第八話--邂逅--02
「あなたのような方が好奇心ですか?あなたの興味を引くようなものは無いと思いますが」
「そうでもない。君達の研究が気になってな。君達は人の矛盾について研究しているのだろう?」
サカガミは頷いた。
「君たちがどういった答えを出すのか、非常に興味があるのだよ」
この人には、答えはわかっているでしょうに……それよりも、その答えを出した我々がどうするのかを知りたいのでしょう。
「答えですか……まだまだ全然導き出せません。色々な角度からアプローチをしているのですが、すぐに壁に当たってしまう」
サカガミは正直に答えた。この男には下手な虚栄心や嘘は無駄だとわかっているからだ。
「そのようだな」
サカガミは大きなため息をついて
「この答えを導き出す事が出来れば、ヒトの未来も見えてくると思うんですがね」
「このままではヒトの未来は無いと、君は思っているのか?」
単純な問いかけではあるが、その奥にある意味をサカガミは考えていた。
やはり、この存在は、我々が導き出そうとしている答えの先を知っている……知っているからこそ、我々の答えを知りたいのだ……
サカガミは素直に頷いた。
「残念ながら……このままではヒトは滅びるしかありませんね。それはあなたの方がわかっているでしょう?」
「……」
逆にサカガミは男にカマをかけてみた。ここで答えを知っているこの男が、どういう反応をするのか興味があったのだ。
しかし男は答えなかった。
それに姿が見えない分表情もわからない以上、この男の反応を推し量ることは出来なかった。
サカガミは持論を展開し、この男の反応を少しでも探ることにした。
「あなたもご存知のように、ヒトは、この地であまりにも孤独です。しかし傲慢なヒトはそれに気づいていません。ヒトはこの地から搾取し、破壊するだけで、何も還元していません。ヒトだけこの地の輪から外れているのです」
「そうだな……しかしそれとヒトの矛盾が関係しているのか?」
サカガミはは大きく首を降った。
「それはわかりません。この矛盾はヒトの本能的な物ですから……まるで刷り込まれているような……ね」
「答えを教えてやろうか?」
男は意地悪く言った。サカガミにはこの見えない男が、意地の悪い笑みを浮かべているように感じた。
この男は、答えを知った私の反応を見て楽しみたいのだろう。絶望の先には未来など無い事を見せつけたいのだ。
サカガミは首を横に振った。
「いいえ、それをあなたから聞いた所で何が変わるのです?」
「おかしな事を言う。お前は答えを知りたくて研究をしているのだろう?」
サカガミは薄く笑みを浮かべて言った。
「私は矛盾の先にあるヒトの未来を見たいのですよ」
サカガミは、あえて、この男の期待していたであろう事とは反する答えを出した。
不意を突かれた男は大きく笑った。
「面白いやつだ。お前はもう答えを導き出しているのだな。その上でヒトの未来を見たいと言う。絶望しか無いヒトの未来をな」
「そうなのかもしれませんね。しかしヒトとして生まれた以上、絶望しかなくてもその先を見たいと思うの当然ではありませんか?」
「面白い。本当に面白い。しばらく君の側にいることにしよう。君の描く未来とやらを見させてもらおう」
男は、ヒトが導き出した答えというより、サカガミ個人に興味を持つようになった。
サカガミも、この男と議論を交わしたいと思っていた。しかし、サカガミには一つの懸念があった。
「それは良いのですが……」
「どうした?」
「いつも見られていると言うのは、あまり気分の良いものじゃありませんね」
「私の姿が見えないんだから、別に気にしなくても良いだろう」
「それもそうですが……」
すると、突然研究室のドアが開き、研究員達が帰ってきた。同時に男の気配が消えた。
「あれ?お一人ですか?」
研究員がサカガミに不思議そうに聞いた。
「ずっと一人だよ。どうした?」
「いや、話し声が聞こえたもので」
「気のせいじゃないか?さぁ、今後の方針を決めていこう」
研究員達はそれぞれ席に着き、議論を再開し始めた。
次回の更新は18日、朝7:30となります。




