第十二話--動き出した刻--01
「すまん」
SINはそう呟くと、quattuorの「H.M.A」にエネルギーソードを振り下ろした。
「あいつ、まさか!?」
「ハンドラー」は叫んだ。
頼む……倒れてくれ……
quattuorの「H.M.A」はその場に力無く跪いた。
それで良い……
SINは、奴隷を非難させているquinqueとsexに対して言った。
「見ただろう?お前らもこうなりたく無かったら、抵抗をするんじゃない」
「ワカッタ……」
「オマエニシタガウ……」
quinqueとsexは素直にSINの言う事に従った。
SINは「Helios」から降りると、duo達の元に向かった。
duo、unus、tres、すずは静かに、眠っているように横たわっていた。
「良かった……巻き込まれ無かったみたいだ……奴ら、守ってくれていたんだな」
SINは、tresを静かに抱き抱えると、ギャレイ後部の仮眠ベッドに寝かせた。
「後回しににすると、レディーファーストだなんだとうるさいからな」
次にunus、すず、そして最後にduo。
SINは、duoを抱き抱えると
「俺なんかに抱き抱えられてもうれしくもないだろうが、我慢してくれ」
そう言いながら笑った。
SINは、ギャレイからA.Iに指示を出した。
「Helios」の武装を解除して、ギャレイに収納しろ」
〈了解〉
SINはギャレイの外に出て、「Helios」がギャレイに収納される様子を見ていた。「Helios」は、いつもの姿に戻っていた。
戦闘モードか……何の為にこんな物を……
βチームは無防備なSINをただ見ている事しか出来なかった。
ここでSINを拘束をする事は可能だろう。「Helios」は武装を解除して、ギャレイに収められている。
だが、何も出来なかった……ただ見ている事しか出来なかった……それは、今、現実に起こった事の恐怖心からかもしれない。自分達がどう足掻いても、絶対に争うことの出来ない存在への畏怖やある種の畏敬の念、そして何よりも、ここでSINを殺してはいけない……強力なマインドコントロールを施され自分の考えさえも持てずに命令しか受け付けないβチームでさえ、ある種の……希望……をSINに見つけたのかもしれない。
その証拠に、SINは俺たちを壊さなかった!!
SINは粗方収納された「Helios」を確認し、ギャレイに乗り込もうとすると、一人の奴隷の少年が近づいて来てSINに声をかけた。
「連れていくな……」
「!?」
奴隷の少年は、ガタガタ震えながら、今にも消えそうなか細い声で言った。
「すずとduoにいちゃん達を連れていくな!!」
ドン!!
「うん?」
SINの腹部に鈍い痛みが感じられた。
SINは鈍い痛みが走った箇所を探った。手には、ぬるっとした嫌な感触があった。そして、何か金属的な物が腹に刺さっている。
SINは鈍い痛みに耐えながら奴隷の少年を見た。ガタガタ震えている少年の手は、SINの血で真っ赤に染まっていた。
SINは腹から刺さっていたナイフを抜いた。
SINの血で真っ赤に染まったナイフは、きっと少年がゴミ拾いで拾った物であろう、刃先はボロボロで、とても切るという事に関しては使い物になるとは思えない代物だった。ただ、装飾は凝った作りの物で、貴族達の装飾用の物だろうと想像がつく。
しかし、どんなにボロボロであっても、容易に刺す事は出来る……
そう考えれば、コイツは理に適った方法で俺を殺そうとしたわけだ……
SINはどこか他人事のような気持ちだった。ボロボロの刃先のナイフで、ましてや子供の力である。致命傷にならない事はわかっていたからだろう。
それよりも、少年の様子の方が気になっていた。どのような理由であれ、人を殺めようとする事は並大抵の心情ではないはずだ。生きる希望も何も無い、ただ生かされている奴隷がこんな事をする方が、SINには驚きであった。
少年はガタガタ震えながら、涙を流し、小さい声でつぶやいていた。
「にいちゃん達を連れていくな……連れていくな……」
SINは震えて呆然としている少年の肩に優しく手を置いた。腰を屈めて少年と目線を合わせたSINは少年にナイフを渡し、優しく語りかけた。
「duo達の事が好きだったんだな……」
SINに触れられた少年は、怯えていたが、SINの優しい声を聞いて初めてSINの顔を見た。
SINは少年に、何事も無かったように優しく微笑みかけていた。少年はSINの優しい微笑みに、緊張が解けたのか、自分がした事の重大さに気が付いたのか、その場に泣き崩れてしまった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……みんな言ってたんだ。SINに関わったから、にいちゃん達が処分されたって。全部SINのせいだって。やっぱりSINは死神だって」
こんな事をしたんだ……よっぽどの覚悟があったんだろうな……
そう思ったSINは泣き崩れている少年に優しく声をかけた。
「duo達の友達か?」
少年は小さく頷いた。
「そうか……なら……俺とおんなじだ」
そう言うと、SINは少年に笑いかけた。
「お……な……じ……?」
少年はSINに顔を向けた。SINは優しい目で少年を見つめていた。
目覚めてからのSINは両方の眼の色が違っていた。
片方が金色で、もう片方が赤……でも怖く無い……優しい……優しい眼だ……
少年は、SINの美しい眼を見て思った。
「ああ、unusやduoやtres、そしてリンとすず、みんな友達だ」
「リン……?なんだか懐かしい名前……」
SINは微笑みながら言った。
「いつか思い出すよ……きっとな……」
SINは優しく続けた。
「俺は、友達がこのまま捨てられるのが我慢できなかった。だから、静かな場所に埋めてやろうと思ったんだ」
「埋める?」
少年はSINに聞いた。奴隷の死体はゴミとして処分される……生まれた時からその様な世界で生きてきた少年には、埋葬という事がわからなかったのだ。
「ああ、ゴミとしてではなく、人としてな……静かな場所でゆっくり寝てもらうんだ」
「人として……」
「ああ、奴隷じゃなく人としてだ……」
「人として……」
SINは少年に諭すように言った。
「別にお前の友達を奪おうっていうわけじゃ無いんだ。わかって欲しい。ただ人として眠らせてやりたいんだ」
少年は小さく頷いた。
「……わかった……」
「そうか、わかってくれるか……」
SINは少年の頭をポンと叩くと、立ち上がった。
「SIN、ごめんなさい……血が出てる……」
SINは笑いながら答えた。
「ああ、これか?大した事ない大丈夫だ。気にするな」
そう言うと、もう一度少年の頭をポンと叩き言った。
「良いか、友達の事を思った今日の勇気を忘れるな。お前のその勇気が、きっと役に立つ時が来る。良いな」
少年は力強く頷いた。
「良し!じゃあな」
SINはギャレイに乗り込もうとした。すると、
「俺も、行けるかな?俺もいつかはduo達に会いに行けるかな?」
少年はSINに聞いた。
「そうだな。行けるようになっていたら良いな……」
奴隷が自由に動く事が出来る日が来るなんて、今の時点では想像も出来ない……だけど……もし、何かが変われば……
そんな日も来るかもしれないな……
SINはそう思うとギャレイに乗り込んだ。
次回の更新は31日、朝7:30となります。




