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SIN〜第一部〜  作者: 冬馬
第十話
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第十話--贖罪--05

 なんてこった!このままじゃSINが暴走する


 「ハンドラー」はSINの暴走を防ぐ為に、ヘッドセットのマイクを握り締め、通信ボタンを押そうとしたその時に、突然頭の中に美しい声が響いた。


 〈あなたは今まで通り今の任務に集中してください。まだ、あなたはここでやる事があります〉


 「誰だ?」


 「ハンドラー」は美しい声の主に聞いた。しかし、声の主は「ハンドラー」の質問には答えずに続けた。


 〈今は、あの狂った神もどきに従っていて下さい。それが、あなたの為でもあります。良いですね〉


 「しかし、このままでは……」


 「ハンドラー」は声の主の言っている事に従う事が出来るわけがなかった。「H.M.A」の運用責任者としては、何者かも分からない者の命令に従うことが出来るはずがない。それは「ハンドラー」なりの覚悟とも言える物であった。そんな「ハンドラー」の覚悟を知ってか知らずか、声の主は一際強く「ハンドラー」に言った。


 〈時間がありません。今は従って下さい。これは命令です〉


 「ハンドラー」は声の主から、不思議な圧力を感じた。


 この圧力は……一体何者なんだ?王族か?いや、あんなお飾りの王族なぞにこんな事ができるわけがない。ならば、考えられるのは……


 「ハンドラー」は声の主に従う事にした。と言うより、声の主の圧力に屈した。


 「わかりました……」


 〈それで良いのです。あなたは今までと変わらずに。まだ動く時ではありません〉


 まるで全ての事がわかっているようだ……


 「ハンドラー」はそう思ったが、口には出さなかった。


 SIN……何とか乗り切ってくれ……



 「おい、あのH.M.A、何か色変わってないか?」


 「バカ言うなよ。そんな事ある訳……」


 奴隷たちがSINの「Helios」を見て驚愕の声をあげ始めていた。


 「Helios」の機体が、赤黒い靄に包まれ、禍々しく、まるで血のようなどす黒い赤に染まりつつあったのだ。


 「ハンドラー」がβチームに指示を出した。


 「お前らは、その場で待機していろ!いいか!SINの暴走が確認されたら、追ってこちらから指令を出す。それまで動くな!」


 「リョウカイ」


 今まで通りにしろって言われてもこれくらいしか出来ないぞ。奴が暴走したら時間稼ぎにもならない。



 「おお、闇に染まっていく。そうだ、そのまま闇に堕ちろ!」


 〈やめなさい!!〉


 「母様!」


 〈あなたは、なんて事をしたのですか!あなたのした事の意味をわかっているのですか!〉


 「何をおっしゃいます。『もう一人の母様』がおっしゃった事ですよ。奴に全て罪を背負わせ、私が神になれと!」


 〈なんてバカな事を……それは私の本意ではありません。少しでもあの子の気持ちを鎮めなさい!〉


 「なぜ、そこまで母様は、あの罪深きモノを庇うのですか!『もう一人の母様』とは真逆の事をおっしゃる!あの男に何があると言うのですか!たかがヒトのなり損ないじゃないですか!」



 「とうとう、闇に落ちるか……今回は長く持ったな」


 事の成り行きを遠巻きに見ていた、金色に輝く眼と光り輝く翼を持った者が呟いた。そこに赤い眼をした闇に染まった翼を持った男が近づき呟いた。


 「随分と楽しそうだな。何度も同じ結末を見て、よくも飽きないものだ。趣味が良いとは言えんな……」


 「貴方が、それを言いますか……何人もの人間を破滅に追い込んでいる貴方には言われたくはありませんね」


 光り輝く翼を持った者は、振り返りもせず答えた。


 「よく言う、あの御方の名を語り、加護と称し、人類の未来を狭めたのは誰だ?あの卵とやらもそうだろう?」


 光り輝く翼を持った者は、薄笑いを浮かべながら言った。


 「その言い方、貴方は変わりませんね……私は、貴方のその皮肉めいた言い方が大嫌いなのですよ」


 光り輝く翼を持った者は振り返り、嫌悪感を露わに、闇に染まった翼を持つ者に言い放った。


 「ふふ、相変わらずだな」


 闇に染まった翼を持つ者は、笑みを浮かべ言った。光り輝く翼を持った者は、その笑みに、多少の驚きを持って言った。


 「貴方が、その様な表情を見せるとはね。何かありましたか?」


 「うん?刻が動き始めようとしているのだからな。お前は気が付かないのか?」


 闇に染まった翼を持つ者は、多少の皮肉を交えて言った。光り輝く翼を持った者は、その皮肉を聞き流して言った。


 「刻が動く?何を言っているのです。これからのシナリオはもう既に決まっているのですよ。ここで、奴は強制的に眠らされ、数年凍結された後全てが初期化され、また初めから同じ事を繰り返すのです。そう、永遠の孤独を味わい続けるのです。それが理から外れた者の贖罪なのです」


 闇に染まった翼を持つ者は、侮蔑を込めた笑みを浮かべ言った。


 「贖罪ね……奴は、もう充分に罪を償ったと思うがな……」


 「なんですと?」


 光り輝く翼を持った者は、闇に染まった翼を持つ者に苛立ちを感じ始めた。

 

 これは、決められたシナリオなのだ……これからもずっと、あの男は死ぬことも出来ずに、孤独の中で生きなければならないのだ……これは決められている事なのだ。これは、我らで共有されている事なのではないか。


 闇に染まった翼を持つ者は、そんな事を思う光り輝く翼を持った者に、意外な言葉を吐いた。


 「そもそも、奴には罪なぞ無いとは思わんか?」


次回の更新は10月03日、朝7:30となります。

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