第五話--それぞれの思い--06
俺はA.Iに操縦を任せて目を閉じていた。しかしある疑問が頭によぎっていた。
そう言えば……
「おい、今日はお前、何も文句言わなかったな」
俺はA.Iに聞いた。
〈どうせ何を言ってもお前は聞かないだろう?〉
A.Iは皮肉をこめて答えた。確かにその通りなのは間違いないが。
〈人間の理不尽さには、随分と慣れたつもりだ〉
わかったような事を言う。しかし、コイツなら止めようと思えばどうにでも出来るはずだ。
「理不尽って言う割には、お前は協力的だったじゃないか」
俺も皮肉を込めて返した。
〈……〉
A.Iは何も返してこなかった。都合が悪くなるとコイツは黙る。いつもの事だ。
「しかし……」
俺には一つ疑問が残った。
〈AtlasのA.Iか?〉
コイツも同じ事を考えていたらしい。
〈私が推測するに……〉
A.Iは何かを言いかけた。コイツが言いたい事は、多分……俺と考えている事と同じだ。だから俺はA.Iを遮った。
「いや、良い。何も言うな。知らなくてもいい事ってあるだろ?」
〈やはり、人間は理不尽だ〉
A.Iは不満気だった。
俺が真実を知った事でどうなる。全てを知った所で何も出来やしない。知らない方がいい事もあるんだ。
俺はそう思いながら浅い眠りについた。
〈SIN、都だぞ〉
俺はA.Iの声で目を覚ました。
「おい、何かハンドラーから言って来てるか?」
俺はA.Iに聞いてみた。奴が何か少しでも異常に気がついていたら、処分をしたくて手ぐすね引いて待っているだろう。
〈いや、何もないぞ〉
「そうか……」
俺たちは搬送部隊に続いてハンガーにギャレイを入れた。
《ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ》
「来たな……」
ハンドラーからの通信だ。俺は気が進まないが通信に出た。通信に出ない方が怪しまれる。
「任務ご苦労だった。αチームのunusから話は聞いている」
unusが上手い事やったみたいだ。俺は内心安堵した。奴に限って無いとは思うが、自分の保身のために、裏切りが無いとは言えない。悲しいがそういう世界だ。
「明日の任務は追って知らせる。何か質問は?」
αチームに何もなければ、こんな奴には用はない。
「別に」
「今日の事は不問にしておく。いいな二度目はないからな」
奴はそれだけ言うと通信が切れた。
やはり、奴は俺たちの通信を聞いていた。
しかし、おかしい。なぜだ?なぜ処分が下らない。
決して奴は今回の事を見て見ぬふりをするような良い奴では無い。逆に嬉々として処分を下す様な奴だ。unusが何か取引でもしたのか。俺は半ば混乱をしていた。
いや、深く詮索するのはやめておこう。お咎めなしならそれに越したことは無い。皆、無事ならそれで良い……
俺は自分に言い聞かせた。奴の行動の裏に何かがあろうとも、今日を無事に過ごせるならそれに越した事は無い。
どうせ、明日には全て無かったことになっているのだから……
俺がギャレイから降りると、unusとtresがduoを囲んでいる。tresは目に涙を浮かべているようだ。本当にいいチームだ。unusが俺に気が付き軽く頭を下げた。俺は小さく手を上げ返事を返すとハンガーを後にした。
リン、静かに眠ってくれ……いつかお前の周りに綺麗な花が咲くといいな……
次回の更新は7月4日、朝7:30となります。




