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SIN〜第一部〜  作者: 冬馬
第十話
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第十話--贖罪--02

 俺は、ハンガーにギャレイを入れると、無意識のうちに食堂に向かっていた。無性に人の声が聞きたかったのだ。タイミングが合えば、duo(ドゥオ)に会えるかもしれない。そうも考えていた。いや、duoだけでは無い、unus(ウヌス)tres(トレス)、すずにも会えるかもしれない。

 

 多分……俺は人の温もりが欲しかったのかもしれない……


 人との関わりを極力避けて来たのに、関わりを持ってしまうと脆いものだ……だが……この脆さがヒトなのだ……


 俺は食堂に入った。すると、俺は違和感を感じた。食堂にいる奴らから、明らかに俺に冷たい視線が向けられていたのだ。


 何だ?何かがおかしい……


 今までもこんな事は当たり前のようにあった。

 それは、俺の噂のせいでもあった。他者との関わりを避けて来た俺には気に留めることもなかったし、逆にその方が楽だった。

 しかし、duo達やリン、すずと話すようになってからは、他の者の俺を見る目も徐々に変わっていったのを感じていた。以前と違い、俺に対して随分と好意的になっていたし、少しずつではあるが、声をかけてくる者も出始めていた。


 俺はそれを次第に心地良いと感じ始めていたのだ。他者との関わりも悪い物ではないと思い始めていたのだ。微かだが、人の温もりを感じる事が出来たのだ。

 

 だが、今回のこれは、明らかに以前のそれとは違う。


 俺に向けられる冷たい視線の中には、以前感じられた恐怖や恐れ、忌避とは別に、侮蔑や蔑みの感情が感じられた。


 なぜ?……なぜそんな目で俺を見るんだ?


 俺は酷く混乱していた。すっぽりと抜け落ちた記憶と共に俺の中には処理できない疑問だけが渦巻いていた。


 なぜ?なぜ?なぜ?

 

 俺は、いつの間にか、冷たい視線が俺に剥けられる中duoを探していた。

 アイツなら、何があったのか説明してくれるだろう。気にするなと声をかけてくれるかもしれない。俺はそれを期待していたのだ。


 人との関わりを心地良いと思ってしまった俺は、人との関わりを誰よりも求めていたのだ……

 

 しかし……食堂にはduoはおろか、unusやtres、すずまでもがいなかった……


 俺は、俺に剥けられた冷たい視線に居た堪れなくなり、食堂から自分の存在を消すように逃げ出した……



 俺が「黒き森」の調査から帰還した次の日、新たな任務が下っていた。どんなに過酷な任務の後であれ、上の連中は、俺たちの体調なぞ配慮するわけもなく、容赦無く任務を入れてくる。ただでさえ、昨日は、混乱する事が多すぎて、まともに眠れなかった。

 ただ、そんな事はもう慣れている。どんな事情であれ、奴隷は死ぬまで働かされるのだ。いちいち、そんな事に文句を言っても何も変わらない。


 ただ……ただ、気がかりなのは、今朝もαチームの奴らと顔を合わせなかった事だ。そればかりか、食堂を覗いてみても、いつも甲斐甲斐しく働いているすずの姿も見かけなかった。変わらなかったのは、俺に向けられる冷たい視線だけだった。


 今までも、αチームと何日も顔を合わせなかった事はある。お互いに任務に出ていれば、そんな事は日常茶飯事だった。


 だが……今回は嫌な胸騒ぎがする……


 俺の思い過ごしであればそれで良い。もし、奴らが他の奴隷達と同じように、俺の知らない何かのきっかけで俺への態度が変わろうとも、奴らが生きていればそれで良い……


 俺とした事が……随分と弱くなったものだ……


 俺は自虐的に笑った。


 まさか、自分がこんな感情を持つなんてな……これもduoの影響だな……どうせ、奴らの事だ、数日経ったら、何事も無かったように顔を出すだろう。


 俺は、楽観的に考える事にした。いや、そう思い込みたかったのだ。俺たち奴隷の命は軽い……それを俺は知っている。


 ひとまず、俺はハンガーに向かい、今日の任務の準備をする事にした。今日の任務は、βチームと合同で、いつものゴミ漁りだ。


 βチームもαチームと同じ構成の3マンセルだ。「H.M.A」の構成も同じ、と言うよりも、基本、各チームの「H.M.A」の構成は共通コンポーネントとなっている。もちろん、それぞれの好みによるカスタマイズは施されてはいるが、基本設計は同じ物だ。

 メンバーは、3人とも男性で構成されている。

 第二世代と言われる彼らは、第一世代よりもより強力なマインドコントロール、と言うより洗脳が施されており、感情が乏しく、奴らの表情からは奴らが何を考えているのかを窺い知る事はできない。合同任務でも、必要最低限の会話しかせず、今までの俺であれば、αチームよりもやりやすいチームだったのだが……


 良くも悪くも任務に忠実なだけの人形だ。


 duoが感情があり過ぎる気もするが……


 俺は、そう思った。

 αチームの奴らは、マインドコントロールを受けていても感情があり過ぎる。人形ではなく、普通のヒトと全く変わらない表情を見せる。時にそれが俺には煩わしいと感じていた。必要以上に俺に干渉してくるおせっかいな奴らだと思っていた。


 だが今は、感情の無い人形と任務を共にすると、物足りなさと切なさを感じるようになっていた……


次回の更新は22日、朝7:30となります。

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