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SIN  作者: 冬馬
第一話
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第一話--任務--07


 俺たちを乗せたゴンドラは静かに闇の中を潜り続ける。

 俺は潜るほど感じる不安を消すように、ただ黙って暗くて何も映らないスクリーンを見ていた。


〈まだ、何か不安があるのか?〉


 A.Iが俺に聞いてきた。無粋というか、何というか。

 

 所詮は機械か……


 俺はコイツの無神経さに半ば呆れて答えた。


「もう少しでわかるさ」


 ゴンドラが最深部に着いた。俺はハーネスを外し、あたりに注意を払いながら慎重にゴンドラから降りた。


 闇だ。漆黒の闇だ。

 いくら地上から40メートル深いと言っても、頭上から光くらい刺すだろう。降りてきた穴を見上げても月のように淡い光が見えるだけだ。


「おい、磁気の乱れは?」


〈かなり強いな。シールドが無ければこちらの機器が影響を受けてしまう〉


 俺の手に汗が滲む。これは益々やばい事になりそうだ。


「照明を点けろ。暗くて何も見えん。確かめたい事がある。」


〈しかし照明を付けたら俺たちの位置が丸わかりになってしまう。セオリー通り暗視スコープを提言する〉


 俺たちの位置が誰にわかるって言うんだ?こんな所に敵がなんかいるわけがない。いや、いないと信じたい。もしそんな物がいたら、とっくに消えた奴らと同じ事になってるよ……。


「暗視スコープだと細部がわからないんだよ!ごちゃごちゃ言ってないで早く点けろ!」


 本当に機械は融通が効かない。こんな所でセオリーが何の役に立つ?


〈……了解。肩部のライトを点灯する〉


 ライトのおかげで俺たちの周辺が、ぼんやりとだが明るくなった。本来、このライトの光量はこんなに暗いはずでは無いんだが、やはりこの闇は光を吸収しているみたいだ。「黒き森」と同じだ。


「これで何とか肉眼で確認出来るな」


 俺はぼんやりと明るくなった穴の中を見渡した。すると白い人影が浮かび上がった。


〈何だ!これは!?人の石像?〉


「成分を調べてみな?」


〈塩だ!ゴンドラに載っていた物と全く同じだ〉


 ビンゴ!悪い予感が的中だ。俺はこれも見た事がある。これが作られる過程も……


〈誰が、何のためにこんな物を作ったんだ〉


 コイツは相変わらず的外れな事を言っている。過去のログを消されているからそれも仕方が無いとも言えるが、それにしても捻りがない。だから機械なんだ。


 悪い予感が的中した以上、こんな所に長く居られない。早く任務を終わらせなければ、俺もこの石像と同じ運命を辿ってしまう事になる。俺はA.Iに指示を出した。


「マーカーとセンサーを打ちまくれ。じゃないと帰れなくなるぞ!」


〈マーカーはわかるが、センサーは必要あるのか?〉


「ああ。大有りだ。とにかく言われた通りにしてくれ」


〈了解。マーカーピンと各センサーを射出する〉


 「Helios」を中心に、モニターにマーカーとセンサーから集められたデータを基に作られたマップが表示された。一箇所だけ横に進む道がある。


〈この横穴しか進む道は無いようだ〉


「わかった、この横穴に入るぞ。それと石像には触るなよ」


〈了解〉


 俺たちは石像を壊さないように慎重に横穴に向かった。


 運がなかったな。意図せずにお前達はこの穴の主人(あるじ)に出くわしたんだな。

 

 ビーッ!

 

 突然警報が鳴り響いた。


〈磁気の歪みが大きくなっている。重力異常も検知した!〉


「『Helios』の行動に支障はあるか?」


〈まだ大丈夫だ。しかし私としては撤退を進言する〉


「撤退だと?任務放棄するつもりか?」


〈このまま進んでも、任務成功確率は数%に満たない〉


 そんな事はわかってるさ。別に危険な任務はこれが初めてなわけじゃない。今までも数多く経験して生き残ってきたんだ。


「大丈夫だ。今までも生き残って来たろ?」


〈!?〉


 俺は自分に言い聞かせるようにA.Iに優しく語りかけた。A.Iは俺にこんな事を言われて驚いたようだ。実際、コイツにこんな風に語りかけるのは初めてだろう。A.Iが何も言わずに流してくれたのがせめてもの救いだった。


「うん?」


 俺はコントロールレバーの微妙な重さに気がついた。


 そうか、コイツも怖いんだな。


「大丈夫だ。俺を信じろ」


 H.M.Aは安心したのか、コントロールレバーが少し軽くなった。俺たちは横穴を慎重に進み始めた。

 

 今の所、侵入した横穴は普通の洞窟と変わらないように見える。しかし、相変わらず先は見えないし、磁気の乱れも酷くなっている。センサーも乱れ始めた。

 

〈何か、音が聞こえる。それに気流の流れも確認した〉


 俺には何も聞こえない。


「音が聞こえたんなら、音紋を照合しろ。お前らの方が聴こえる範囲が広いだろ。気流の流れはどこから流れてきているのか、センサーをフルに使って突き止めろ」


 俺は、メインスクリーンに目を移した。足元からライトの反射が返って来ている。少し周りが明るくなったように感じた。


〈あと100mも進んだら広い空間がある。ここが気流の流れの発生源。ここが全ての異常の中心点だ〉


「あれだな」


 肉眼でも確認できた。暗闇の先に光が見える。明らかに此処とは異なる空間のようだ。光を飲み込む此処の闇でさえ、あの光には屈したようだ。あの異質な光に導かれるように俺たちは先を進んだ。


 光の基へと近づく程、壁や地面からの反射が強くなる。


「おい、壁と地面の成分分析をしろ。それと音紋は照合できたのか?」


〈音紋はどのデータにも無い。照合不能。壁と地面の成分分析を始める〉


 コイツの感じた音が徐々に俺にも感じ取れて来た。まるで地の底から波打つマグマの鼓動のようだ。


〈成分分析の結果、この壁も地面も塩だ!〉


 そうだろうな……。


 俺の予想通りの答えが返ってきた。


 俺たちはとんでも無い所に迷い込んでしまった。藪を突いたのでは無く藪の中に飛び込んでしまったのだ。願わくば、此処の主人(あるじ)が目覚めていない事を祈るしか無い。

 

 益々光が強くなる。この距離でこの光量だ。


 主人(あるじ)の居城に着いたらどうなるんだろうな。


 俺のヘッドマウントのシールドが降りた。それでも今までの闇に目が慣れてしまったのか眩しく感じる。スクリーンも真っ白に飛んでしまった。


「スクリーンの補正をかけろ!これじゃ何も見えないぞ!」


〈了解。スクリーンの露光補正をかける〉


 補正がかけられ、やっとスクリーンが見えるようになった。


〈これだけの光量があるのに熱を感じない〉


「この光は……」


 俺は言いかけてやめた。どうせ言ったところで頭の硬いコイツには理解のしようがないだろう。


〈どう言うことだ?〉


「いや何でも無い。気にするな」


〈……目標まであと30m〉


 コイツも深く追及しない事にしたらしい、目の前の仕事に戻った。


 段々と光の圧力を感じる。この先は、俺たちの目標地点、全ての異常の中心点だ。


「センサーをフル稼働させろ!ほんの僅かな異常も見逃すな!中に入るぞ」


 俺たちは目標地点の空間に足を踏み入れた。


次回の更新は5月2日金曜日、朝7:30となります。

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