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SIN〜第一部〜  作者: 冬馬
第十二話

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第十二話--動き出した刻--02

 俺はduo(デュオ)達を乗せたギャレイを発進させた。βチームと奴隷達は何もせず、羨望の眼差しで、ただ、俺たちを見つめていた。奴らにしたら、どう言う形であれ、この地獄のような奴隷の生活から抜け出す俺の事が羨ましかったのかもしれない。


 しかし……俺は脱走兵だ……


 これから、「都」から追われる事になる……


 〈腹の傷は大丈夫か?〉


 A.Iが心配そうに聞いてきた。コイツの感情が読めるようになったと言う事は、コイツは元に戻ったと考えても良いかもしれない。


 「ああ、擦り傷だ。出血は多かったが、深くは刺さっていないから大丈夫だ」


 俺は腹をさすりながら答えた。


 〈とりあえず、消毒をして、パッチを貼っておけ。感染症にでもなったら事だ〉


 「ああ、わかっている……」


 俺はA.Iにそう答えると、メディカルボックスを取り出し、傷の手当てを始めた。


 〈これからどうするんだ?〉


 A.Iが聞いてきた。それも当たり前の事だろう。俺は「都」からの逃亡者となったわけだから……こんな荒れた荒野では、野垂れ死するしかない。奴らが諦めるまで、一生、逃亡者として逃げ続けるしかないのだ。


 しかし、そんな事は後で考えれば良い。


 俺は、それよりも今やらなければならない事がある。


 「まずは、duo達を埋めてやらないとな……」


 俺は呟いた。


 〈そうだな……それが先だな……〉


 A.Iもこれには素直に同意した。コイツなりに、duo達に何かしらの想いがあるのだろう。こう言うところは、変に人間臭いところがある。


 〈どこに埋めるんだ?〉


 「ああ、リンと同じ所にな……」


 そのほうがduoも喜ぶだろうしな……俺はそう思った。


 〈わかった。ログがあるから、オートパイロットで行ける。お前は少し休め〉


 A.Iのくせに俺を気遣っているのか?


 確かに、この前から色々とあり過ぎた。コイツの言う通りに少し休ませてもらおう。


 「頼む……」


 俺はそう言うと、目を閉じた……



 「聖母様!一体何があったのですか?」


 身なりの良い男が、血相を変えて焦った様子で聖母の部屋に入ってきた。


 「何事です?君主ともあろうお方が……」


 この身なりの良い男は「都」の王、君主であった。普段は聖母に全て任せっきりで、何もやらない、いや、何もやらせて貰えない、実権も何も持たない「お飾り」いわゆる「裸の王様」だ。しかし、一応はこの「都」の王である。今回の騒動が気になったのであろう。とは言っても、あくまでそれは自己保身の為……今の体制が崩れてしまうと、自分達の特権が全て無くなってしまう。それどころか、自分の命も危ない。実際のところ、自分の身の安全を図る為に、聖母に会いに来たに過ぎないわけだ。民のことなぞ、何とも思っていない、典型的な愚鈍な王だ。


 「奴隷が一人逃げ出したと、それもβチームとγチームを行動不能にしたと聞きましたが?」


 人の口には扉は立たずか……


 聖母は苦々しく思いながら聞いた。


 「誰から聞いたのです?」


 もちろん、今回の事は、関係者には緘口令を引いてある。それでも噂は広まるものだ。それは聖母ももちろん想定していたのだが……


 しかし、早すぎる……調べる必要があるかもしれない……


 王は答えた。


 「私の側近が仕入れた話です。こんな事が許されては、奴隷達に示しがつきません。後々、反旗の芽になるやも……」


 所詮は己の保身の為ね……


 聖母は、改めて、この人物を軽蔑した。元より、自分の傀儡とする為に、この愚鈍な男を選んだのだが……


 元は、この国の指導者だったのに……


 「神の矢」が降り注ぐ前に、この国は、この世界は終わっていたのだ。いや、こんな男が指導者だったからこそ「神の矢」が降ったのだ。


 聖母は静かに言った。


 「心配しなくても、すぐに追撃隊を編成します。脱走者を生かしておく事は出来ません。その前に、この過酷な「外」の世界では野垂れ死するでしょうけどね……Guill(ギル)!」


 聖母が呼ぶと、死んだはずのGuillが入ってきた。


 「すぐに、追撃隊を編成して、脱走者を追いなさい!何を使っても構いません」


 「わかりました。仰せのままに……」


 というと、Guillは頭を下げ、部屋を出ていった。


 「これで、安心しましたか?」


 王は、安堵の笑みを満面にたたえて言った。


 「おお!これで安心ですな!」


 「そうですね」


 聖母は冷たく言った。


 王は、聖母に頭を下げ言った。


 「末長くこの『都』が変わりなく続く事を祈っておりますぞ」


 「わかっておりますよ。あなたには心労をかけました」


 聖母は嫌味を込めて言った。しかし、この愚鈍な王にはそんな事もわかるはずが無い。


 「それでは、くれぐれも、くれぐれもお願いしますぞ」


 王はそう言いながら、部屋を出ていった。


 どこまでも下品な男……それよりも……


 聖母には気掛かりな事があった。


 刻が動き始めてしまった……システムを再構築しなければ……全は個でなければ……小さな綻びが全てを壊してしまう……


次回の更新は11月3日、朝7:30となります。

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