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SIN  作者: 冬馬
第一話
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第一話--任務--08


 俺たちは目標地点である開けた空間に足を踏み入れた。


「なかなか広いな」


 壁も天井も地面も全てが真っ白な塩の広大な空間の中央に、オブジェのような塩の彫刻に囲まれている光の源があった。


「おい!センサーはどうなっている?」


〈かなりの異常数値を出している。あの中央にある光源。あれが全ての発生源だ〉


 間違いない。あれがこの空間の主人(あるじ)、俺たちの目的「卵」だ。幸いな事にこの空間の主はご就寝中のようだ。


 そんなに大きくはないな。5〜6m、中型種と言ったところか。大型種だと骨の折れる作業になるところだった。


 「親」も見当たらないしツイているのかもしれない。

 「親」は「卵」を産んだら「卵」を守るために数日はその場を離れる事はない。その数日間「親」がこの空間の主であり「卵」を守るために攻撃的になり、近づくもの全てに問答無用に無慈悲な攻撃を仕掛けてくる。調査隊は運悪くこの主と出くわしたわけだ。


 しかしだ……。


 俺はまだ最悪の事態を考えている。「親」が居ない「卵」だけだったら、経験上、こんなにセンサーが異常な数値を出す事もなかったし、あたり一面真っ白な塩の空間になる事もなかった。そもそも、あらゆる物体を塩に変えてしまうというのは、どれくらいのエネルギーが必要なんだろう。

 成体の「親」ならまだしも、普通の「卵」にはそんなエネルギーを出せない。


 やばいな時間が無い。


 俺は急いでA.Iに指示を出した。


「とっとと『卵』を()()に入れちまうぞ!用意しろ!」


〈どうしたんだ急に。お前の心拍数が急激に上がった。何かあったのか?〉


 何を呑気な……。なぜ、こういう時に俺の中を()()()()


 コイツに一々説明する時間は無い。事態は一刻も争うかもしれないのだ。


「生き残ったら説明でも何でもしてやる!何でも良いから、とにかく準備しろ!塩になりたく無いだろ!時間が無いんだ!」


〈……了解した……〉


 A.Iは渋々、「Helios」のバックパックから()()を下ろし、捕獲の準備を始めた。


「早くしろ!!」


 俺は本当に焦っていた。俺の本能がヤバいと告げている。


()()を降ろしたぞ。いつでも行ける〉


「了解」


 俺は、眩い光を放っている「卵」の正面に移動した。


 良かった……。


 まだ「()()」するまで余裕がありそうだ。


「ホバーで移動して正解だったな」


 俺は呟いた。


〈……〉


 しかし、A.Iはまだわかっていない。


 俺は「卵」を改めてゆっくりと見た。

 今までに何度も見たが相変わらず気味が悪い物体だ。何度見ても慣れる物じゃない。殻は粘膜に覆われ、血管のような物が浮き出ている。このグロテスクな造形はこの世のものじゃ無い。たまに鼓動するその姿は、まるで()()の心臓のようだ。

 

 この「卵」とは、何なのか。実際のところ、今でも解明はされていない。

 「裁き」の遥か前からこの不気味な物体は色々な形で確認されていた。ある種の古代遺跡であったり、信仰の対象であったり……


 ある遺跡を発掘していた考古学者達は、この「卵」から大きなエネルギーが出ていることを偶然発見した。それと言うのも、遺跡探査で使用する「磁気センサー」や「地中レーダー」「超音波測定器」など測定器全てが壊れてしまったからだ。文明が進み、探索測定機器が発達したおかげで、このエネルギーを発見できたのだ。

 それ以前の粗末な測定機器では、到底異常を検知出来ず、しかし遺跡探査に参加した者に少なからず影響を及ぼすことから、おかしな話だが、()()などと言われてもいたらしい。

 考古学者達は、このエネルギーを放つ物体のあらゆる仮説を立てて、歴史的な見地から解明を試みたが、どれも無理がある物だった。

 それもそうだろう。到底ヒトの力では作り出せない物なのだから。

 そこで、今度は科学者が科学的視点からこの物体の正体を探ろうと試みたが、この物体の正体に迫る事は出来なかった。


 しかし、科学者達は、この物体が出すエネルギーの有用性に気が付いた。

 

 エネルギー問題に直面していた当時の人類は、この物体の持つ膨大なエネルギーを有効利用するための研究が進められる事になった。しかもこのエネルギーは、いわゆるクリーンエネルギー、管理を怠らなければ、生態系に悪影響を与えない物であると考えられ、各国は他国を出し抜きエネルギー戦争の勝利者となる為に、莫大な予算を研究の為につぎ込んでいった。


 このエネルギーは、人類を救う夢のエネルギーになるはずだった……


 しかし、残念ながらそうはならなかった。他国に先んじて開発に成功した国は、このエネルギーで得られる莫大な利益と影響力を盾に勢力を広げ、敗者となった国は従属するしか道は残されていなかったのだ。

 エネルギーをめぐる国家間の主従関係が構築されていき、摩擦を生じさせる原因となった。


 この摩擦はいつしか国家間の差別意識を生み出し、緊張が極限にまで膨れ上がるのにさほど時間はかからなかった。


 ほんの些細な出来事から生まれた誤解が「神の裁き」のきっかけとなってしまった。


 皮肉な事に「神の裁き」の中、人類はこの夢のエネルギーの源である、決して目覚めることのなかった「卵」の正体を知る事になる。


 それは決してヒトが手を出しては、いけない物だったのだ……。


 俺が「卵」の事で知っている事はこんなところだ。


「裁き」からかなりの時が経ち、国という統治形態が姿を変えても、この物体の本来の姿は「卵」という言葉で誤魔化し、隠され続けている。

 この「卵」は「裁き」以前と変わらずにエネルギー源として、この世界のありとあらゆるものに使われ、エネルギー問題をいまだに解決できない人類の存続の為に欠かせない物となっている。

 もちろん、H.M.Aもギャレイも、この「卵」のエネルギーが動力源だ。


 目覚めない「卵」はさほど危険性は無い。

 その危険性の少ない孵化前の「卵」を捕獲するのが今回の任務なわけだが、しかし「卵」が目覚め、孵化を始めたら……。

 塩の彫刻となった調査隊と同じ運命が待っている事になる。


 俺は「卵」の中を確認してみた。


 ヤバいな、もう成体にまで成長している。いつ孵化してもおかしくない。こんな状態の「卵」の捕獲なんて、俺たちは運が良いのか悪いのか。無事生き残れたら運が良かったと思う事にしよう。


 とにかく早く()()にコイツを押し込んでしまわなければならない。

 箱の中に閉じ込められたコイツは何もする事が出来なくなる。

 この「()()」と言われる箱は、「卵」からエネルギーを抽出する装置から応用されている「卵」のエネルギーを抑える物であるらしい。「卵」のエネルギーを抑えるということは「卵」を仮死状態にする事であり、「卵」の成長を抑える事ができる。

 しかし、これも「裁き」以前の技術なので原理なぞわからないまま使っている……。


 コイツを箱の中に押し込むまで、どんなに急いでも15分弱かかる。それに対して、コイツが目覚めるまでは、俺の見立てでは……20分から30分ってところだろう。

 

 まぁ、これは文字通り、神のみぞ知るってところだがな。


 俺は急いで捕獲作業に取り掛かった。


次回の更新は5月5日月曜日、朝7:30となります。

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