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SIN〜第一部〜  作者: 冬馬
第十話
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第十話--贖罪--04

 俺は、ハンガーから『Helios』を出し、ゴミ捨て場に向かった。もちろんギャレイも念の為に出した。いちいち装備をハンガーに取りに行くのは面倒くさい。


 現場に着くと既に奴隷達が作業の準備を始めていた。βチームはまだ着いていないようだった。作業開始時刻まで時間がある。俺も奴隷達と同じように作業の準備を始めた。

 ここでも、昨日と同じように奴隷たちの態度が、どこかよそよそしく感じた。俺は、あえて、気が付かないふりをして、準備作業を進めていた。


 そろそろ時間だな。


 そう思うと、βチームが定刻ジャストに現れた。


 流石、洗脳されているだけあって、無駄が無いな。まるで機械と同じだな……


 俺は、正直に言ってコイツらが好きになれなかった。


 感情を持たなくてヒトと言えるのか……


 しかし……感情を消さなければ奴隷として生きていけない……


 だが、俺たちは機械ではない……


 見たくない物を見ないふりをして、感情を殺して生きていても、それはもはやヒトでは無いのだ……わかってはいる、わかってはいるが、それが出来ないのが奴隷なのだ……改めて奴隷はヒトでは無い事を痛感させられる……


 ならば、コイツらの方が幸せなのかもしれないな……


 洗脳とも言える「マインドコントロール」を受け、言われるがまま、何の疑問も持たずに任務をこなす毎日……

 機械のようにコマンドを入力されて、コマンド通りに動くだけ……ヒトとしての感情、喜びや悲しみ、苦しみ、寂しさを感じない機械の方が、この世界ではうまく行く……


 奴隷達は、定刻と同時に作業を開始した。

 俺も奴隷たちと共に作業を開始した。そしていつものように、使えそうな物を見繕っては、奴隷達の方に寄せる様にした。奴隷達は、これもいつものように、そのゴミの中から使えそうな物を物色し始めていた。


 それにしても……


 いつもに比べると、俺の周りに集まる奴隷の数が明らかに少ない。やはり俺は避けられているようだ。


 意外と、こう言うのもキツいものだ。


 今までは、そんなことを考えたことも無かった。他人との関わりを避けていた俺には、あえて、自ら一人でいる事を選択していた。

 俺の中に、土足で入ってきて、掻き回す奴……duo(デュオ)の影響が事の他、大きく感じた。


俺はβチームの方に目をやった。どうやら、奴らも奴隷達に、使えそうな物を見繕っては寄せているようだ。感情を消されていても、奴隷達の不文律は奴らにも生きている。


 不思議な物だな……


 俺はそう思った。しかしだからこそ、こういった合同任務も問題無く進むのだろうし、奴隷達も安心して作業をする事ができるのだろう。逆に、どちらかと言えば俺の方が、部外者だと思われているようだ。奴隷達の緊張感が伝わってくる。


 思いの外早く作業が進み、あらかたゴミ拾いが終わった頃、奴隷達がある1ヶ所に集まっていた。自分たちの身の安全を守る為に、作業中には感情を表に出さない奴隷達が明らかに動揺している。


 何だ?


 俺は、奴隷達が集まっている方を見た。ここからだとよくわからない。


 俺は何か嫌な予感がした……


 「おい、あそこにズームしろ!」


 俺はA.Iに指示を出した。


 〈……〉


 A.Iから返事が無い。


 「何をしてるんだ!早くズームをしろと言ってる!」


 返事が無く、命令を無視するA.Iにイラついた俺は、A.Iに怒鳴った。


 〈……〉


 A.Iは俺の怒鳴り声に怯む事もなく、全く返事が返ってこない。


 「H.M.A」に搭載されているA.Iは、任務を遂行する為のサポートが仕事だ。どんな事があっても任務を完遂する事がコイツらの使命であると言える。しかし、コイツらにも、例外的な共通基本原則がある。それはコイツらのマスターである「コネクター」を守る事だ。これが何よりも優先されるプログラムが組まれている。


 そう、俺はA.Iが俺を守ろうとしていた事に気が付かなかったのだ……


 俺は、いつまでも無言を貫くA.Iに半ば、諦めとも言える苛立ちを感じていた。


 ここまで使い物にならなくなるとはな……


 業を煮やした俺は、A.Iの権限を取り上げ、マニュアルでメインカメラを操作した。奴隷たちが集まっている場所に焦点を合わせ、ズームをさせると、何やら人らしきものが3体、いや子供らしき物も入れ合計4体見える。


 また奴隷が処分されたのか……


 俺は、単純にそう思っていた。いつもの事だろうと思っていたのだ。


 しかし……


 俺は、心に何かしらのざわつきを感じ、急いでズームの倍率を上げた。


 「duo(デュオ)!!」


 俺は思わず声を上げた。


 まさか、まさか、まさか!?


 メインカメラに映し出されたのは、正にduoだった。


 こんな事があるか!あってたまるか!


 俺は急いで「H.M.A」から降り、奴隷達が囲んでいるその場に駆け寄った。


 その場には、duoだけでは無い、unus(ウヌス)tres(トレス)も、そして、まだ幼いすずさえも変わり果てた姿で捨てられていた。


 奴隷達は、怒りに満ちた目で俺を見ていた。


 そうか、コイツらは知っていたんだ……俺と関わったからこうなった事を……


 俺は立っている事が出来ずにその場にへたり込んでしまった。俺の目から涙がこぼれ、声にならない叫びをあげた。


 なぜだ!なぜだ!なぜだ!なぜ奴らが処分されなければならないんだ!なぜ奴らが死ななければならないんだ!俺を殺せば良いだろう!


 俺の中から、ドス黒い、今まで感じた事のない感情が湧き上がってきているのを感じた。


 なぜだ!なぜだ!なぜだ!


 いつの間にか、俺の周りを奴隷達が取り囲み、侮蔑や蔑み、あらゆる人間の負の感情のこもった視線を向けていた。


 お前が殺した!


 お前と関わったから殺された!


 お前が死ねば良かったんだ!


 お前はやはり死神だ!


 死神だ!!死神だ!!死神だ!!


 奴隷の視線が、鋭い言葉となって俺に突き刺さってくる。俺は、その場に居た堪れずに「Helios」のコクピットに戻った。

 しかし、コクピットに戻ってからも容赦無く奴隷達からの言葉が俺を責め立てる。


 お前が殺した!お前が殺した!


 違う、違う、違う!


 死神だ!お前は死神だ!


 違う、違う、違う!!


 死神!死神!死神!


 違う!違う!違う!!!誰か助けてくれ!!もう一人は嫌だ!!



 俺の中で何かが切れた……



 「ははははは。黒く染まる。黒く染まって行く。そうだ、染まれ!お前の赴くままに染まれば良い!ヒトの罪を全て背負い、黒く染まれば、私は神になる!出来損ないのお前は全ての罪を背負い、永遠に闇の中で生きれば良い!」


次回の更新は29日、朝7:30となります。

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