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SIN  作者: 冬馬
第一話
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第一話--任務--04


 俺たちは目標地点へと向かった。

 辺りは色なんて物は無い、灰色のモノトーンに覆われた見慣れた不毛の大地が広がっている。「裁き」以前には人間や建物がひしめき合っていたというが、過去の遺物に絡み付く不気味な「黒き森」と、焼き尽くされ全て流された大地。


 過去の栄華、そんな物は見る影も無い。


〈Helios各部、関節共に問題無い〉


 A.Iの声がコックピットに響いた。

 几帳面にもコイツは、定期的にH.M.Aの状態を伝えてくる。それがコイツの仕事だから当たり前のことなのだが、俺にはH.M.Aの状態なぞコントロールレバーを握っていれば、ある程度は伝わってくる。コイツは具合が悪ければ、拗ねた子供のようにコントロールが微妙に重くなるからだ。長く乗っている間にコイツの感情のようなものを感じるコツを掴んだのかもしれない。

 今日はコントロールが軽い、機嫌が良い証拠だ。


「了解」


 俺は事務的に答えた。これは一種のルーティンだ。異常がない限りは延々と繰り返される。


 それにしても一体、待機地点からどれくらい離れているんだ。


 もう随分と移動をしているはずだが、まだ目標地点が見えない。

 ただ移動するだけって言うのも意外と飽きる物だ。いくらH.M.Aが汎用重機だとは言っても、移動は2本足だ、移動速度も高々知れている。ギャレイの方がよっぽど早くて快適だ。


〈待機地点から目標まで50kmだ。残り30km。ギャレイは目標地点の地形の安全が確認されていない為、待機地点にて待機しろと指令書には記されている。読まなかったのか?〉


 また、俺の中を()()()先読みしやがった。


 コイツは俺の思った事に対してすぐに反応を返してくる。


 これを便利だと言う者もいるだろうが俺は好きになれない。俺の中を勝手に覗いて、俺の中で整理が出来ていないうちに、一つの答えを出してくる。その行為はひどく傲慢でしかなくヒトの思考から生まれる()()()を奪う事に他ならない。


 ヒトは考え、あらゆる選択肢の中から最善と思われるものを選び実行する。

 例え失敗をしても、死なない限りはそれを学びとして経験とする。だからヒトなのだ。

 奴の行動は、親が子供の行動を決めるように、それらをヒトから奪う事だ。俺は奴の言いなりの聞き分けの良い子供じゃない。奴の思い通りに動くのが嫌なのだ。

 ただし、それも時と場合によると言うのも理解している。

 任務中の奴の先読みは、色々と役に立つ事もあるのだ。失敗が死に直結する任務の中では、選択肢のミスは経験の糧とする事が出来ない。奴は任務達成の為に合理的で最善の策を提示してくる。自ずと生き残る確率は高くなるだろう。しかし俺はそんな時にも自分で選択し行動する。

 例えそれが合理的な物では無く、生き残る確率が低くなっても、俺は自分で納得をした選択をしたいのだ。


 俺は人形ではない、()()なのだ。


「ホバーモードで移動した方が効率が良いんじゃないか?」


 俺はA.Iに問いかけた。このまま歩行モードで移動していても時間ばかり掛かって効率が悪い。

 合理的な判断をするのはコイツの最も得意とする所だ。それがわかっているから俺はあえて先回りをして提案をした。

 コイツは合理性を尊重するあまり、融通に欠けるところがある。


〈目標地点までの地形を確認したところ、行けないことはないが、定刻よりも30分早く着いてしまう〉


 思った通りの優等生の答えが返ってきた。30分早く目標地点に着いたからと言って、ペナルティを食らうわけでも無いだろう。命令された期間内に任務を終わらせれば良いだけだ。


「別に早く着く分には構わんだろ。その分捕獲に時間を使える」


〈確かにお前の言う事は合理的だ。ホバーモードの場合、燃料消費が10%増加する。「Helios」の現地での活動時間が減る事になるが構わないか?〉


 相変わらず細かい事を言ってくる。


「お前の試算だとどうなんだ?どうせ「Helios」のエネルギーも余裕を持たせているんだろ?」


〈ホバーモードを使用した場合の現地での活動限界時間は、60時間。歩行モードの場合、72時間〉


 なるほど、半日減るのか、結構キツイな。


 目標地点までの30分の為に半日失うのは普通に考えたら割が合わない。しかし、俺には俺なりの策がある。とても策と言えるようなシロモノでは無いのだが……。

 こんな不確定要素の塊の策なんて、絶対にコイツが賛同するわけが無い。


 だが、俺はあえて自分の策で行く事にした。


「ホバーモードで行こう。俺に策がある」


〈了解した。ホバーモードに移行する〉


 こう言う時のコイツは、妙に素直になる。決定権が俺にあるのだから当たり前と言えば当たり前なのだが……。


 任務を遂行する上で、決定権がどちらにあるかはっきりしなければ、揉めるだけで任務の成功確率も下がる。

 一つの船に船頭は二人もいらないのだ。

 もちろんコイツなりの打算もあるだろうが、最低限、そこはコイツも弁えているようだ。俺がOKを出さなければ、コイツがいくら提案してもそれが採用される事は決して無い。他の奴は知らないが、俺は自分で考え自分で納得しなければ絶対にOKしない。俺の中でコイツはあくまでサポートだ。気に入らないコイツと長くいられるのも俺とコイツの間に最低限のルールが存在しているからだ。


「Helios」の足に付いているバーニアから勢いよく圧縮された空気が噴き出す。

 バーニアから放出された圧縮空気が、「Helios」に浮力を与えると、歩行モード特有の揺れが無くなった。推進バーニアを作動させると、滑るように前に進み始めた。移動する分には、このホバーモードの方が早いし揺れが少ない分快適だ。歩行モードでは、いくらダンパーで衝撃を吸収しても、あまり心地の良くない振動が伝わってくる。これも慣れの問題だが、初めてH.M.Aの訓練を受けた時には閉口したものだ。

 しかし、このホバーモードも利点ばかりではない。なんせエネルギーの消費量が多い。H.M.Aに積めるエネルギーは任務に合わせて支給される為に限りがあるから、今回のように活動時間が制限されることになる。それと、地形に左右されてしまうことだ。不毛の大地と言っても、見渡すかぎり真っ平なわけではない。山もあれば、谷もあるし、崖や、地割れもある。そう言った場所では使えないわけだ。


「おい、あと何分……」


 俺が問いかけると、


〈目標地点到着まで、あと15分〉


 俺の問いかけを遮るように答えが返ってきた。さっきの意趣返しか?こういう所が癪に障る。


〈目標確認。目標地点まであと500m〉


「了解。ホバーモードをOFFだ。念の為にシーカーを射出。俺たちは、とりあえずここで目標地点の状況がはっきりするまで待機だ」


〈了解。シーカーを射出する〉


 とりあえず俺は「Helios」を停止させ、目標の索敵を始めた。


 このシーカーを俺は好んで使う。

 目標の状況もわからず突っ込んでいくのは馬鹿のする事だ。指令書には調査隊の情報も載せられているが、それが全て正しいとは限らないし、情報が古くて使い物にならない事もある。任務を開始してから話が違うと言ったところで、後の祭りで、その時には代償は自分の命で払う事になる。

 情報は生き残る為には最も重要な物だ。だから俺は、本来H.M.Aには搭載されていない、このシーカーを作った。


 俺たち「マリオネット・コネクター」はこう言う能力も「焼き付け」られている。しかし、「焼き付け」られてはいても使うか使わないかは個人の自由だ。


 俺はメインスクリーンに映し出された目標を確認した。シーカーが目標地点に向かう。


「ちょっと遠いな。倍率上げてくれるか」


〈了解。カメラの倍率を2倍に上げる〉


 目標地点にズームされた映像がスクリーンに映し出された。それと同時にシーカーからの映像も送られてきた。目標地点は大きな口を開けた地中深く繋がる穴だった。


「シーカーを穴の縁に沿って回らせろ」


〈了解。シーカーに穴の縁に沿って回らせる〉


 シーカーが縁を沿って回り始めた。何かが見える。


「なんだ?あれは?」


 シーカーが不思議な物を捉えた。


次回の更新は21日月曜日、朝7:30となります。

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