第五話--それぞれの思い--04
俺のA.IがAtlasのA.Iとリンクを取り始めた。
俺も無茶な事をする。プロテクトを外すなんて、泥棒が鍵を開けてくれと頼んでいるようなものだ。そんな馬鹿な事をする奴が何処にいる。セキュリティコードに引っ掛かって弾かれるに決まっている。
〈SIN、出来たぞ〉
「何?出来たのか?」
あまりにもあっさりとセキュリティコードが外れたので、俺は信じられなかった。
「本当に出来たのか?タチの悪い冗談じゃないよな?」
〈あちらさんが協力的でな。すぐに教えてくれた〉
俺は、意外な答えに驚きを隠せなかった。まさに泥棒に家人が鍵を開けてくれたわけだ。うまく行かなかったら最悪、俺はAtlasのA.Iの制御を奪ってでもプロテクトを外すつもりだった。それだけ「H.M.A」の認識コードとは大切なものなのだ。
「H.M.A」の個体識別、アイデンティティと言っても良い。自分が自分である為のコードなのだから……。
それをすんなりとAtlasが教えてくれるとは思いもしなかった。
「お前、まさか脅して無いよな?」
俺のA.Iは目的の為だったら押し込み強盗でも何でもやる。
〈馬鹿を言うな。俺がそんな下品な事をするわけがない〉
どうやら嘘は言ってないように見える。
それにしても……まさか……
AtlasのA.Iもduoの心を読んでduoのやりたい事を理解してると言うのか?
まさかな……もしそうだったとしたら……
いや、今は考えるのはやめておこう。いずれにしてもAtlasが協力的なのは良かった。これからやる事の成功率も格段に跳ね上がる。
「よし、その認識コードを、位置情報マーカーにコピーして、搬送部隊のトレーラーにくっつけてやれ!」
俺はA.Iに指示を出した。A.Iはすでに俺のやりたい事を理解しているらしい。何の文句も言ってこない。それよりもduoの方が戸惑っている。
「ちょっちょっとおい、何だ?位置情報マーカーって?そんな物、俺には無いぞ」
「ああこれか?昨日ちょっと作ってみたんだ」
「作ったって、お前そんなもん作って良いのかよ?」
duoの疑問ももっともな事だ。
「別に必要だから作っただけだ。俺はソロだから自分の位置は自分で確認しなければならん。誰も行った事の無い所に出向くなんざ当たり前のようにあるしな。そう言う所に入る時は、コイツをばら撒きながら行くわけだ。迷子はゴメンだからな」
「なるほどなぁ。ソロって大変なんだなぁ」
duoが変な所に感心して聞いている。
本質はそんな所にあるのでは無いのだが、今ここでコイツに説明してもしょうがない。納得しているのならそのままにしておこう。これが、βチームの奴だったら、規約違反だ何だとめんどくさい事になる。
duoが単純なやつで良かった。
正直俺は、こんな所でこれを使うとは思ってもいなかった。本来の俺の想定とは全然違う使い方だ。テストも無しのぶっつけ本番で上手くいくとも限らない。かなり危険な賭け、いやこんな事は賭けとも言えない。無謀以外何者でも無い。
もしこれが上にバレたら良くて精神教育にA.Iの再インストール、最悪処分対象だ。どの道、俺たちの関係は終わる事になる。
子守りとはいえ、unusも面倒臭い役目を押し付けたものだ。
それとも俺の気持ちも考えてくれた奴なりの優しさなのか……。
今更そんな事を考えても仕方が無い事だが……duoもこれがどれだけ危険な事なのかはわかっているだろう。ここまで来たら一か八かやるしか無いのだ。
「おい!duo!マーカーを作動させたら、こっちの認識コードをオフれ!できるな?」
「そんな事やった事がない」
duoは戸惑っているが、それも当たり前の反応だろう。普通は絶対にやらない事をこれからやるわけだから。そもそも認識コードが何処にあるかなんて事も知らないかもしれん。
「A.Iに教えてもらえ!お前のA.Iなら教えてくれるはずだ」
奴のA.Iが協力的であることは認識コードをコピーさせてくれた時点でわかっている。これからの事も協力してくれるはずだ。
「よし、マーカーを射出するぞ!手順はわかったな?タイミング合わせろよ!」
「ああ、何とかなりそうだ。A.Iがサポートしてくれる」
俺の睨んだ通りだった。
「いくぞ!マーカー射出!」
ギャレイからマーカーが二つ射出され、先行しているトレーラーに接着した。
「マーカー作動開始!duo!認識コードを切れ!」
「よっしゃ!」
「よし、隊列から離れるぞ」
俺たちは、搬送部隊から離脱した。索敵モニターには搬送部隊のマーカーと俺たちのマーカーが並走している。
「ふぅ。どうやらうまく行ったみたいだな」
俺は安堵の溜息を吐いた。これでひとまずは「ハンドラー」の目を誤魔化せる。そんな俺の心配を他所にduoの奴は、はしゃいでやがる。
「やったぞ!リン!これが自由って奴だぞ!誰も監視してないんだぞ!」
俺はduoの能天気なはしゃぎっぷりに呆れてもいたが、何も言うつもりもなかった。アイツはリンとの最後の思い出を作ろうとしているのだ。
それが、明日には俺たちの記憶から無くなろうとも、今はただ、リンとの最後の思い出を楽しめば良い。
短いリンとの一時を楽しめば良い……
次回の更新は27日、朝7:30となります。




