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SIN〜第一部〜  作者: 冬馬
第六話

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第六話--黒き森--03

 俺はあらゆる事態を想定して、H.M.Aの起動準備を始めた。何せ、誰も入った事のない所へ行くのだ。準備をやりすぎても困る事はない。


〈どうだ?装備は決まったか?〉


「ああ、こんなもんだろう。チェックしてくれ」


〈これだとかなりの重量になるが、大丈夫か?〉


 Heliosはオールマイティな性格をしているが、duo(ドゥオ)の多脚型のAtlasに比べると、重量も軽く、装備も数多くは詰めるわけではない。重量増による機動性の低下も問題になる。しかし、今回の任務は生き残ることが第一目標だ。


「何があるかわからんからな。転ばぬ先の杖って奴だ。」


〈わかった。積み込みを始めるぞ〉


「ああ、頼む。H.M.Aを起動させる」


俺は、コントロールパネルを開き、コードを入力する。『S I N』と。


俺は、いつものように操縦席に身を沈めると、ヘッドマウントが被され、身体全体が、コントロールユニットに包まれた。


〈虹彩確認、血管認証確認、脳波認証確認、オールクリア。コードSINと認識。起動する〉


 Heliosは少し身体を振るわせると、全てのディスプレイモニターが光を放ち始めた。コンテナ内に重機械独特の重低音が響く。

 Heliosのコントロールが重い、コイツにも今回の任務がやばい事がわかっているみたいだ。


「大丈夫だ。心配するな。今回もうまくいくさ」


 Heliosのコントロールが少し軽くなった。


 そうだ。大丈夫だ。俺がいる。生き残ってやるさ。


〈あらかた積み終わったぞ〉


「了解。それと、ギャレイに位置確認の為の発信器を取り付けておいてくれ」


〈了解〉


「よし出るぞ。コンテナ開け」


 ギャレイのコンテナが開いた。外の明かりが差し込む。


「さて行くか」


 俺はHeliosを動かし、「黒き森」の入り口に立った。森の中は全く日が差していない。夜の暗闇のようだ。


 この「黒き森」は森とは言っても植物の木々が多い茂っているわけでは無い。この木々は何かの結晶体のようなもので出来ているのだ。この結晶体が何で作られているのか、それは何も分かってはいない。光も通さないこの結晶体は、現在あるどのサンプルとも整合性が見つかっていない。この木々に絡みつかれている過去の遺物も所々、同じような結晶体となり、明らかに侵食されているのが分かる。

 不思議な事にこの植物とも鉱物ともわからないこの黒い結晶体で作られた森は徐々に広がり続けている。まだ「都」にまでは及んではいないが、近い未来「都」にとって、この広がり続ける「黒き森」が大きな脅威となるだろう。明日をもしれない俺が心配しても仕方がない事だが、この森が人類の脅威になるのは間違いない事だと思える。

 この黒い結晶体に作られた「黒き森」は、何人も近寄らせない、妖しい美しさを持っていた。禁足の地であるが故の恐怖と畏怖、畏敬の念がそう思わせているのだろうか。しかし、この美しさに引き寄せられ中に入っても、生きて出てくる事は出来ない。


 俺たちは「黒き森」の中に入って行った。


「センサーしっかり監視してろよ。特に足元!バランス崩したらこの重量だ、大変な事になるぞ!」


〈わかってる〉


 センサーがどこまで生きているかはわからないが、生きているうちは頼らせてもらうしかない。


 俺たちは、一歩一歩確かめるように入って行った。森の中は、木々に絡みつかれた高度な文明の廃墟群が残っていた。この廃墟から見るに、この当時の文明は「都」よりも進んでいるかもしれない。


「すごいな」


 俺は思わず声が出た。こんな文明が栄えていたなんて。そして、こんな文明が滅んでしまったなんて。「神の焔」とはなんであったのだろうか。こんな高度な文明を滅ぼす力を持っていたのだろうか。ならば再び、「神の矢」が降り注げば、人類なぞひとたまりもない。ただ滅びを待つしかない。俺たち人間なぞ、こんな文明を滅ぼす力を持った存在からすれば、虫ケラにも等しい。


 入口から100mも進んだところで、陽の光は入らなくなり辺りは暗闇となった。


「全く見えないな。ライトつけてみろ」


〈了解、両肩のサブライトを点灯する〉


 しかし、美しいとは言っても不気味な森だ。いや、森と言って良いのか?便宜上は森と言っているが、内部に入ってみると、黒い結晶体に絡みつかれた無機質な廃墟があるだけだ。


 黒い結晶体はライトの光を吸収している。ライトが意味を成さない。


「全部光を吸収してやがる。これじゃライトの意味がないな」


 しょうがない。目視は諦めて、索敵モニター越しに行くしかなさそうだ。幸いにもまだセンサーは生きている。H.M.Aの計器は正常に作動していた。

 俺たちは索敵モニターとセンサーを頼りに手探りで先に進んだ。


〈SIN!生命反応だ〉


 突然、A.Iが叫んだ。もちろん、俺も索敵モニターに映った白い点は確認している。こんなところに生命体がいるとは考えられない。「人ならざる者」か?俺たちを遠巻きに監視しているみたいだ。


「ああ、俺も確認している。今すぐ攻撃をしてくるってわけでもなさそうだが……ライトを当ててみろ」


 肩のサブライトが生命反応がある地点に向けられた。光を全て吸収してしまう結晶体の前にはライトを当てても意味は無いが、何かしら反応があるかもしれない。


「うん?」


 もちろん、暗闇の中で目視では確認する事ができないが、索敵モニターに写っている白い点が光に反応するように逃げるように散らばった。


「面白いな。そこらにいる奴にライトを当ててみろ」


 同じように、ライトの光から逃げるように白い点が散らばっていった。


「これは面白いな。あいつらは見えない光に反応しているようだ。ライトをつけていれば奴らと接触しなくて済むな」


 こんな所で敵とも味方ともわからない奴らと接触なんてしていられるか。いや、生命反応があっても、俺たちの知っている生命体であるかも怪しい。そんな得体の知れない物なんかの相手はごめんだ。


「ここに入ってどれくらいだ?」


〈約1時間、距離にして5キロって所だ〉


「大して進んで無いな。手探りだから仕方が無いか。ところでマーカーはばら撒いてるんだろうな?」


〈ああ、1キロ毎に置いてある。まだ正常に作動している。自機の位置は確認出来る。〉


「そうか、アイツらが持って行かない限りは大丈夫だな。ところでこの森ってどれくらい広いんだ?」


〈正確にはわからんが、古いデータでは、都の10分の1って所だ。約62K㎡。しかし徐々に拡大しているからな。もっとあるかもしれん。〉


 俺は深くため息を吐いた。


「でかいな……これを全部調べるのか。まだまだ先は長い……いやその前に生きて出られるかな」


 俺たちは少し気が緩んでいた。

 森の中は入ってみると暗いだけで、脅威となる物は今の所何も無い。謎の生命反応も接触を仕掛けてくる様子もない。それに奴らの弱点がわかっていれば差したる脅威にもならない。A.Iなんか、結晶体の分析を始めている。

 さしたる脅威が無いので俺たちは先を急ぐ事にした。これだけの広さの森を調査するとなると、持って来ているレーション(戦闘糧食)だけでは食料が足らなくなる恐れがある。食糧の心配をするあたり、希望が見えて来たって事だと言える。


 俺たちは、森の中に入って1キロほどの所を森の淵に沿って進んでいる。大体一周辺り、A.Iの計算だと30キロ程だ。そして一周回ったらまた奥に進みグルリと回る。螺旋状に中心に向かう予定だ。こうすれば、いきなり中心部に向かうより危険も少なく幅広く調査が出来る。

 一応、今回の任務は、上の思惑はどうあれ、森の調査という名目なので、細かくマッピングをして行かなければならない。やるべき事はやっておかないと、無事帰還した所で、任務放棄をしたとして処分されてしまう事になる。そうなってしまっては意味が無い。


「それにしても、何にも無い。相変わらず遠巻きに監視はされているみたいだがな」


 センサーには生体反応を示す白い点が相変わらず点滅をしている。


〈ああ、センサーも正常に作動している。しかし、おかしいな、センサーも効かないとデータにはあったのだが〉


「まだ入口みたいな物だ。この先何があるかわからん。索敵だけは怠るなよ」


〈分かっている〉


 目視が効かないとはいえ、センサーも順調に作動し、マッピングも進んでいる。操縦もオートで正直俺にはやる事はほとんど無い。


「拍子抜けだな……」


 そろそろ、一周回ったところか。本当にここまで何もなかった。別に危険な事に期待をしているわけでは無いし、生き残れるのに越した事はない。何もない事が一番なのだが、この重装備を持ってきた意味が無い。ここまで順調に来ると欲も出てくる。


〈さて、このまま続けるか。それとも今日の所はギャレイに戻るか、どうする?〉


 まだこの位置からだと、ギャレイに戻る事も可能だ。しかし、時間を無駄にしたくは無かった。とっとと、こんな任務を終わらせたかった。


「このまま進めよう。別に野宿になってもH.M.Aの中だったら安全だろう」


〈わかった。このまま進む〉


 俺たちは、暗闇の中、奥に進みはじめた。


次回の更新は18日、朝7:30となります。

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