第六話--黒き森--01
俺たちは任務の目標地点に向かっていた。今回はソロでの任務だ。子守りをしない分、俺的には気が楽だった。
〈目標地点まであと10分ってところだ。そろそろ目を覚ましておけよ〉
「今日は寝てないよ。わかってるだろ?」
〈念の為に確認だ〉
念の為だと?俺が寝惚けて任務をしくじった事があるか!コイツはわざと俺をイラつかせてるんじゃないか?
俺は一つ気になる事があった。
「おまえ、この前のアレははどうしたんだ?」
〈アレ?何のことだ?〉
何を警戒しているんのかわからんが、コイツはとぼけてやがる。
警戒するに越した事は無いが、ここには俺とコイツだけだ。しかし、コイツが警戒すると言うことは、俺たちの会話は盗聴されていると思っていい。
「とぼけるなよ」
俺は盗聴されている事を理解した上で聞いた。別に聞かれて困る事は無い。
〈アレの事か?アレだったら、テスト結果が良く無かったので細かく刻んで、裏に捨てておいた〉
「捨てた?」
〈ああ、捨てた。ついでにAtlasにも情報を共有しておいたから、彼女も同じようにしたと思うぞ〉
まあ、要約すると、『細かく分割して、隠しコンテナに入れて、ついでにduoのAtlasにも同じ事をさせた』と言うことか……
盗聴されてるとは言え、下手くそな伝え方だ。もっとマシな言い回しは無かったのか。俺は少し呆れていた。
いや、待て?「彼女」と言ったな、コイツ。
「おい、彼女って誰だ?」
〈AtlasのA.Iだが〉
どう言うことだ?A.Iにも男女の性差があるのか?
〈私は男性の思考をベースで作られているが、AtlasのA.Iは女性の思考をベースに作られている〉
なるほど、だから彼女ね……duoには合ってるかもな。
〈おかしな事ではあるまい?それよりもお前は大丈夫なのか?〉
「何が?」
〈いや……〉
A.Iの言いたい事はわかっている。どんなに記憶を消去処分されようと、俺には記憶が……と言うより、コイツのログのように記録が残っていると言う事を知っているのだ。
断片的に残っている記録は、再び繋がり合わさり、俺の記憶となる。そうやって俺にはつながった記憶が蓄積されていく。俺の記憶を全て消去するには、再フォーマットするしか無い。
〈重くはないか?〉
重くはないと言えば嘘になる。俺が生きている限り、記憶は蓄積され続ける。
実はduoとメシを食ったのも今回が初めてではない。友と言われたのもあれが初めてではない。実際は、断片的な記録が繋がり合わさるまで、一時的な記憶の混濁があるのだが……
俺以外の奴らには、そんなものは無い。だから事あるごとに不都合な真実となった記憶は消去され、俺の中には断片として残り続ける。俺の記録の断片がつながった時には、奴らの中には俺はいないのだ。
だから……だから俺は人との関わりを避けてきた……
「重くはないよ。いつもと同じだ。そしてこれからもな」
〈そうか……すまん……〉
A.Iは機械らしく無いおかしな事を言った。
なぜお前が謝るんだ?
「何、変な事を言ってるんだ?お前のせいでも無いだろう?これは俺の問題だ」
〈そうだな。うまい言葉が見つからなくてな……〉
機械のくせに、俺を気遣おうとしたのか?本当にコイツは、俺よりもヒトらしいところがある。
〈そろそろ、目標地点だ〉
「ああ、この話はこれで終わりだ」
俺はそう言うと、索敵モニターで位置を確認した。
うん?何だここは?
「おい、本当にここが指示された目的地だろうな?」
〈ああ、座標上は間違いない……しかし……ここは……〉
俺は、メインモニターでもう一度確認した。不毛な大地の先に「黒き森」が見える。
次回の更新は11日、朝7:30となります。




