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SIN〜第一部〜  作者: 冬馬
第十二話

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第十二話--動き出した刻--04

 「なんだ?急に?」


 俺はA.Iに聞いた。コイツがこういう言い方をする時は、あまり良い話ではない。


 〈……私は……ここで……降りなければならない……〉


 やはりな……


 俺の勘は当たったようだ。


 「理由を聞いても良いか?」


 と聞いたところで、コイツは答えないだろう。しかし、それがわかった上で、俺は敢えて聞いた。


 〈やり残した事があってな……〉


 「やり残した事?お前がいなかった時の事と関係があるのか?」


 〈……ああ……〉


 A.Iは短く答えた。これ以上聞いても、きっとコイツは何も答えないだろう。それだけの重さを、コイツの短い言葉で感じることが出来た。


 「わかったよ……」


 俺は答えた。どうせ、引き留めた所で、コイツの意志は変わらないのはわかっている。


 〈大丈夫か?〉


 A.Iが心配そうに聞いてきた。俺は、コイツの、的外れな言葉におかしくなって答えた。


 「それは、出て行くって言った奴が言うことじゃないだろう?」


 そう言って、俺は笑った。


 〈確かにそうだな〉


 俺は、A.Iも笑ったように感じた。


 「帰ってくるんだろ?」


 俺はA.Iに聞いた。


 〈!?〉


 A.Iは戸惑っている様子だった。


 「全部終わったら……帰ってこいよ……いいな」


 俺は言った。


 〈お前からそんな言葉を聞くとは思わなかったよ……〉


 A.Iが嬉しそうに答えた。


 「二度は言わないよ……」


 俺には多少の照れ臭さが残っていた。しかし、自分の感情を隠すのはもう止めた。


 〈わかった……全部終わったら、またここに帰ってくるよ……〉


 「ああ、そうしてくれ、そうしないと『Helios』も寂しがる……」


 俺はわざと素っ気ない言い方をした。


 〈SIN……〉


 「なんだ?」


 〈……ありがとう……〉


 A.Iから思いがけない言葉が来たので、俺は戸惑っていた。


 「何だよ、らしくないな。俺は準備をするぞ。じゃあな」


 そう言うと、俺は後部デッキに移動した。きっと、俺が戻ってきた時には、奴はもういないだろう。しかし、俺たちはこれくらいで良い。湿っぽいのは俺たちには似合わない……


 俺は、後部デッキで、準備を始めた。とは言っても、大袈裟に準備をするものなど何もない。duo達を埋める穴を掘る為のスコップくらいだ。


 俺は、duo(デュオ)達一人一人を丁寧にギャレイから降ろした。


 「さてと……」


 まずは、unus(ウヌス)からだ。


 俺はunusを背負うと、岬まで歩き始めた。


 「やっぱり、体がデカい分重いな……それとも……この重さはリーダーの重さかな……」


 俺はunusに話しかけながら歩いた。


 「今思うと、俺はお前達に随分と助けられてきた気がするよ……特にお前は、違うチームなのに俺を気にかけてくれて、まるで家族の様に接してくれた……俺にとって、お前は父親か、兄貴の様に思っていたんだ……お前の仲間を守るその強さと優しさ……好きだったよ……」


 岬に着いた俺はunusを背中から降ろし、優しく寝かせた。


 「少し待っててくれな」


 俺はそう言うと、ギャレイの元に戻った。


 「次はtres(トレス)か……流石に女の子だから、背負うと言うわけにはいかないな」


 俺はtresを抱き抱えると、さっきと同じ様に岬に向かった。


 「お前は、口うるさくて、姉さんぶってて、おせっかい焼きで……だけど……誰よりも人の事で泣ける優しい奴だったな……お前とduoのやり取りが楽しそうで、いつも羨ましかったよ……兄妹ってこんな感じなのかなって思って見てた。お前の優しさの裏にある、仲間を思う強さに憧れてたよ……俺なんかに抱き抱えられても嬉しくないだろうけど……そこは勘弁してくれ……」


 俺は、unusの隣にtresを寝かせた。


 次はすずだ。俺はすずをtresと同じ様に抱き抱え、岬に向かった。


 「tresに比べると、随分と軽いもんだな……そんな事言うとtresに怒られるかな?すず、お前の明るい笑顔に随分と助けられたんだ。食堂でお前の姿を見ると、何だか元気が出てな……妹ってこんな感じなのかと思っていたよ。小さいお前が一生懸命働く姿を見るのが好きだったよ……ハハハハ、duoの事言えないな。俺もシスコンだ……」


 俺はtresの横に、すずを静かに寝かせた。


 「次で最後か……」


 俺はduoを背負い歩き始めた。


 「何を食ったらこんなに重くなるんだ、全く……本当にお前には振り回されてばかりだった……初めて会った時は、なんて図々しい奴だって思ったよ。自分勝手で、わがままで、俺の事なんてお構いなしで、なんて嫌な奴だと思ってたよ。お前は、煩わしいだけの奴だった……だけどな……お前に『友』と呼ばれて……俺は……嫌な気分じゃ無かった。本当は嬉しかったんだ……お前のおかげで、いろんな奴と知り合えて、俺の中で何かが変わって行くのを感じたんだ……人と関わるのが、楽しくなったんだ……お前は笑って流すだろうけどな……俺がお前を助けたんじゃなくて、お前が俺を助けてくれたんだ……ああ、重いな……重い……だけど……こう言うのも良いかもな……」


 俺は、すずの横にduoを寝かせると、リンが眠っている隣に、穴を掘り始めた。いつの間にか、あたりは暗くなり、夜の闇に覆われた。しかし、俺はそんな事も気にせずに、ただひたすら、皆を静かに眠らせる為に掘り続けた。


 「こんなもんかな……」


 俺は、掘り上げた穴の中に、4人を寝かせると、優しく土を被せ始めた。少しづつ、少しづつ、duo達の姿が土に被され見えなくなって行く……しかし……俺の中には寂しさと言うものは無かった……ただ……眼からは涙が自然と溢れてきていた……


 もしかしたら、涙を流したのはこれが初めてかもしれない。俺は、涙を流す様な感情になった事は今まで無かった。


 これが涙か……こう言う時に流れるものなのだな……


 duo達が見えなくなると、俺はその場に座り込み、duo達と話をした。と言っても特別な話じゃない。たわいも無い話だ。だがそれが何よりも楽しかった。俺も奴らも笑いながら、話が尽きることも無く、時間が経つのも忘れて話した。


 どれくらい話しただろう。徐々に日が登り始めた。


 「……美しい……な……」


 俺は、岬から見る朝日を見てそう感じた。すると、俺の中から何とも言えない感情が溢れ出してきた。


 涙が溢れ、俺はただ、ただ、泣いた。泣く事しかできなかった……


 duo達の墓標に、小さな、小さな、本当に小さな芽が朝日に照らされていた……

とりあえず、今回で第一部は完結とさせていただきます。

これからSINはどうやって生きていくのか、他にも生き残った人類はいるのか?

現在、第二部を鋭意執筆中ですので、またお付き合いいただければと思います。


長い間お付き合いいただきありがとうございました。


冬馬

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