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SIN〜第一部〜  作者: 冬馬
第十二話

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第十二話--動き出した刻--03

 「あ奴らには、粛清をする価値も無いな……」


 聖母と王のやり取りを見ていたミカエルは呆れたように言った。


 「君らはどう思う?」


 ミカエルは、他の光り輝く翼を持つ者たちに聞いた。


 「どのみち、このままでは彼らは滅亡へ進むだけでしょう。ならば、私たちの手で引導を渡しても良いのでは?」


 光り輝く翼をもつ者の一人は答えた。


 「ああ、君の言う事も尤もな事だと思うよ、ガブリエル。彼らには、もはや何の価値も無い。もはやヒトでさえ放棄していると言っても良い。あれだけを見ても、ただ生き永える事だけ、ただの人形となっても生き永えることしか考えていない。それに愚かにも自分たちで壊したこの地を再生させるつもりも毛頭あるはずも無い……しかし……」


 ミカエルは言い淀んだ。すると、もう一人の光り輝く翼を持つ者が聞いた。


 「何か、懸念でも?」


 ミカエルは、もう一人の光り輝く翼を持つ者に言った。


 「ラファエル、私は、人類に信仰心が戻れば、あの御方が返ってくるのではないかと思っているのだ……」


 ガブリエルとラファエルは顔を見合わせた。聡明なミカエルからそんな答えが返ってくるとは思わなかったのだ。


 「いや、バカな話だとは私も思うのだが……」


 ミカエルは、自嘲的に言った。


 「しかし……どうしても……まだ……私自身、自分の中でどうしたら良いのか結論が出ていないのだ」


 ミカエルの葛藤が伝わってくる。


 「あの御方の存在を感じられなくなってから、それは、我らとて同じ思いです……」


 ガブリエルは答えた。彼らも、忸怩たる想いがあるのだ。


 「あの御方が存在しなければ、我らの存在理由も無い……」


 「我らの存在理由……」


 ガブリエルとラファエルは考え込んでしまった。


 確かに我らは、あの御方の僕として創られた……あの御方が存在し無いのであれば、我らとて存在する理由がない……


 「兄上が言ったんだ……」


 ミカエルは呟いた。


 「ルシファー様が!?」

 

 ラファエルは多少の驚きを持って聞いた。ガブリエルやラファエルにとってもルシファーの存在は憧れであると同時に、闇に堕ちたものとして、口に出すのも忌避していたのだ。その闇に堕ちたものと光り輝く天使の象徴であるミカエルが、再び相見えるなど考えてもいなかった。


 ミカエルは続けた。


 「自分の意思で動けと……」


 「自分の意思?……」


 ガブリエルは言葉の意味がわからなかった。それはミカエルとて同じだった。あの日、兄であるルシファーから言われてから、その言葉の真意を考え続けていた。


 ミカエルは静かに答えた。


 「兄上の言葉の真意は、今の私には、正直言ってわからない……しかし……兄上の言った言葉の先に、私達の存在理由があるのではないかと、私は思うんだ……」


 「確かにそうかもしれません……あの御方の為に存在していた私達が新たに存在し続けるという理由を探すのも一興かもしれません。そしてその先に何か意味を見出すやもしれません」


 ガブリエルは言った。どちらかと言うとガブリエルは、他の二人に比べると合理的な考え方をする為か順応性が高いと言える。その逆がウリエルだ。ウリエルは常に冷静であり、あの御方からの指示を的確にこなしていた。その分、順応性に欠けるところがある。


 「私は、今しばらく見定めたいと思う……本当にあの御方が存在しなくなったのかを……」


 「ウリエル……」


 「私は、まだ信じられないのだ……だから、私なりにあの御方の痕跡(かけら)を探したい……」


 ミカエルはウリエルの言っている事を理解した。と言うよりもウリエルが自分の意思を持った事が、どんな形であれ嬉しいと思えた。


 「わかった……これからは、それぞれが、それぞれの想い、意思で動く事にしようではないか……その先に、何があろうとも、それこそが答えに繋がると信じて……」



 〈SIN、起きろ。着いたぞ〉


 いつもの聞き慣れた音が、ギャレイのコックピット内に響いた。特徴の無いマシンヴォイスだが、今の俺には何よりも懐かしく感じた。


 「ああ、もう着いたのか……」


 俺はA.Iに答えた。疲れが出たのか、いつに無くぐっすりと眠れたようだ。


 〈傷はどうだ?〉


 A.Iが聞いてきた。


 珍しい事もあるもんだ……


 コイツが、自分の仕事として俺を気遣う事は、これまでにもあった。しかし、今のコイツは仕事とは関係無く、俺の事を心配してくれているのだ。


 こう言うのも悪くは無いかもな……


 俺はそう思った。俺は、こう言った人としての当たり前のことが、今までは理解出来なかった……だが……何となくだが……理解できるようになったのかもしれない……


 「ああ、もう出血も無いし大丈夫だ。俺の身体は、どうやら頑丈に出来ているようだ」


 〈…………〉


 俺は冗談のつもりで言ったのだが、A.Iからの返事は無かった。俺も、そのまま深く考えずに、外を見回してみた。


 ギャレイは、見慣れた岬の入り口に止まっていた。そう、この先には、リンが眠っている海を見渡せる岬がある。ここからリンが眠っている岬までは、数百メートルと言う所だ。さほど遠くはない。


 「ここから先は、歩きだな……準備をするか……」


 俺はそう言うと、ギャレイ後部に移動しようとすると、A.Iが躊躇った口調で話しかけてきた。


 〈SIN……話がある……〉


次回の更新は7日、朝7:30となります。

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