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SIN〜第一部〜  作者: 冬馬
第五話

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第五話--それぞれの思い--02

「ちゃんと任務をこなして帰って来るのよ。あなた、どこか抜けてるからお姉さんとしては心配なのよね」


 tres(トレス)duo(ドゥオ)に勤めて明るく声をかけた。普段の二人のやり取りと変わらない。duoに重荷を感じさせない為のtresなりの気遣いが感じられる。


「お前な。誰がお姉さんなんだよ」


 duoもそれがわかっているのだろう。


「……大丈夫……ちゃんと帰ってくるよ」


 duoも普段通りに返事を返した。duoも仲間に気遣いができる程度には落ち着きを取り戻しているようだ。


 俺とduoは「H.M.A」を「ギャレイ」に収納し始めた。


「あっ!ちょっと待て!」


 突然、duoが声を上げた。

 「リン」の亡骸が他の死体と共に無造作にトレーラーに積み込まれようとしている所だった。捨てられた死体はゴミと変わらない。

 duoは慌てて「H.M.A」から降り、トレーラーの元に走って行った。「リン」の亡骸をトレーラーに投げ込もうとする「奴隷」と何やら話している。


「この子は俺が連れて行く」


「そんな事言われても……」


「頼むよ。責任は俺が取るからさ」


「わかりましたよ……俺らも気持ちは同じだから……」


 リンが「奴隷」達に可愛がられていた事がよくわかる。

 「奴隷」とて、感情を表に出さないが、ヒトを思う気持ちは同じなのだ。淡々と仕事をしていても、心の奥底にはどれだけの悔しさがあるのだろう。どれだけの諦めを経験して来たのだろう。


 duoはリンを受け取り、優しく抱きしめた。眠っているだけにしか見えないリンの顔を見つめると、慌ててスーツの袖でリンの顔を拭き始めた。


「なんだ、泥だらけじゃないか。女の子なんだからこんな顔してたらダメだよ」


「そんなんじゃ綺麗にならないわよ。これを使いなさい」


 tresが水で濡らしたタオルを差し出した。


「……tres……」


 duoは今にも泣きそうな顔でtresを見つめた。


「何よ。私も『リン』には元気を貰っていたのよ。これくらいさせてよ。シスコンのお兄さん」


「誰がシスコンだよ……」


 duoは誰にも気付かれ無いように涙を拭っていた。


「ありがとう……ありがとう。『リン』、綺麗にしてやるからな」


 二人は丁寧に「リン」の顔を拭き始めた。tresの頬にも一筋、光る物が見えた。遠巻きに見ていた「奴隷」たちも仕事の手を止め、二人の元に、いや「リン」に最後の別れを告げに来た。


「今までありがとな」


「お別れだな」


「忘れないからな」


「頑張ってたもんね、『リン』。みんな、あなたから元気貰ってたんだよ」


 三人を残して「搬送部隊」は何事も無かったように、大きな音を立て、順に出発し始めていた。


「SIN……頼んだ」


 unus(ウヌス)が俺にもう一度呟いた。


 わかっている。最悪の事態にはならないようにしてやる。


「大丈夫だ。必ず連れて帰るよ」


「すまない……」


 duoは綺麗になった「リン」を「ギャレイ」の助手席に丁寧に座らせた。


「外の世界を見たいって言ってたよな。特等席で見せてやるよ」


 duoは「リン」に優しく語りかけた。


「SIN待たせたな。行こう」


「ああ、行くか」


 俺たちは先行している「搬送部隊」を追いかけるように「ギャレイ」を発進させた。


 unusとtresは俺たちを、いつまでもいつまでも見送っていた。これから、二人は拘束され、俺たちが帰還するまでの間、長い時間を独房で過ごさなければならない。


「ごめんな……」


  duoが小さく呟いた。



「追いついたぞ」


 俺たちは先行していた「搬送部隊」の隊列に追いつくと、列の最後尾に付いた。この隊列はまるで砂漠を旅するキャラバンのようだ。ただ、これは「旅」みたいなロマンチックな物ではなく「ゴミ捨て」なのだが。


 俺はA.Iに「遠距離索敵シーカー」を射出させた。一応、任務を装う為にログを残さなければならない。モニターが索敵範囲を映し出した。


「duo俺の索敵データを送るぞ。お前の『A.I』とリンクさせろ」


「ああ、わかった。しかし、お前の『H.M.A』は面白い物積んでるな。さすが特別製だな」


 変な所に感心しているな。「シーカー」の設計データはサーバーにアップされているはずだが。


「お前のには無いのか?」


「あるわけないだろ、そんなもん。俺らはチームで動くから、そんな広い索敵なんて必要ないからな。お前と違って得体の知れない者と戦うわけでもないしな」


 一瞬、duoが言い淀んだ。


「……すまん。余計な事を言った」


「気にするな」


 コイツの言う得体の知れない者……。ヒトなのか、何か別の生命体なのかはわかっていない。そいつらを駆除するのも俺の仕事の一つだ。


 その仕事のおかげで、俺が他の「奴隷」達から避けられているのも知っている。


「自分が何と呼ばれているかなんて知っているさ。だから気にするな。俺も気にしちゃいない」


 コイツは本当に人が良い奴だ。いや「αチーム」の連中は、メンバー全員が他人を気遣うお人好しだ。こんな性格ではこの世界では長生き出来ない。生き残っても良い事なんぞ何もないが、俺はコイツらには長生きしてもらいたいと思っていた。

次回の更新は20日、朝7:30となります。

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