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SIN  作者: 冬馬
第一話
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第一話--任務--05


「おい。メインカメラをあの未確認物に合わせろ!」


〈了解。メインカメラを未確認物に合わせる〉


 メインカメラが未確認物にに標準を合わせズームを開始した。スクリーンいっぱいに謎の物体が映し出される。


 なんてこった!クレーンじゃないか!


 こんな所にこんな物が置いてあると言う事は先客がいる事を意味する。もちろん指令書にはこんな事は書かれていない。俺は念の為にA.Iに確認した。


「おい!あんな物が置いてあるって指令書に載ってたか?」


〈いや、記載されていない〉


「じゃあ、あれはなんだ?なんであんな物が放置されている?何でもいいから情報を集めろ」


〈了解。ギャレイを通してログ検索する〉


 通信装備はギャレイの方が大型の物を積んでいるので通信速度が速く安定する。

 A.Iはギャレイの並列起動している自分のサブを通し「都」のメインサーバーとコンタクトを取り始めた。

 基本、過去の任務に関するログはメインサーバーに保管されているはずだ。


 しかし妙だな。


 俺は、A.Iがログを検索している間、なぜこんな物が放置されているのか考えていた。あのクレーン自体は、おそらくは調査隊のものだろう。それは容易に想像がつく。しかし問題は、調査隊が出ていたのなら、何故、大切なクレーンが放置され、調査隊レポートが指令書に記載されていないかと言うことだ。


 数多くある任務には、もちろん調査隊のレポートが記載されない物も多数ある。大抵、そう言ったものは、危険性の無い、日帰りで終わるような簡単な任務である場合が多い。今回の任務も、さほど危険な任務ではない。言ってみれば、落とし物を拾ってくるだけだ。だから、俺も指令書に調査隊のレポートが記載されていなくても気にも留めなかったのだ。


 それにクレーンが放置されたままである事が、尚更、俺の不安を煽る。


 「都」には開発者や技術者といった類の人種はいない。

 日常生活品はまだしも、重機のような重工業品を作る生産設備はあるにはあるが使える者がいない。なので、俺たちが任務で使用している重機は、H.M.Aを含め、元々「都」の基となった「()()」に放置されていたものを使用している。とはいえ、俺たち「マリオネット・コネクター」は「特殊技能」としての「知識」が「焼き付け」られてはいる。しかし、たった13人で何が出来る?この少ない人数では、いくら「知識」「生産施設」があっても、新たに大掛かりな物を作る事は出来ない。それ以上に上の連中は、「知識」を焼き付けられた俺たちを警戒しているのだろう。だから「知識」を焼き付ける人数は増えることは無い。

 

 重機は簡単に戦闘兵器に転用できる……


 そう言った理由もあり、重機や重工業品は大変貴重であり重要なのだ。なので放置する事など考えられない。あり得ない事だ。例え調査隊の人員が全滅の危機に瀕しても、重機だけは最優先に回収するはずだ。

 ヒトは使い捨てにされる。重機と違い変わりはいくらでも作る事ができるのだ。


 考えれば考えるほど、嫌な予感が頭をよぎる。クレーンが放置されたままであると言う事は回収出来ない理由がある。その回収出来ない理由とは……。


 喉が渇いたな……。


 俺らしくも無い。ひどく緊張しているみたいだ。A.Iからの返答を待っている時間が酷く長く感じる。コクピット内を静寂が包む。


 突然、静寂を破り通知音が鳴った。


〈検索結果が出た〉


 A.Iからの検索結果の報告だ。


「それで?何か情報はあったか?」


 ほんの些細なことでも良い。俺は情報が欲しかった。


〈結論から言うと、調査隊の記録は見つからなかった……しかし……〉


 A.Iが言い淀んだ。何か見つけたか。


「どうした?はっきり言え」


〈ログの中に何者かが侵入した痕跡が見つかった〉


 メインサーバーへのアクセス権は「マリオネット・コネクター」のチームリーダーの4人と俺を含めて5人、そして「ハンドラー」とその上の人間だけだ。

 このメインサーバーには、チーム、部隊が動けばそれぞれの搭載A.Iから、俺たちの任務行動記録や調査隊の行動記録など随時データが送られ、自動更新されていく。このデータログは厳重に管理されている。いくつものファイアウォールに守られ、侵入される事など不可能に近い。もし、侵入されでもしたら、責任者は「()()()()()」を焼かれ、「()()()()」を刻まれる……


 俺は、もう一度A.Iに聞いた。


「それは確かなんだな?侵入した者の追跡は出来たのか?」


〈何度か追跡者(チェイサー)を仕掛けたが、悉く(ウォール)に弾かれたので追跡は断念した〉


「それで良い。藪を突いて蛇が出る前に尻尾巻いて逃げる。それで正解だ。それと、これ以上何もするなよ。念の為、追跡ログも消しておけ」


〈了解。追跡ログの偽装を行う〉


 何やらキナ臭い匂いがしてきた。(ウォール)に守られていると言う事は、それなりに「()()」な方々だ。


 しかし、そんな「高度」な方々が何のために今回の調査ログを消したんだ?


 目的がわからない。あの目標地点に何か隠蔽したい物でもあるのだろうか?ならば、今回の任務を出さなければ良いだけの話だと思うが……。


 これは「陰謀」に近いものだ。誰かが俺を消したいと動いている。しかし、ただの()()でしかない俺を消す為には、手が混んでいるとも言える。いや、今は考えるのはやめよう。これ以上「()()()()」つもりはない。


 だが、消えた調査隊のデータも無く、想定外の事が任務中にも起こる可能性が大きくなった今、ここは、もう少し調査を広げてみる事にした。


「シーカーを穴の中に入れられるか?」


〈了解。シーカーを目標地点の穴に入れる〉


 シーカーが穴の中に突入した。さて、鬼が出るか蛇が出るか。俺はシーカーから送られている映像を注意深く見ていた。僅かな異変も見逃してはならない。


 突然、シーカーからの映像が乱れ始めた。


〈シーカーのコントロールが効かない。目標地点の磁気の乱れを観測〉


 シーカーにはH.M.Aと違い電磁シールドなんて大掛かりなものは積んでいない。機動性を重視して積まなかったのだ。だから磁気の乱れなどには思いの外脆い。


 これは改良の余地有りだな。


 俺は呑気にこんな事を考えながら、とりあえずシーカーを回収する事にした。これ以上の探索は無理だろう。


「シーカーを戻せ!」


 どうやら事態は悪い方向にしか向かっていないようだ。しかし、俺たちには任務を拒否する権限は無い。「ハンドラー」に報告をしたところで任務放棄と見なされるだけだ。任務放棄には厳罰が課せられる。俺が俺でなくなる可能性も考えられる。俺が俺である為にはどんなに困難な任務でも行くしかないのだ。


 しかし……


 本当に俺のくだらない策を使う事になるとは思いもしなかった。


「仕方がない。このまま行くぞ。それとギャレイを呼んでおけ」


〈それは指令書に背く事になる。承認出来ない〉


「うるさい!良いから言われた通りにしろ!このままだと、任務失敗で矯正独房入りだ。それに比べたら『ハンドラー』の嫌味位いくらでも聞いてやる。この先、何があるかわからない所に単体で突っ込むなんて危なくて出来るか!穴の中でエネルギー切れなんて起こしやがったらそれこそ終わりだぞ!」


〈しかし……〉


「しかしじゃない!良いか!もう一度言うぞ!ギャレイを呼べ!俺たちの移動ルートをトレースさせろ。目標地点は、穴の縁の調査隊の残骸跡だ。クレーンが設置してあるから、地形の安全性は問題ないはずだ」


〈……了解……〉


 俺のくだらない策に、渋々ながらA.Iは承諾したようだ。エネルギーが不安なら、エネルギーを補充出来るようにすれば良いだけだ。この策にはもれなく「ハンドラー」の嫌味が付いてくるが……命には変えられない。


 これで、活動時間の制限と装備の制限の不安は解消された。しかし、最大の懸念が残ってはいる……


 もしや、調査隊全員が装備を置いて集団脱走したとか、集団脱走を隠蔽する為に、ログを消去したとか……


 くだらない。


 そんな考えは楽観を通り過ぎで、夢の中だ。俺の考える最悪の事態に比べたら、天と地の差がある。

 俺は、自分が感じた悪い予感に過剰に反応しているだけかもしれない。しかし、常に最悪を想定して物事を運ばないと代償として命を差し出す事になる。その為にも俺はA.Iの指示では無く、自分の勘を信じる。自分で納得をして選んだ事ならば、命を差し出したところで悔いは無い。


「よし、目標地点に移動するぞ」


 俺たちは目標地点に移動を始めた。

次回の更新は25日金曜日、朝7:30となります。

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