだ。
それにしても。
ホントにこれ、オレが受け取っちゃっていいんだろうか。
部屋番号はオレの家のもの……のように読めなくはないけど。
手書きだし、そもそも滲んでいてハッキリと見えない。
宛名なんか、もう全く判別できないほどだ。
「っていうか、郵便局の人は、なんで『オレ宛て』って判断できたんだよ」
とはいえ、このまま迷っても仕方ない。
開けてみよう。
蒼は封の上部を、注意深くハサミで細く切り取る。
中には折りたたまれた便箋と、緩衝材代わりのざら紙に包まれた、小さな布袋が入っていた。
まずは便箋を開いてみる。
こちらも手書きだった。
英語のようだったが、字のクセが強すぎて、ほとんど読めそうにない。
だが、冒頭に書かれた文字だけは、蒼にもすぐに読み解けた。
――dear YUU
蒼は小さく息を飲み、封筒と便箋を手にしたまま、部屋を飛び出した。




