第十一話--友--01
「うおおおおおおっ」
SINの声にならない叫びがコクピット内に響き渡っている。警報アラートの音が「H.M.A」が不安で泣き叫ぶ様に悲痛な音を鳴らし続けていた。
「なぜだ!なぜだ!」
SINは自分の境遇や今までされて来た理不尽とも言える仕打ち、自分に関わった全ての物に今まで感じたことの無い程の大きな恨みを持ち始めていた。
「なぜ、俺ばかり、こんな目に遭うんだ!なぜ、俺の周りの人間は皆居なくなるんだ!なぜだ!なぜだ!なぜ俺は生まれて来たんだ!」
〈SIN!SIN!〉
コクピットに、微かだが、懐かしい声が聞こえてきた。しかし、SINは気が付かない、いや、今のSINの耳には入らなかった。
〈ったく、しょうがねぇなぁ。駄々っ子じゃねぇんだから、いつまで泣いてんだよ〉
優しくも懐かしい声が、コクピット内に響く。
〈ほんとに、あんたは、どんなに気取ってても、手がかかるのは誰かさんと同じね。お姉さんとしては気が気じゃないのよね〉
〈誰がお姉さんだよ。それよか手がかかるってのはなんだよ!〉
〈そのまんまの意味よ!〉
SINに聴き慣れた、暖かい、懐かしいやり取りが聞こえてきた。
ああ……懐かしいな……コイツらといると本当に暖かい……
少しずつ、僅かであるが、SINに声が届き始めている。
〈お前らは、いつまでやってる!!〉
懐かしい怒鳴り声が聞こえた。
ああ……このやり取り……
〈だってSINがいつまで経っても、泣いてるんだもんな。せっかく友達が来てやってるって言うのによ〉
〈そうよ。私たちが来てるんだから、少しは喜びなさいよ〉
〈ああ、うるさい。わかった、わかった。SIN聞こえるか?コイツらはうるさくて構わん。いい加減、コイツらの相手をしてやってくれないか?友達だろ?〉
トモ……ダチ……
〈そうだぞ!SIN!いい加減にしないと拗ねるぞ!〉
〈そうよ!いつまでもいじけてないの!私たちがいるでしょ!〉
トモ……ダチ……トモ……ダチ……
〈いつまでもウジウジしとらんで、起きんか!!〉
「!!」
SINは、何かに力づけられたように、大きく目を開けた。すると、SINを包んでいた、赤黒い霧が次第に消え始めた。
「俺は……俺は……一人じゃないのか……」
「ほう……」
闇に染まった翼を持つ者は、驚きと共に感嘆の声を上げた。
「!?あれはどう言うことだ?」
光り輝く翼を持った者は、ただ、目の前に起こっている事が信じられずにいた。
「あやつは、あのまま、闇に堕ち、闇の鎖に囚われるのでは無かったのか?」
「残念だな、お前の予想通りとは行かなかったようだ」
闇に染まった翼を持つ者は、そう言うと笑った。
「時は動き、これからは、我らでさえ予想のつかない、新しい刻が始まる……」
「何を言っているんだ?こんな事が許されていいわけが無い。新たに目覚めるなぞ、あの御方が許される筈がない!」
「ならばどうする?ラッパを吹くのか?」
闇に染まった翼を持つ者は、呆れたように言って続けた。
「ラッパを吹くのならば、吹けば良い。ただし、お前の意思でな」
「私の意思……」
「お前の意思だ。あの御方を感じられなくなった今、責任逃れは出来ん。何をするにも、お前は自分の意思で動かなければならん」
光り輝く翼を持った者は、狼狽えていた。
「私には、意志なぞ無い。自分の意思なぞ持ってはいけないのだ」
「よく考えることだ。ただ、言っておくが、今の人類を滅ぼしても意味は無いぞ」
「意味が無いだと?なぜだ?」
男は、笑って答えた。
「それを見極めるまで、待っても良いのではないか?ミカエル?」
「ああ、ルシファー兄様にその名を呼んでもらうのは、随分と久しぶりだ……」
ルシファーは、家族を慈しむ優しい笑みでミカエルに言った。
「アイツが目覚めた今、時は動いたのだ。我らも自分の意思を持たなければならぬ。自分の存在意義を見つけねばならぬ。その為にも、今しばらく、あやつを見続けていよう。もちろん、お前も兄弟達も、自分の意思で動くのは構わん。私は、その為に、人類が滅びようが何も言わんよ。お前達が決めた事なのだから。しかしその為にも、もう少しあやつらに時間をやっても良いのでは無いか?」
「わかった……今は兄上の言う事に従う事にしよう……」
ミカエルは静かに頷くと、その場から消えた。
「さて、こちらは親離れ出来るのか……」
ルシファーは呟いた。
〈やっと目を覚ましやがった。お前ってば、なんだかんだ言っても手がかかるよな〉
〈ほんとよ!誰かさんとそっくり!類は友を呼ぶってこう言う事だわ〉
〈誰かさんて誰だよ?〉
〈気が付かないの?〉
〈うるさい!全くお前らは……〉
「duo、unus、tres……お前たち……」
SINの目から涙が溢れ始めた。
次回の更新は17日、朝7:30となります。




